episode7 そして救い
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ガチャ

ちょうど先程落とした鍵はここの部屋のものであっていたようだ。
重たい足を引きずって部屋の扉の前の辿り着く。

キィと音を立てて木製の扉が開いていく。

中は暗いはずなのに、何故かそんな気がしない。地下室はひんやりと肌に吸い付くような寒さがあったが、この部屋は少しだけ暖かいような気がする。

「……ここは?」

そっと灯りを点す。

今度は、異常な光景なんて広がっていない。
小さな机に本棚、萎れた花が飾られた花瓶、ここに来てようやくまともな光景を目にした。思わず拍子抜けする。
部屋の様子をぐるりとその曇りきった汚い汚い眼球で見渡した。


【探索開始】

二日目 地下室

????の部屋

セレーネは懐かしい香りを感じた。
今はそれが、凄く鼻にこびり付いて、信じたくなかった。
頭に思い浮かぶのは黒いベールの彼女のこと。

ミア・リッピンコットは中に入ると聞こえるオルガンの音は、調律が狂っていて不快だった。
レクイエムの楽譜がそこにはあった。
そういえば????は最近、オルガンを新調していたような。そんな事を思い出した。

イザベラ・リッピンコットは立ち止まった。
窓がない。灯がいる。
地下室なんだから当たり前だ。光のささないこの部屋はほかの部屋より一段と暗い気がした。

アーノルドは懐かしい香りを感じた。
今はそれが、凄く鼻にこびり付いて、信じたくなかった。

この部屋は何だかとても見覚えがあるような気がした。

ガルシェは小さな机を見た。
オルゴールは血まみれでさびて動かなくなっている。信じられない。
狂った調律はもう何のメロディも奏でない。

ローワンは花が飾られている。
????は花が好きだったのに。今はもう枯れていた。


リンダは青ざめた。ボロボロのぬいぐるみがある。
何度も何度もナイフで引き裂かれたあとがある。

なぜ?
⁇⁇の仕業なの?


フロイドは壁を眺めた。
あの日でて行った子供達、自分たち九人の写真。ひとりひとりの写真が飾られている。写真の下には日付があって、日付がすぎたものは顔に大きなバツが書かれていた。

「みんな……」


ペルセイは本棚を見つけた。
そこには何冊も同じような聖書が揃えられていた。ふと、外の本棚には1冊だけ血塗れの聖書があったことを思い出した。

【貴方はその中から1冊本を手に取った】

聖書だと思ったが色あせたその本は背表紙こそ他のものと変わらないように見えたが、手に取ってみれば別物だとわかる。

「随分薄汚れた……。これは手記か?だいぶ前の物みたいだな」

ローワンがぷらぷらとそれを摘みもつ、もっと丁寧に持ちなさいよとリンダがたしなめていた。

「中にはなにが書いてあるの?」
部屋の机に元から置いてあった簡素なロウソク台にも灯りを移せば部屋の中が一気に明るく染まる。全員の表情はそれに答えるかのようにどんどんと暗くなっていくような気がした。

もう今更何があった所で。

そんな絶望が表情から読み取れる。
それを慰め合うことも、もう必要が無いと思った。

汚れた手記を手にし表紙のほこりを手で払えば、誰かの日記にも思える。
そっと慎重にページを捲った。

手に冷や汗が滲む。



_______________パラリ






いつから此処にいたのか、覚えていない。
記憶は曖昧である。
昨日の天気は晴れ、日記に昨日の天気を記録するのはおかしいだろうか?
でもそうしないと昨日の天気ですら忘れてしまいそうだ。
彼らは今日も元気でその笑顔は曇りひとつなく輝いている。
彼らは知らない、でも私は知っている。

当たり障りのない日記のようだ。どこか機械的な感情で日記というよりは記録されたといっていいそれをパラパラとめくる。

「これは……誰の………。」

次のページをまた捲る。


昨日の天気に引き続き今日の天気も晴れ。
晴れの日は洗濯物を干すのに丁度いい。
それを手伝ってくれる彼らは本当に心優しい。
彼らは知らない、でも私は知っている。
曖昧な記憶の中で確かに私を証明させる事実。
この部屋であの部屋で行われる全て、それだけが私を証明してくれる。私は知っている。


日々の記録いや日記か、これがいつ書かれたものかは分からない、だが日記の量や、黄ばんだ紙を見れば随分昔のもののように見える。
見慣れた字の羅列をなぞる。
「……これはいつの話を?」
いや、そんな事よりもこれは誰の……。

聖痕が。
浅ましい聖痕が。
熱い。



昨日の天気は曇り。
また彼らのひとりを断罪した。
あの地下室のカタコンベも様になって来たように感じる。可哀想だと思う。この世に生まれてきたことが。
主よ、どうか救いを。
彼らの罪は消えない、どんなにどんなに償っても神は彼らを許さない。


彼らは知らない、でも私は知っている。
彼らは罪人。
私は断罪を下す神の使い。
………………………。
私の名は。


彼らは私を

_______________SISTERと。


毎日綴られていた日記はこの日から間を開けて書かれるようになっている。
「この日記は、シスターの……」
痛い。

この暗い地下で彼女の丁寧でお手本のような字がまた見れるとは思ってもいなかった。ただ、その文章は普段の彼女のものより少し肩苦しいような気がする。
あの部屋で行われていたことはシスターの仕業だと彼女の字で書かれていた。本当に、シスターだったの仕業だったのか。

またページをめくる。



主よ、彼らは18になるまでを此処で穏やかに過ごしています。
私は修道女で、彼らは罪人。
私は……。


ページをめくる。


彼らは笑顔で、私をシスターと呼び慕います。
私は笑顔で、それらに答えます。
彼らは神からの預かり物なのです。
私は修道女で、彼らは罪人ですから私は神からの使命を全うします。
私は知っているから。でも彼らは知らないから。
あぁ、神よ。主よ。
私は
自分が
………………
罪人のように思える。

ページを。


今日も彼らを断罪すべく苦しめて、苦しめて、殺しました。
私は本当に修道女でしたか?彼らは本当に罪人ですか?
主は答えてくれませんね。そうでしょう。
いつしか神の声も朧気で微かにしか聞こえなくなってきました。
私は知っていた。知っていたはずで知らなかった。
彼らは……。

どうか主よ、彼らを赦して。
彼らは知る必要がある。


またページを。

………………。

ここから先のページは白紙だった。

この日記には日付がなく、いつ書かれたものか分からない。
パラパラとめくり続けていると、最後のページにだけなにか書かれている。走り書きのようでシスターにしては酷く乱雑な字だった。それがどうにも人間味を感じてほっと安心する。











私めのこの罪をここに。
嘘をつきました。

彼らは何も知らないのです。

水平線の向こうに存在するまだ見ぬ地を。
栄えある港の海風の匂いを。
煌めくショーウィンドウの輝きを。

それを教えられなかったのは私です。外は穢れていると彼らに嘘をついたのです。
その穢れなき心で私の言葉を信じてくれた子供たち。
どうか私を許さないで。
そしてどうか、神を恨まないで。
自分を傷つけないで。

たとえその身に悪魔の血をひこうとも、貴方たちは聖痕の呪いによって苦しめられるべき命でない。
明日を生きる資格があって夢をみる権利があるの。

私はこれまで多くの‘ あなたたち’を苦しめ、殺め、神の元へと‘あなたたち ’がどうかその罪を償い神のお許しを得ますようにと願ってきました。私は間違っていたのです。神のお許しなんて必要が無いほどに、‘あなたたち ’は穢れない純粋無垢な私の愛する子供たちだったのに。

何もかも知っていた私は、何も気づけていなかった。それが私の罪でもあったのです。罪のない子供を殺す修道女が何処にいましょうか。この命をもって、‘ あなたたち’に本当の真実を伝えたいの。





傲慢

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憤怒

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虚飾
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暴食
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強欲
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憂鬱
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色欲
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怠惰
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その身体に刻まれし聖痕は、神の呪いでは無い。
赦しを、償いを求めた者への祝福です。‘ あなたたち’の罪はとうに裁かれ、神によってその生命をうけたのです。外へ、外の世界へ行きなさい。その曇りなき眼で、どうか燦然たる明日を見つめなさい。世界は貴方たちを祝福するわ。

そう、初めから罪人は私1人だけ。

神の子を、愛する私の子供たちを殺し続けたのだから。

もう私には、神の声が聞こえない。あぁ、貴方たちの笑い声だけがこの穢れた教会で響くこと。私の胸がこんなにも痛むこと。私の罪がどうか赦されませんように。貴方たちの煌々たる次の日がどうか健やかなるものでありますように。

子供たちが私の願いを1つ聞いてくれるなら、
どうかこの教会を私の骸と愛する子の魂と一緒に燃やしてください。此処にはもう二度と来る必要はないのだから。

子供たち、貴方たちはとうに赦されているのです。
穢れなき心をもった貴方たちが罪人だなんて誰が糾弾できましょうか。

あぁ、知らなかった。

私がこんなにも貴方たちを愛していたこと。

嘘言しか吐けなかった私が、最後に貴方たちへひとつの真実をここに告白しましょう_______。

そっと綴じる。
もう続きはない。

「シスター……貴方は……」

教会で過ごすあのシスターの笑顔が嘘ではなかったこと。僕達に残されたただ一つの最後の救いだ。蜘蛛の糸を掴むことができるのなら、私たちはこの先の世界へ登ることができるのか。

今ならば……。

______

神がいた。
女がいた。

女は神の下僕だった。

古くから、聖痕の受けし罪人を神の代理人としてその罪とその償いを見定め続けた。
償いを求めない者には死を、神は彼らの身に呪いの印を授けた。
彼らの血は赦されない、裁きを受け続ける。この先も、未来永劫、永遠に!

そう、永遠に。

_____。

そのはずだった。

女は、赦したのだ。彼らの血を。

赦しを与え、彼らに祝福を贈ることを望んだ。
それが本当に神の意志だったのかは分からない。彼女にはもう神の声はとうに聞こえていなかったから。

人間と同じように心を持ってしまったから。

神によってだったのか、それとも自分の罪を償ったのか最後に女は裁かれた。その命をもって未来を託して。
きっと彼女は何度だって彼らを救っただろう。
たとえ何があっても、彼らの幸せを願って。

________

気づけば頬に一雫がつらつらと流れてゆく。

誰も彼も言葉を失っていた、口からは嗚咽が漏れ出していく。

シスターの死は天誅だったのだろう。自分からその死を望んだのだろう。

そして最後に残された自分たちだけがシスターの懺悔、償いの形そのものだとゆうのだろう。

誰もシスターの名前なんて知らなかった。僕達は名前も知らない皇女様を信仰して勝手に騙された気になって勝手に......。あわや、家族とも等しい自分たちの中に犯人がいるなんて疑って背中を向けて寝ることも出来ずにいたの。

そんな私たちを悪人じゃない、と言って赦してくれたシスター。これまで彼女がやってきたこの事実は消えることがなく、その証明として多くのものがここに残っている。それをこの地下に下る度に何度も見て彼女は酷く心を痛めたのだろうか。その事実だけを酷く恨んで自分が苦しかっただろう。

神の声が聞こえると、私たちを殺せとそんな洗脳にも近い声が彼女には聴こえていたのか。そして何時しか、それが聞こえなくなる頃彼女は人間の心を手にしてその代わりに今度は自分が悪人と成り果てる。それに気づいた時彼女はあの笑顔をあの暖かな笑顔を冬の星空のごとく凍らせて涙を流したか。

分からなかった、何もかも。今思えば、あれだけ信じていた彼女のことを僕達は何も知らなくて何も分からないままだ。最後まで彼女自身から声を聞いたことは無かった。
思い返すのは、熱心に神に何かを懺悔する彼女の滑稽な姿だけ。

「どうしたらいいの......」

突然、どしゃぶりの現実が押し寄せて混乱する間もなく絶望の縁に立たされていたのに。

「俺たちは、罪人じゃなかったって......。シスターは自分の死を持って証明したんだろ。」
紫髪に隠れた彼の目頭が熱く燃えるのが見える。

「それなら......。することは1つだろ......」
するべきことは分かってる。

今はもう、この手が汚くない事を彼女が分からせてくれた。
この手で生きることを赦してくれた。

双子が涙を堪えていた。その小さな手をぎゅっと握りしめて、ふるふると頭をふりながらごめんなさいと何度も呟いている。

そんな彼女たちを抱き締めて大丈夫だと、ペルセイが慰める。その表情は幾らか暗く、目線の先がうっすらとどこか遠くを見つめていた。

リンダが呆然とその場に立ち尽くし、その手を握りしめる。爪がくい込むのさえ彼女が気にしないので、ローワンがそっとその手を掴む。もういいんだ、と言葉にはしなかった。

フロイドがずっと彼女の言葉が書かれた手記を握りしめて離さない。

燃やすんだ、手記を取り上げアーノルドが言う。

暗く酷く怖い顔したガルシェの背中をセレーネが撫でる。

ねぇ、これから私たち。

_____________

地下室をでて、一度も使ったことがなかった外出用の真っ黒なローブを身につけた。手にしたのは、マッチ。

大量の油を教会中にばらまいて、後は火をつけるだけ。


みんなで一緒に。

それなら、大丈夫。
ごめん、さっきは。

みんな一緒だよ。
大丈夫。
手を離さないでいて。
ごめん、ごめん。

真っ赤にゆらゆら揺れる炎を手から離し、何年も何年も過ごした教会に火をつけた。

ここで出会って、喧嘩して、笑って、泣いて。

ただ生きているだけで罪人と決めつけられ、いずれは死ぬ運命だった僕達をその命を持って赦してくれたSISTER。

貴方の本当の願いは、この教会を燃やし私たちが外の世界へ出ること。
それなら、僕達がすべきことはひとつでしょう。

敬愛なるSISTER。真実なるSISTER。

最後に微笑んだ貴方のあの顔が忘れられない。恍惚に歪んだあの笑顔が......。

怖い......?
ううん、怖くないよ。

大丈夫。
外に行ったらまず何をする?
海を見に行こうよ。
汽車に乗ろう。

あんなに穢れていると思い込んでいた外の世界は僅かな街灯に照らされ輝いて見える。また涙が浮かんでくる。今日で泣くのは終わりだ。この先はもう、幸せに生きていくんだ。

そう誓って、山を駆け下りていった。

後ろを振り返りはしなかった、もう二度と戻らない。戻らない覚悟ができた。

貴方の顔が酷く輝いてみえる。

貴方の笑顔を見たいと思う。

私たちが罪人なんて、酷い戯言だった。
やっぱり、そんなはずなかった。

今となっては面白い冗談のようだ。

今日見た全ての光景が自分たちの都合の良い方向に改ざんされていくのを感じる。
人間の思考とは所詮そのようなものだ。
今日という日を二度と忘れないと、覚悟を決めて微笑むその顔がまたも滑稽に映るので神様は今頃笑っているだろう。

ともあれ、SISTER。

貴方の願いは叶ってこれから子供たちはきっと大人になってそれぞれの人生を歩んで幸せに暮らしたのでしょう。


STIGMA
その身に宿る聖痕は永遠に刻まれたまま。


____________


クリック


おかしな話よね。

誰が私たちを罪人だなんて糾弾できたのかしら。
今思えば、あの光景は全てまやかしだったんだわ!
幼い頃の酷い悪夢だったんだわ。

少女の笑い声がする。

「.......................................」

「..................???」


「.........ぁ.........」

「........ひど............め」

ぱちりと重い瞼を持ち上げた。
今日は朝食当番なのだ。
SISTERは、喜んでくれるかしら。



_________



「あぁ!神よ!お許しくださいこの罪を!」
誠に残念ですが、神の断罪は______。






end………?





クリック


彼女は黒いベールを纏って、教会に備え付けられた懺悔室のその先の部屋へと進む。その後ろにはそんな彼女に笑顔で着いてくる1人の子供がいた。

今年で18になり、最後のお祝いに渡したいものがあるのとシスターに言われてその言葉通りに彼女に連れられるまま地下室へと連れていかれる。その先に待っている光景を彼が見た時に、悲鳴を上げたのはあの地下墓地に広がる数々の白骨化した死体を見たとき。

「どうしてこんな恐ろしい場所に自分を連れてきたの?」と、困惑した顔でしかしまだ彼はシスターを信じていてその姿がとても胸が苦しい。

「それは、貴方を……」

殺すためだと、後ろから重い鈍器で何度も何度も殴り殺した。

その最中ずっと彼がどうしてと叫ぶものだから、貴方が罪人だからだととても冷酷な声で教えてやれば彼は嘘だとまた泣き出す。
そうして罪を認めないその姿こそが罪そのものなのに。
なんて愚かな生き物だろうと、私は思う。

ただ彼のボコボコになりもはや原型をとどめることの無い死体を片付けている時、ふと思う。

彼に本当に罪はあったのかと。

いや、それは分かっている。知っているのよ。

彼が6つになった時、神からのお告げの声がした。それは私に対して洗脳にも近く、恐ろしいものだった。

それでも、私が私であった時から私は神の声に従いし者であり神との意識を共有しそして神の意志を継ぎし者であったのだからその声の通りに彼らを迎え入れそして歳がくれば殺すのが私に課せられた役割なのだ。従う他あるまい。

私が何者であるかは、声が証明する。
だから、この行為は全て断罪であり神の意志である。





_______





「シスターは優しいね」
「シスターの手ってあったかい」
「怒ると怖いんだ、シスターは」
「シスターは世界一美味しい料理人だわ!」
「シスターの笑顔はマリア様みたいだ」
「いつかシスターみたいになりたいな」
「ありがとう、シスター!」
「貴方は僕達にとって……」

ねぇ、子供たちの声がするの。

「助けて!助けてよ!シスター!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「怖いよ、なんでこんなこと!?」
「どうして!なぜ!」
「酷い、今まで全て嘘をついていたの?」

子供たちの悲鳴がするの。

こんな私を愛してくれた無知な子供たち。
こんな私を最後まで恨まなかった子供たち。

私は貴方たちが証明してくれるような私でありたいと何時しか思ってしまう。
神の与える私ではなく、子供たちの与えた私でありたい。

そう思い始めた時、あれほど聞こえていた神の声が通信が切断されたかのように何も聞こえなくなっていた。

私は神の代理の断罪人であった、その神の声が聞こえないのならばこれからどうしろと言うのかと考える。


「神は赦しを与えたの?」

私が子供たちを愛したときに、神は子供たちを赦したのかもしれない。

そうだ、そうに決まっている。

この子供たちが罪人であるなんて、初めから間違っていたんだわ!
………初めから神の声なんて信じていた私だけが愚か者だった。

…………。
覚悟があった。
決心があった。
貴方たちを真実、救おうと。

でも、あと少し少しだけ待って欲しい。
せめて、貴方たちが大きくなって1人でも生きていけるまでは。
それは、私の小さなエゴかもしれないけど私が初めてで最後に願ったことだったの。
どうか。

あぁ、どうか。




__________




いつしか聞こえなくなった神の声が、今は酷く滑稽であれが全部嘘事でわたしの幻覚だったのかもしれないと。

私が異常者だったのかもしれない。

ただ、私が私として意識があった頃には私はこの教会にいて、そしてお告げのあった子供たちを迎え入れていた。それは、きっと人間では到底生きていられないほど昔の話であったし、私は老婆のような白髪の容姿も随分前から変わることもない。

外の世界では伝承のように話されているかもしれない。その事実だけは消えない。

子供たちの笑顔がとても愛おしくて、きっと私はもうあの地下室で神への儀式を執り行えない。

震える手が動いて、あれだけ握って子供たちに刺して遊んだナイフが握れない。

自分の番になれば怖いという感情が芽生えるのか。そんな感情が自分にあったこと、心底いつの間にか人間のようになってしまった。

それでは、ごきげんようと自分の胸に突き刺したそれが冷たく心臓を圧迫する。今まで鼓動を感じたことなんてなかったのに、トクドクと動いているのが分かるのでやはり、私はいつの間にか人間にでもなったのかと思う。

あぁ、最後のお願いと決めたのに。

あぁ、最初のお願いと決めたのに。

貴方たちの笑顔をもっと傍で見たかった。
私にはそんな資格がもうないのに。

いや、初めからなかったか。

最後に神様へ、あの子たちを赦してくれてありがとうと微笑みを空へと向ける。

礼拝堂に備えられた主が酷く酷く嘲笑うような笑みで私を捉えていた。

あ。

「………う、そ」

最後まで主は。


next………?



ending 独りよがり
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