episode8 re:君のいない朝
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日が昇り朝がやってきた頃、休息日には子供たちがシスターのためにと食事を用意するため朝から食堂には3人の子供が集まっていた。

ウリエル部屋のセレーネとガルシェそして今日の監督係としてローワンの3人だ。朝から騒がしく今日のメニューを決める。料理が完成する頃にはすぐに食堂に子供たちが集まり始めていた。おはようの挨拶を煌びやかな笑顔で返し、晴天に感謝をする。

今日という一日がまた平凡に始まるので、ローワンはふわぁと欠伸を料理の乗った皿に零していく。

「シスター遅いね」
全員が食卓につき、シスターの席だけがぽつりと空いていて不思議に思う。

きっと彼女なら礼拝堂にいるはずだよ、ペルセイがそう言えば何故か知れないが十分に納得してしまう。
何かが訴えていた、彼女は礼拝堂にいるのだと。

礼拝堂への渡り廊下を急いで駆ける。
おいでおいでと何かに手招きされているような感覚に手足が動かされてほんの少し嫌な予感がした。

細やかな装飾が至るほど施された礼拝堂の扉をゆっくりと開けば、また地獄が始まる。

次の瞬間には、少女の叫び声が響いていた。


__________



「死んでいたよ......たしかに誰かの手によって」

死体を見慣れた手つきで処理したのはガルシェだった。
可哀想に、またそうやって彼は辛い役回りになってしまうのか。

また......?



・・・

彼がその手を強く握りしめながら穴を掘ってきたことを告げる。

シスターを穴に埋めるなんて!いつもならそう言うかもしれないが、今回はそんなことを言うのさえ気だるさを感じる。
どれだけ取り繕おうと未来が、運命が変わらないことを知っているから。

......。


今回......は......?

ふとした時に、訳の分からない考えが頭にふつふつと浮かぶこと自分の記憶に、覚えがない何かを憶えていること。

不気味に思わずにはいられないのに、何故かそれを当たり前のように受け入れている自分たちがいた。

「この中に犯人がいるかもしれないだろ、おちおち寝てもいられないね」

捻くれ者の彼が嗤う。たとえば、本当に犯人がいたとして私たちはソレをどう受け止めて、どう罰を与えることになるのだろう。どうしてそんな悲しい言葉を言えるのか、仕切り屋の彼女が彼を責めるので、褐色の彼が不安そうに複雑そうにどこにも行き場のなくなった手で宙をかいた。

シスターが亡くなってからすぐに険悪な空気へと変わり果てたこの教会で、どうしてどうしてと疑問だけが募っていく。

口を開き、仲裁を行ったのは今はまだ輝きを失っていないハニーブロンドの彼だ。

「潔白を証明するために」

とても真っ当な謳い文句だ。
そういえば、醜い犯人探しの競走にだって足を踏み入れることが出来る。

それから彼女を土に埋めてやった。
今度はスコップの重みに驚くことは無かった。ただ、深く深く掘られたこの穴に自分も一緒に逝ってしまえたらどんなに楽なのかと。おぞましい光景に震える双子の手をそっと金髪の彼女がその冷えた手で包み込む。

とっても暖かいね、嘘をついた。そうすれば、悲しむことはないんだろうと思って。
わたしたちは麻薬のように虚言に取り憑かれている。

いつだって、面白可笑しくおどけてみせる彼ですらスコップを持った手が震えていた。でもその表情は酷く歪み口角がゆうに弧を描いていて彼がどれだけ耳を塞ぎたがっているか分かる。

僕達が何をしたっていうんだろう、そう呟いけば空からとても冷たい風がビュッと吹いてそれがどうも答えのように感じる。

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夜が巡る頃、誰一人としてベッドに真っ直ぐに行く者はいなかった。

本来であれば明日の朝から探索を行うつもりだったが今日の夜にでもランタンに灯りを灯し闇に染ったこの教会を回ることにする。

何も見つからなければ、いいのに。と思う反面、もういっそはやく真実を知ってしまってそれから......。とも思う。

やはりこの、自分たちの中に何者かがいるかのような感情の羅列が気持ち悪い。

はやく、はやく......。

勝手に足が駆け足になっていき、今度も真実の階段を登り始めていた。

【探索開始】


1日目の夜 シスターの死後

セレーネは足が竦んでしまった。 小さい時、この暗い廊下が怖くて泣いていると、シスターは蝋燭の灯りを灯 てしして く た。


ガルシェは足が竦んでしまった。 小さい時、この暗い廊下が怖くて泣いていると、シスターは蝋燭の灯りを灯 てしして く た。


ミア・リッピンコットは足が竦んでしまった。 小さい時、この暗い廊下が怖くて泣いていると、シスターは蝋燭の灯りを灯 てしして く た。


イザベラ・リッピンコットは物置にきた。 このオルゴール、こんなところにあったのね。シスターが外から帰ってきたときにお土産といって皆にくれたもの。随分昔のことだか もう音す 鳴な かい。


アーノルドは大部屋にきた。 ここにはオルガンがあってシスターがいつも弾いてくれた。きらきら星、シ ーが 教 くれ たんた だ。


ローワンは庭を歩いた。どうにも動く気にな ずが みこんでっ た。


リンダは○○が怖いと泣くものだから、トイレに連れ添った。1人で待つ廊下はい もより何だかど よりと 感 た。


フロイドは庭を歩いた。どうにも動く気にな ずが みこんでった。


ペルセイは「礼拝堂」に来た。 いつもシスターはここでお祈りをしていた。そういえば、この礼拝堂の奥には懺悔室があって、よくシスターはそこで何か懺悔を繰り返していたような...。
懺悔室には鍵がかかっていたはず。

鍵は シ ー の 部屋 だ たっけ。




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異常な既視感は、心当たりが数点あることが原因か。それとも。

めぐり巡り夜明けがやって来ることをこんなにも恐怖した日があっただろうか。何度もやって来るこの朝日を迎えるのに嬉々とした表情を手向けるような馬鹿者がいるのだろうか

こんな空、いつの日かも見た気がする。

涙がぽろりと零れていく。

報われることが無いことなんてとっくのとうに分かっていたのに。

この教会で犯人探しをして身内を疑う愚かな自分たちを滑稽そうに今も笑っている神とやらへ、願いを祈ることさえもはや無意味なのだろう。



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目が覚めた朝、太陽が眩しくてニワトリたちの声が騒がしい。

この教会の朝ともついにお別れがきた。
日記は一日の終わりに付けていたけれど、今日は最後の日なんだ。
この朝、ここにこの記しを残して僕は外の世界へ行こうと思う。

これから来る子供たちがもし自分の日記を見ることがあったらこんな人がいたと思い出して欲しい。

少しでもここに自分がいた証を残しておきたかったんだ。

朝食を食べれば、皆にお別れを言ってそれから外の世界へ行くんだ。はじめはどこに行こうか、この足なら何処へでだって行けるんだ。ずっとずっと向こうにあるっていう海だって見に行ける。

ほんのちょっとの恐怖とほんの少しの探究心。待ち受ける未来がたとえどんなに理不尽な事があろうとも。

行ってきます。

ありがとう、ぼくらのシスター。
愛してる、ぼくらのシスター。



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パタン

古ぼけた誰のものかも分からなくなった日記を閉じた。

未来が無いことがこんなにも恐ろしいことだと、誰も教えてくれない。

そもそも未来が待ち受けていないなんて、誰も想像がつかない。

望んでいた明日の光を浴びることは未来永劫とない。

それが罪、それが断罪。

裁きの時は終わらない

next…


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