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		<title>episode6.福音</title>

		<description>episode6.福音



2人の生徒の死を弔…</description>
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			<![CDATA[ episode6.福音<span style="font-size:x-large;"></span>

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/1_2023-03-08-19-22-57.jpg" alt="1_2023-03-08-19-22-57.jpg" class="pict" />

2人の生徒の死を弔うかのように学院には黒が敷かれ多くの生徒が悲しみに身を沈めた。あれから1ヶ月が経ち、青緑が茂っていた学院の木々はその彩りを赤や黄色へ変えてしまった。

つい先日までオレンジ色に不気味な顔を描いた南瓜が至る所に飾られ初等部の生徒たちがシーツをかぶりお菓子を貰いに回っていたのが懐かしい。それすらもまるで蚊帳の外にいるかのようで、ずっと透明な思考のままただ二酸化炭素を吐き出していた。その手に握られたシドのロザリオがやけに重い。

｢トニー、こんな所で何しているの？」
メインストリートに備えられたベンチに力なく腰掛けていたトニーに後ろから音も立てずに現れたキャロルが声をかけた。彼の後ろには高く昇った太陽があり、逆光でそのシルエットだけが目に映る。

あの事件以来生徒会は1ヶ月間、とても忙しく働いていた。それは部外者であるトニーが傍から見ても分かるほどで生徒たちの混乱を収めようと彼なりに努力していたみたいだ。こんな風に見回りを強化するといってよく生徒会の生徒が学院中を歩いている姿が見える。今キャロルがこの場にいるのもその見回りの一環だろう。
｢少し考え事をしてたんです｣

それは嘘だった。空っぽになった頭でぼうっと高くなった空を見上げていただけだが、優しい彼のことだからそんなふうに正直に話せば心配してしまうことは目に見えている。これ以上誰かに余計な世話をかけたくない。

「そっか、そうだよね」

何かを噛み締めるようにキャロルはそれを聞いて何度も首を上下に動かした。
「考えないといけないことは、山ほどあるから、ね……」
キャロルの表情は太陽の影でよく見えないがその視線は少し斜め下に向けられた気がする。いきなり強い風が吹いて、木の葉が彼の頭上を舞った。やけに冷たくなってきた空気があの暖かい日常を吹き飛ばしてしまうかのような。嫌な予感がまた胸を焦がす。
「近々また皆を集めようと思ってるんだ。あんなことが起こった後だけどまだ真犯人は捕まっていないから」


あぁ、やっぱり此処は____。


トニーはぎゅっと彼のロザリオを握り直した。


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


「この部屋は何に使われていたものか詳しく分かっているの？」


机の上に溜まった埃を人差し指で救うようにしてディオネはその視線を眼前の白銀の持ち主へと送った。その部屋には埃がカーテンから差し込んだ太陽によって光り輝いて舞っている。指にとった埃を蝋燭の炎を消すようにディオネはふっと飛ばした。

「さあ？上級司祭のものだったんじゃないかと思うが、ここに残っているのは汚れたアンティークと本だけだったからね。流石の僕もこれ以上は分からないな」
乾いた笑いでハロルドはディオネにそう返した。そう問いただした筈のディオネはその言葉に興味を示さず、部屋の様子にその視線をゆっくりと動かしているだけだ。彼女の態度に痺れを切らしハロルドは机に置かれていたはずのチェスの駒を手に取る。
「あぁ、でもこの部屋の持ち主はどうやらチェスが好きだったようだよ」
君の弟と同じだ、と彼は付け加え黒のナイトの駒をディオネに見せつけるようにくるくると回した。

「そう……チェスが好きだったのね。じゃあ今もどこかでチェスをしているのかもしれないわね」
弟という単語に反応したディオネはハロルドの言葉を反芻しこの部屋の元の主のことを目を閉じ頭に思い描く。

この部屋を見つけて部屋の隅に転がるように落ちていたこの黒のナイトを拾ったのはハロルドだった。それから、他の駒やチェス盤はないかと探したがそれらが出てくることは無かった。何の変哲もないただの黒のナイトはここに1人置いていかれたのだ。
「……その通りだな」
ハロルドはディオネの言葉に小さく相槌を返す。
一つだけ。この部屋にあったのは黒のナイトが一つだけだ。もしこの部屋の持ち主がそれ以外の全てを持ってこの部屋から出ていったなら彼はきっと新しいチェス駒を用意しなければならないだろう。

一つだけ残されたチェス駒を見つけた時、酷く落ち込んだ。たかが駒一つ彼はきっと新しいものに変えているのだろう。ハロルドにとってそれはとても残酷なことのように思えた。記憶の片隅に置いていかれ、のちに忘れられてしまえばそこには何も無いのと同じだ。実際にそこにあろうとなかろうと、覚えていないなら。覚えられていないならそこにはあってもなくても変わらない。何れは、自分も。

「あら、ハロルドさんは不服みたいね。大丈夫よ、誰も忘れたりなんてしないから。」
ね、と小さな子供をあやすようにディオネはゆっくりとした足取りでハロルドに歩み寄る。顔に出したつもりはなかったが、何処か悲しそうなハロルドにディオネは違和感を感じたのかもしれない。ディオネの醸し出す空気感に絆されてハロルドの調子が狂わされたのかも。またはその両方。

「簡単に言ってのけるな、レディは。忘れない事なんてないさ、人は忘れるものだから。覚えていようと思ったことも水のように掌をすり抜けていくんだ」
そう言ってハロルドは自身の髪色と同じリボンを悲しげに指先で触れた。彼の眉はいつになく下げられ、その目には悲哀が滲んでいる。それでも、彼は貼り付けたように口角を無理やり上げて笑ってみせる。

「じゃあ小瓶にでも詰めようかしら。ハロルドさんは忘れられるのが嫌みたいだから。ずっと綺麗に磨いて大切にしまっておくわ」

何がおかしかったのか記憶を小瓶に詰められるわけもないのにディオネは自分の言葉にくすくすと飴玉のような甘い笑いを零す。それはハロルドの胸の内には甘すぎて、噎せ返るようなむず痒さだった。彼女のこういった所がたまらなく愛おしく感じるのに、胸の奥でそわそわと何かが主張する。それがなんなのか、思い出せたとしてもハロルドにとっては最早無意味な事だ。それは彼が誰よりも理解している。

「ねぇ、ここは少し埃臭くて嫌だわ。一緒に天文塔に行きましょうよ、夜には星が綺麗に見えるけど今の時間は太陽が当たって気持ちいいのよ」
ディオネはハロルドの手を取り、少し強引に部屋の扉へと向かう素振りを見せる。その表情は楽しそうでその手は肌寒い秋だというのに暖かい。

思い出せたところで、なんの意味もない。
忘れられたところで、忘れられなかったとして。そこに自分がいないなら悲しむことも無い。

刹那に生きると決めたなら、彼女の手をとるべきではなかった。
その手を握れば、身の程知らずにも思い違いをしてしまうだろう。

でも、彼女は僕の手をとるから、光に照らされた彼女を僕が忘れなければいいのだ。
それでも僕はその瞬間だけを切り取って彼女を脳裏に焼き付けた。



＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿



生徒会室の窓からは木々の彩りが赤から黄色へと移り変わっていく様がみてとれる。生徒会室に人が逼迫する様子も久方ぶりだろう。ひと月ほど前、あの事件を境にそれぞれの思いは交差し集まって黒幕を探すことはなかった。
その状況に待ったを掛けたのはキャロルやマシューといった生徒会の人間であり彼らは再び聖痕者をこの生徒会室に集めたのだった。

「こうして集まるのも久しぶりだな。もっと早くこうしていられたら良かったんだがこっちも復活祭で忙しくてね」
マシューはそういうと、生徒会室の机に積み上げられたハロウィンの飾りをちらりと見やった。その隣の机は跡形もなかったように綺麗に整えられている。その所有者だった彼女の爪痕すらどこにも残っていない。

「なあ、リュンは結局どうなったんだよ。あの後からシスターも、誰も、何も言わないままだ。」
マシューの視線を辿ったのか、ふとブレットは何時になく真剣な表情でマシューやキャロルをその目で捉える。彼の瞳は色素の薄いヴァーミリオンが美しかったが、やけにその瞳が暗い気がした。

「……まさか、学院を出たのか？」
その顔は酷く歪められている。ブレットは自分で言ったその言葉に信じられないといった様子でわなわなと拳を震わせた。
でなければ、リュンはどこに行ったというのだろう。
そういった面持ちの生徒たちは、未だにリュン・フィーという生徒の最後がどのようなものであったか知らない。到底言葉で知ったところで想像できることでも無い。

「出られないワ、この学院からはどんな理由であっても出られないノ。途中退学制度なんてものは存在しないノヨ」
それくらいアナタでも知っているでショウ？とラムダはその言葉に付け足した。ブレットの隣に眠そうに立っていた彼女だが彼の言葉に口を挟まずにいられなかったのだろう。酷く哀しそうに彼女はブレットに視線を移した後に窓の外を見つめた。

学院を出ることは出来ない。
その言葉にブレットは一層その顔を歪ませる。そして彼と、彼女もその言葉に顔を暗くさせ下を俯く。いくらかの人間にそれはとても壮大な傷を負わせたようだった。
リュンのその後について、誰も口を開かない中、生徒会室はしんとした重い空気に包まれる。リュンの机は綺麗に整理整頓され、今は何も物が残っていない。あれだけ、物が渋滞していたのに。その痕跡は何も残っていない。

「……黙っていたこと、先に謝るよ。」
ブレットは後方でそう声が上がったことに驚き直ぐに振り向いた。その先には両腕で肩を抱き決まりが悪そうに眉にシワを寄せているマルセルがいる。
彼は何かを言い淀んでいるようでこの中の生徒誰一人と目も合わすことも出来ずにただ口だけを動かした。平常の彼とは打って変わり、様子に覇気が見られない。

「リュンは、もう何処にもいないよ。彼女はあの後、その罪を裁かれたから」
ひゅっと誰かが息を呑む音がする。一瞬の緊張を潜り抜けて誰かが後ずさりした。

「罪を、裁く……？」

誰がそう口にしたのか。リュンがここにいない、とは。罪を裁くとは何を意味するのか。
直ぐに理解することが出来ないのだと心臓が胸を打つ。
緊迫した空気の中でマルセルは静かに息を吐いた。
「死んだんだ」

死の連鎖がそこには確かに敷かれている。春が過ぎ夏が過ぎ、秋が終わりを告げようとしていた。レールを進むそれを止めることは出来ない気がする。
そんな、気がする。
「死んだ、って？シスターが言ってただろ！アタシたちと変わらない生活送ってもらうって」
エイダは信じられないとマルセルの言葉に声を上げる。
誰も踏み入れることの出来ない地下室へ、黒いベールの女に腕を引かれリュンはその先へと向かっていた。あの時、彼女は振り向いて、あの事件のシスターを殺したのは自分じゃないと口を開いたではないか。それを目に焼き付けただろう。心臓を穿つ槍が抜けない。
トニーは声を出すことさえ出来なかった。
目にみえるその異常さに唇が震える。

「目には目を、歯には歯を。死には死を。……随分物騒な思考だね。それを考えたのは、司祭様達か？」
部屋の家主かというように、堂々と生徒会室のソファに足を組み肘掛に頬杖をついていたハロルドが目を伏せ言った。彼の声は低く、生徒の死をいとも簡単に与えてしまう学院の異常性に怒りを抱いているようにも感じる。

「……神のほかに誰かが誰かを裁くなんて、あってはならないことでしょう」
ハロルドの言葉を聞き、テティスは悲しげにその瞼を閉じた。神は人間の罪を裁くものだ。それ以外の何人たりとも人を裁くことは許されない。人を裁くのは神だ。
「その神の声が聞こえたとでもいうんじゃないか？実際に、リュンはもうこの場にはいないんだから」
ハロルドはテティスが放った言葉を鼻で笑い飛ばし、両手を上げ眉を下げる。
神以外が、誰かを裁くとしたら。それは法に他ならない。だが誰が学院内で殺人が行われたことに予め処罰を決めておけただろう。
片付けられた彼女の机には何も残っていない。

「……どうして、マルセルさんがそれを知っていたんですか？」
恐る恐る相手の顔色を伺ようにドロシーは彼女の左隣にいるマルセルに顔を向ける。そう投げかけられたマルセルは一瞬だけ顔色をくぐ漏らせた後に独りごちるように乾ききった笑みをみせた。
「あぁ、他にも何人かの生徒は知っていたよ。事前にシスターから知らされていたから。誰も口を割らないようだったから俺が言ったんだ」
マルセルは以前からシスターひいては大人たちからの信頼が厚い。こういった情報が常にシスターや司祭の口から直接話されることはなく生徒を介して伝えられるのは何故なのだろうか。
あの日以来、主席司祭様にこの場のほとんどの生徒がお目通りすることは叶っていない。彼の言葉を聞いたドロシーは何かを思案するように押し黙った。
「……マルセルの言う通りなんだ。僕とマシューは既にその事を知っていた。いつ言い出そうかと思っていたんだけど、マルセルには申し訳ないこと言わせちゃったね」
情けないよ、とキャロルは自身の首に手を当てる。それは彼の癖なのだろうか、困ったように笑う彼の表情は暗い。

誰もがその死を容易に受け入れられている訳では無い。全てとは言わないが顔も声も、見知った人間が一度に2人も亡くして平静でいられるほど血が通っていない訳では無い。生徒会室には再びしんとした重い空気が漂う。

一体、この学院で何が起こっているのか。
正常と異常が入り乱れぐちゃぐちゃになってしまっている。
「……どうして、リュンが」
ぼそりとトニーは言葉を漏らす。どうにも出来ない理不尽が自分にだけ降り注いでいるような気がする。救いようのない惨劇は今も記憶に新しい。誰もが悲惨な顔色を浮かべる。

「事件はまだ終わっていませんわ」
悲しげに伏せられていた視線はそう言った青みがかった銀髪の持ち主へと向けられる。彼女は自分を守るように肩を抱き、その日のことを思い浮かべる。完璧な一日を。あの日以来、ここにいるはずの2人の姿は見当たらない。
一番初めのシスターを殺した犯人は未だに見つかっていないこと。なぜ、リュンがシドを殺したのか。カタリナは自身の眉を顰めた。
「リュンさんが犯人だとわかった時、私たちはシスター殺害事件の犯人も彼女なのだと思っていました。これは切り裂き魔の犯行に見せかけた彼女のものだと」
ドロシーは自身の制服に大事にしまわれたメモ帳を取り出すとそのページを雑に捲り上げた。

あの日、シドを殺害したのはリュンであると見破った彼女とハロルドであったがリュンの口からその動悸について語られることはなかった。ただ、彼女は自分の後悔の言葉だけを虚ろ虚ろに呟くだけで、心ここに在らずという具合であった。
「リュンさんとシドさんが学院に来たのは丁度1年前でしたよね。切り裂き魔についてずっと学院にいた私たちより十分理解していたはず……」
「寮内で人影をみたといったのも、リュンさんが流した噂だったのでしょうか？……彼女はずっと切り裂き魔がいるかもしれないという状況を作り出して、後でご自身の犯行も切り裂き魔のせいにするはずだったんでしょうね」
ドロシーは続けてメモ帳に書かれた痕跡を手で辿るようにして続ける。分からないことや、知らないことがあまりに多すぎた。こうして話を聞いていても不明な点はいくつも散りばめられている。
「そうですね、1度は切り裂き魔が本当に犯人なのかもしれないと僕も思いました。学院の中に犯人がいるなんて、考えたくもありませんでしたから……」
ドロシーの言葉に相槌をうつようにテティスはその手を顎にかけ小さく頷く。見知った顔の誰かが犯人だと考えるより、誰も知らない殺人鬼が犯人であれば責め立てることも罪の償い方もいっそ残酷に言い渡せたのに。リュンは何もかもを切り裂き魔という虚偽の犯人像を作り上げそれに押し付けようとしたのだろう。今思えばとても稚拙な犯行だが、着地点を見失いとってつけたようなそれが余計事件を混乱させていたようにも思える。
「どうしてリュンさんが犯行に及んだのか聞こうにも、もう聞けないのですね……。」
ゆっくりとドロシーはそのメモから目を離し、マルセルを見つめた。
彼女は今もリュンとシドのことを頭に思い浮かべているのだろうか。

「リュンは、シスター殺害の犯人を知っていたと思う。真犯人に脅されたと考えた方がいい」
悲しげなドロシーの背中をそっと撫でたマシューが言う。その言葉にマシューと折り合いの悪いカタリナはぴくりと耳を動かしその眼光を鋭く光らせる。
「リュンとシドの事件が、シスターの殺害と関係があるのか！？な、なんでそんなこと言いきれんだ…すか？」

マシューの言葉に驚いたのはカタリナだけでは無い、思わずトニーは前のめりになりながらたどたどしく騒ぎ立てた。2つの事件に何か共通点はあっただろうか。トニーがその時のことを思い出そうとするとずきずきと頭が痛むような気がした。
「そうね、共通点としては2人の死因でしょう？銀製のナイフを心臓に突き刺されていたわね」
トニーの慌てようにじっとりとした視線を向けたあと、カタリナはゆっくりと口を開いた。彼女が優雅なまでにそう語るとマシューもまた彼女に冷たい視線を送る。彼らの仲は犬や猿と変わらない。

「2人に突き刺さっていたナイフは同じ柄のものだった。偶然とは言い難いだろ。それに、あのナイフ……どこかで見たことがあるんだ……」
マシューはそう言うと悩ましげに自身の右手を顎にやり何かを考え込んでいる。
マシューいわく、2人に当てられたあのナイフはどちらも同じ銀細工が施されたナイフのようだ。

「そのナイフをもう一度みれば何か思い出すかもしれねぇですよね！？ナイフは、今どこに！？」
大きな足音を立ててトニーは考え込んだ様子のマシューの肩を強くつかみ揺さぶる。トニーの必死の剣幕に先程からカタリナは呆れ果てて、ゆっくりと息を吐き出した。
いきなりの出来事にマシューは間抜けな声をあげ、抵抗する術もなく戸惑いの表情を浮かべていた。脳がゆさゆさと揺れるのを感じる。
「さあ……使われたナイフがどこに回収されたかまでは」

語尾を濁すようなマシューの言葉にふと、トニーはひとつの疑問を感じる。
何故か、過ぎ去る日が一つ一つあまりにも性急でそんなことすら頭になかった。
本来であれば、それは何よりも大切なはずなのにあまりにもそれ以外のことに気を取られすぎていた。
「そもそも、シドの遺体は、どこに行ったんですか……？」



＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿





「兄さん、あのナイフに見覚えがあるって、詳しく思い出せないの？」

先程まで生徒が集まっていた生徒会室にはロイド兄妹だけが残されていた。マシューが気遣い出した紅茶が飲み干され茶葉がカップに形を残している。
先程まで2人で茶葉占いの本を小さい頃に読んだとかそんな思い出話に花を咲かせていたがドロシーがぴたりと真面目な視線をマシューに向けた。
「……あぁ、何処で見たのか思い出せないんだ。でも、確かにあれは学院のナイフなんだよなあ」
カップを片付けながらマシューは生徒会室の天井を向く。眉を捻らして、「あ、食器に使われてたやつでは無いな」と真面目に返事をしている。誰が食器用のナイフで人を殺そうとするのだろうか、ドロシーは呆れた表情で自身の兄をじっとりと睨みつけた。

「少し確かめたいことがあるの、絶対に思い出して！」
兄さんはしっかりしているのにどこか抜けている。キャロルやブレットの前ではまるで母親のように面倒を見ているのであまりそういった印象を与えないが家族であるドロシーには別だ。人にはその時々の顔がある。
「確かめたいことって、あんまり危険なことに首を突っ込むなよ……。……アイツらの前では言いたくなかったけど」
食器がかちゃりと音を立てる。小さい頃、2人で何も入っていないカップを手にお茶会ごっこをしたことがあったな。まだ、この学院に来る前の話だ。2人はずっと、一緒だった。思い出はいつも2等分に分けられる。

「……俺はあの中に黒幕がいると思ってる」
そう言った彼の表情は暗い。
「…………そう」
そう返した彼女の顔は伏せられている。
「初めからおかしい事ばかりだ、俺たちが知らなくてシスターや司祭様たちだけが知っていることがある。……俺たちの中にはシスターたちと仲が古い人間がいるだろ。」
その言葉に何人かの生徒の顔が思い浮かぶ。何故か一般の生徒は知らない話を当然のように知っている生徒が1部にいるのは確かな事だ。彼らが何を認識しているのか、それは未だ分からないが到底全てを明かしていないのは何となく分かる。
「昔から学院にいるやつほど、確実に俺たちの知らない何かを知っている。怪しまずには居られないだろ……」
どうして、とドロシーが口を開く前にマシューは自分の言葉に後付けをするようにそう語った。
先程までここにいた生徒たちはその後言葉を交わしあったあとなんの収穫も得られずに解散した。ハロルドやエイダはなんの収穫も得られないことに収集をかけられた無意味さをこれほどまでかというまでにキャロルに当たり散らしてからその場を去っていった。
その後、話があるからと言ってカタリナがキャロルを呼び出し残されていたマシューを手伝うといってドロシーがこの場に残ったのだ。あの中に、黒幕とまで言わずとも何か秘密を抱えている人間がいるとマシューは思っている。だがそれをあの場で言えるほど、マシューはお構い無しではない。

「……その事について、私すごく気になることがあるの」
神妙な顔つきでドロシーは自身のメモ帳を再び開く。そのページにだけは栞が挟んであり、ドロシーは器用にそのページを開いた。
「兄さんにだけは、話しておこうと思って……」


ひんやりと冷気が頬を撫でる。冬が来る
冷たい冬が来る。




＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿




秋が終わりを告げようとしていた
頃、周りの木々は実りを終えまた次の年まで休息をとる。温室はある程度の温度管理がされているため多少外より緑が残っているがそれでも、あの初夏の頃とは打って変わっている。
ただ一つ、変わらないものはけたましく動く生物。猫だけだ。
「なあ、それ楽しいのかよ」
そして、一人。猫の中に両手を広げ寝そべる生徒がいる。
「楽しいに決まってるだろ」
まったく見て分からないのか！とすました顔でその声に返事をする生徒。ベビーピンクの髪の毛を肩まで伸ばした彼は、突拍子もない行動で周囲を驚かせる。学院には異質な生徒が多いが、もちろん彼もそのうちの一人だ。

彼は現在数匹の猫たちに囲まれ暖をとっている。彼の手に何匹かの猫がすりすりと頭を強く押し付けてぐるぐると喉を鳴らしているが彼は猫を可愛がることもせずに両手をただ広げている。
「……ホントに変なヤツ」
なぜ、自分はここにいるのか、先程ブレットに声をかけたエイダは独りごちため息をつく。
つい先程までこの温室近くの木々の上でいつものように授業をすかしていたのだが偶然通りかかった猫に興味を惹かれこっそりと後をつけたのだ。猫に気を取られていたので気づかなかったが、よく考えてみればこの周囲で猫が向かう先といえばこの温室くらいだった。まともに考えていればブレットに出くわす温室になんてエイダは立ち寄りもしなかっただろう。
ただ、最近いつもなら釣りをしにくるある生徒をぼんやりと見つめていた筈のエイダの次官がぽっかりと穴を開けていたから、その事で少しだけ気が動転していたのかもしれない。
目まぐるしく変わっていくあれそれに辟易していたのは事実。可愛い小動物に癒されたいと思うことの何処が不自然だろうか。

だが、エイダの中でそれとブレットが目の前にいることは砂糖と塩ほど違うことだ。
なぜなら、彼らの仲もまた、良好とは言い難いのだ。
「……オマエは呑気だな、後輩が一人居なくなっても平気そうにみえる。」
誰もが悲しんでいるのは同じだが、ブレットのあまりの変化の無さにエイダはどこかほっとしたような、腹立たしいような。そんな感情を胸に抱かずには居られない。
彼の透き通ったブルーの虹彩はエイダや猫を捉えるわけでもなくどこかをじっと見つめている。

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はっと鼻で笑ったエイダはそのまま踵を返し元いた場所に戻ろうとした。ここにいて猫と戯れるより、ブレットと同じ空間にいることの方が気分害するのだから当然だ。

「なあ、変だと思わないか」
ブレットの顔は見えない。既にエイダは温室の扉に手をかけていて、後ろを振り向くことが何故か出来なかった。
「可笑しい、学院から……」
そんなはずないのに。ブレットがぼそりと何かを言っているのはエイダの耳に届いていたのにそれが何なのかは何も分からない。そしてそれを、聞くことは酷く恐ろしいことのように感じエイダは背筋に冷や汗が流れそうになる。

にゃあと猫が鳴いている。
エイダは温室の扉をばたんと音をたてて閉めた。向かう先はいつもの場所だ。
もしかしたら、アイツがいるかもしれない。
エイダは考えるのをやめ逃げるように足を動かした。



＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿



その母マリヤ、ヨセフと許嫁したるのみにて、
まだ偕にならざりしに聖霊によって孕り、その孕りたること顕れたり。
夫ヨセフ正しき人にて之を公然にするを好まず密かに離縁せんと思う。
斯くてこれらの事を思い回らし居る時、みよ主の使、夢に現われれていう。

「ダビテの子ヨセフよ、妻のマリヤを納るる事を恐れるな、
その胎に宿る者は聖霊によるなり、かれ子を産まん。
汝その名をイエスと名くべし、己が民をその罪より救い給う故なり」
くつくつと彼女は笑った。

「我が神、我が神、何故に我を見捨てたもうや」
腹を抱えて何がおかしいのか。

きらりと銀製のナイフが彼女の目の前には綺麗に並べられていた。
この世に全知全能の神がいるならば、聖痕をたずさった私達もまた神に近しいといえるだろうか。
そっとその手に1本のナイフを手に取り、彼女はそれを懐にしまい込んだ。





＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿




鬱蒼とした黒い雲が一面を覆い、顔を出した月がだけが僅かな明かりをともす。金色の輝きが何かを思い出させるようだ。
天文塔に続く階段を弾むように軽やかに降りていく誰かの足音がする。
虚ろな瞳で捉えた影は少女のそれを模している。　

彼の真っ白だったリボンは彼の手に握られぽつぽつと赤い斑点を残していた。
悲痛に歪むその顔は、月明かりに照らされることなく黒い闇に呑まれている。

いずれこうなることは分かっていた。
では、この頬を流れたものは一体なんだというのだろうか。

乾いた笑いは笑いにもならずただの空気となって喉を通った。
「彼は強欲」

罪人には死を。

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		<title>episode5.5（閑話）平等</title>

		<description>閑話 平等




「ねぇ、君。いじめら…</description>
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			<![CDATA[ <span style="font-size:medium;">閑話 平等</span>

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/22_2021-09-29-00-51-33.jpg" alt="22_2021-09-29-00-51-33.jpg" class="pict" />


「ねぇ、君。いじめられてるの？」
随分、真っ直ぐな質問だった。不躾とも言う。仮に僕が本当に虐められていたとしていじめられているのかと真正面から聞くのはいかがなものだろう。今思えばこの時はもっと言い返すべきだった。けれど、その時の僕は彼女の言葉通り酷いいじめに辟易として無礼な人間に歯向かう気力すら持ち合わせていなかった。力なくその声の持ち主を確かめようと恐る恐る顔を上げた。ハニーブロンドの髪が彼女の後ろから照りつける太陽に当てられてきらきらと輝いている。そのヘーゼル色の瞳に写るのは紛れもない傷つき落ち込み身体を小さく丸め座る自分だった。
「ねぇ、聞いてるの？」
正直にいえば、その時彼女に見惚れていた。言葉を失って返事も出来ずにいる僕に彼女は呆れたように頬を脹らます。
「あのさ、私見たんだ。君があの教師に嫌がらせを受けてるところ」
見られていたのか。でも、だからってどうしてだろう。彼女の目は真っ直ぐに僕を見つめている。胸がざわざわとむず痒い。だが、痒いところには背が届かず思ったように彼女と会話することもできない。
「……何があったのか話してくれない？君の、助けになりたいんだ」
その瞼に悲愴を浮かべ彼女は僕にに言う。僕と違って勇気のある人間なんだと思ったがその瞳は今にも涙がこぼれ落ちそうで浅い呼吸がここまで聞こえてきそうだった。今の彼女からは想像もつかないかもしれないけれど当時の彼女は酷く内気だった。その彼女が僕に手を差し伸ばすのにどれほど勇気を振り絞ってくれたんだろう。でもその時の僕はそれに気づくことも出来ず見ず知らずの人間にそんな親切を働く優しい人間がどこにいるんだろうと彼女を疑った。なにか裏があるに違いない。僕は簡単に人を信じたりしない。そう考えたのは、あの女を信じたのが間違いだったからだ。たちまち僕はあの女の標的に回され陰湿ないじめを受けることになった。この子もそうかもしれない。この子も同じだったとわかった時、僕は。臆病者の僕は人の優しさを受け入れることすら怖かった。でも、彼女は僕に歩み寄ることを辞めなかったしいつしか僕は誰にも相談することの出来なかったその胸の内を彼女にだけは打ち明けることが出来た。それは救いだった。神がいるなら、神は僕のことなんて既に見捨てたのだと思っていた。でも違った。僕に彼女という存在を教えてくれた。ただ、運命は残酷だ。陰湿ならいじめは僕に手を差し伸べた彼女にも降りかかる。
いつだったか、彼女が僕に手を差し伸べたその場所で彼女はかつての僕のようにその身を小さく丸めて肩を震わせていた。僕は咄嗟にポケットのハンカチを彼女に差し出す。泣かないで欲しい。君が泣いていると僕も辛い。君は、笑っているのが似合うから。すまない。ってそんなことをたどたどしい口振りで伝えたら彼女はへらっと力なく笑ってくれた。無理をしている、無理をさせているのだということなんですぐにわかった。
その後、悪化していく現場に耐えきれず僕たちは人間が決して行ってはならない禁忌を犯す。そしてその罪を償うこともせず当時世間を騒がせていた人間へと擦り付けた。殺害を犯した貴族が当時連続凶悪殺人犯として恐れられていた切り裂き魔の殺害を偽造するのはよくある話の一つだ。僕の父はそれをなせるほどの貴族であった。たったそれだけの事だ。彼女と僕は到底抱えきれないほどの罪の意識を植え付けられる。人を1人殺したからだ。この世に正義など無いのだと、平等など無いのだと悟った。それでも、僕は祈ることを辞めなかった。殺人は神が定めた最も重い罪だ。到底魂が向かう先に神の元へはいけない。そんなこと許されない。地獄に落ちる覚悟はあった。ただ、彼女は別だ。いっそ2人で墜ちるなら、と思ったことも何度もある。でもそれは違う。彼女の髪は、僕が見惚れたあの柔らかなハニーブロンドはいつしか精神に負担を与えそれを真っ白に染め上げた。あの陽だまりのような笑顔は奪われた。僕を助けたことで。そんな理不尽なことがあってはならないから。どうか彼女だけは罪から救われて欲しいから。僕は神に祈ることを辞めなかった。
「貴方を殺さないと、あのことをばらすって……。あの人が私を脅したの。」
「本当はこんなことしたくないの。」
「でも、貴方は貴族だから罪が暴かれても言い逃れ出来るかもしれない。でも、でも。わたしは違う……」
「もし、もしも。私たちがあの教師を殺してその罪をお金で解決したなんて……ばらされたりしたら」
「…………私、どうしたら」
例え、彼女が僕を殺そうとしても。それで彼女が救われるならそれも構わない。それであの笑顔を取り戻してくれるなら、死だって怖くない。あの時、臆病だった自分は彼女のために勇気を振り絞ることを覚えた。あの時のリュンのように。
「そのナイフを僕に渡しなよ。君が僕を刺しても痛いのも、辛いのも君の方だよ」
だからそれを貸してと彼女の手に握られたナイフを奪うようにその手を伸ばす。だが、彼女はその瞳に涙を零しながら首を左右に降った。
「どうして、どうしてシドは……！」
どうしてそんなに優しいのかって。それは僕の台詞だ。
つかみかかった手を振り払おうとした時何が悪かったのかあろう事かナイフは彼女の右腕を深く切り裂いた。破られたアーマーカバーは隠していた彼女の聖痕を見せる。引っ掻き傷のようなそれは彼女を余計に苦しめた。それが嫌なのかカノジョは長袖を好んで羽織るようになり、いつしか見せることも無くなった。僕の頬についた聖痕と君の腕についたその聖痕には一体どんな意味があるんだろう。飛び散った液体はばしゃりと音を立てて壁にあたる。暗い部屋ではそのいろは確認できなかったが真っ赤な模様を部屋に描いているんだろう。僕はそれに呆気とられてしまった。
次の瞬間どくりと胸を突き刺す何かが内蔵を、肉を切り裂き押し潰し身体の中で存在を主張した。固い異物は彼女の手によって僕の心臓を何度も抉るようにしてぐりぐりと奥へ奥へと進む。それと同じように僕の足もじりじりと後ろへ後ずさった。どさりと膝がベッドのマッドレスにぶち当たるとバランスを崩した僕はベッドへと転がった。僕の胸に突き刺さる内部から彼女はようやく手を離し、膝を震わせながら僕から離れていく。その時には痛みで目がかすみ、彼女の顔はよく見えなかった。くぐもった嗚咽が押し殺すように僅かに聞こえる。泣いているんだって分かった。
「き、み……っ…はえが、おが…ぅ…にあ、う………よ」
胸に刺さったナイフの痛みなど彼女が受けた苦しみに比べればどうということは無い。過敏に負担を感じる彼女がこれからは楽に生きてくれればいい。掠れた声は無事に着い届いているだろうか。やけに晴れ晴れしい最後の視界には震える1人の女の子が見える。あの日、顔を上げた先で暖かく笑う女の子の面影はとうに残っていなかった。最後の最後まで自身の不甲斐なさに嫌気がさす。それでも、彼女が神に赦されるその時まで僕は祈りを捧げ続ける。真っ白なロザリオを力なく掴み何度も何度も祈った。例え、意識が途絶えようとも神に祈ることだけは決してやめなかった。どうか、彼女が救われますように。どうか彼女が……。
＿＿＿＿＿＿＿＿
「我が神、我が神、なぜに我を見捨てたもうか」
独房というにはあまりに快適に用意された地下室の一室にリュン・フィーは備え付けの椅子に腰を落としていた。この部屋の本棚には1面聖書がビッシリと並べられていた。処遇が決まるまで出させて貰えないと最後に会ったシスターが言葉にしていた。自分がこの先どうなるか分からず恐怖するが、どちらにせよ自分はシドをその手で殺めてしまったのだから然るべき罰を受けるべきだと思えば平気だった。シドは神を大切にする信徒だったことを思い出して、本棚の聖書を手に取り何度も繰り返しそのページを捲った。シドは何を思ったのだろうか。私が、シドを殺すと言った時、彼は傷ついたのだろうか。生憎その答えはもう聞くことは出来ない。人を殺した罪人の扱いにしてはあまりに豪華なこの部屋では時間の経過はゆっくりと、しかし確かに進んでいた。この地下の部屋は常にランプの灯りがともされている為時計がなければ今が何時なのかすら分からなかっただろう。リュンは聖書の一文を読み上げ、ぼうっと時計を眺めた。そうしていると常に頭にはちらちらとシドのことばかり思い浮かべてしまう。頑丈に鍵がかけられているであろう部屋の扉を見つめ、自分の罰はいつ下されるのかと頬杖をつく。
あぁ、あの人は何がしたかったのか。私とシドになんの恨みがあるのだろうか。にこにこと微笑む裏にとてつもない重圧を感じさせるその人物のことをリュンは思い浮かべた。じわりと背中に冷や汗が伝う。
「時間だ。君の処遇が決まった」
突然開かれた扉の向こうにはフードを深く被った人物がいる。そしてその後ろには二、三人のシスター達が控えていた。いきなり音を立てて開いた扉にリュンは心臓を跳ねさせた。
「……………」
座り心地のいい椅子を離れ、扉の方へとゆっくりと向かう。処遇とは、一体なんなのか。いや、どんなものであれそれを受け入れる覚悟はできている。
フードの人物の目の前までたどり着くと、その人物は深く被っていた筈のフードを捲り上げた。リュンの淡褐色の瞳とその人物の瞳が交差する。
「どうして……貴方がここに……！！」
扉はまた音を立ててゆっくりと閉まる。リュンがこの部屋に戻ることは二度となかった。




<a href="https://twitter.com/i2_d4/status/1442866965224116225?s=20"><span style="font-style:italic;">動画
</span></a>


正しい人のためにでも死ぬ人はほとんどありません。
情け深い人のためには、進んで死ぬ人があるいはいるでしょう。
しかし私たちがまだ罪人であったとき、 彼が私たちのために死んでくださったことにより、 神は私たちに対するご自身の愛を明らかにしておられます。
ローマ人への手紙　５章７節、８節

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		<dc:date>2021-09-29T01:08:47+09:00</dc:date>
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		<title>episode５.致死量の愛</title>

		<description>episode５.致死量の愛




「愛で」…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-size:medium;">episode５.致死量の愛</span>

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「愛で」と彼が私に語るなら私は彼に「愛では」と騙る。
とうに心は腐り弱りそして朽ち果て「それなら共に」と彼は言っただろうか。
もちろん、その手を振り落としたのは私だ。　
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

喧騒が胸を刺した。
生徒会室に備え付けられた窓から見えるメインストリートには多くの生徒、そしてその数を上回る量の紙切れが舞っていた。ガラス1枚隔てたところで意味が無いと言うように外の生徒たちのざわめきがこちらにも届いている。
その紙切れはロプツォルゴ学院が誇る我が新聞サークルによって今朝顕になったばかりの事件について語られている。何処から嗅ぎつけたのか疑問に残るが、所詮学校という閉鎖的な社会で大きな話題は直ぐに転がって広まっていくのだ。それが例え、生徒の死という誰もが目を瞑りたくなるような悲惨なものであっても。その新聞は学院中にばら撒かれシド・キングストンの死は学院中に知られる運びとなった。その一面には大きく第2の被害者と書かれシスター殺害の時と同様に面白可笑しく考察がなされているようだ。
「……お祭り騒ぎだな」
マシューはガラス越しに地面の色を埋め尽くすようにしてごった返す生徒を睨みつけるようにして言った。
朝食の時間を終え朝一番の授業が始まるという時間帯。普段通りであれば講堂に立ち神学を語るはずのシスターが口を開き言葉にしたのはある生徒の悲報であった。本来授業が続くはずであったが、それから大人達はばたばたと処理に追われ、一般生徒達はその日1日を休講とされた。そして、夜まで生徒寮への立ち入りを禁止されることとなったのだ。
その後、マシューは一緒に授業をとっていたキャロルを連れ詳しい事情を確かめるために生徒寮へと足を運ぶこととなる。寮にいたシスター達から詳しい状況を受け終えた後、呆然とした頭で何とか生徒寮を後にしたが昼食の時間はとうに過ぎていた。マシューが味のしないスープをスプーンで何度も掬っていた頃、新聞サークルの人間が号外を叫びながら文字で埋められた1枚の紙切れを学院中にばら撒き始めた。そこには被害者であるシド・キングストンの胸元に銀のナイフが刺されていたことや、犯人は切り裂き魔なのかといった内容が書かれている。件のシスター殺害事件と全く酷似した状況に面白可笑しく犯人を予想するその新聞は多くの生徒の手に渡り、学院内には混乱の声が上がった。事態の収束を図るために何人かの生徒に協力してもらいながら号外新聞の回収を行っていたのだが既に手遅れといった状況で、やむを得ず生徒会室へと引き返すことにしたのであった。
新聞サークルの号外新聞にあるよう、彼の死因は事実であった。しかし、何故それを新聞サークルの生徒が知っているのか、マシューは眉を顰める。生徒寮への一般生徒の立ち入りは禁止され、聖痕者のみが立ち入れるようにシスター方によって管理されていた。いくら耳の早い新聞サークルの人間であってもシドの遺体に関して詳しい状況を把握するのは難しいだろう。誰かが口を零したのだろうか。その誰かによる生徒の不安を煽るような行動に憤りを感じざるを得ない。生徒会室には外とは反対に暫く沈黙が続いていた。時計の針だけがチクチクと音を立てる。
「おい！」
そこに突然扉にノックもなく乱暴にドアが開けられた。
「どういう事だ！説明しろ！」
左右に結い上げた牡丹色の髪の毛を揺らしながら大股で音を立てるようにして入ってきたのはエイダであった。その表情や声色は明らかに憤怒を含んでいる。
「オマエら、犯人を捕まえるだなんて口だけ言って結果がこのザマとはな！無能なイギリス人共め！」
ヅカヅカと生徒会室に足を踏み入れたエイダはその矛先をソファに腰掛けるキャロルへと向けた。キャロルの目の前にたどり着くとその胸倉を強く掴みあげ、エイダはキャロルを立たせ上げる。

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「初めにシドのこと見つけたのはアイツなんだってな。オマエらが駆けつけた時には呆然とシドの部屋に立ってたんだろ。シスターから聞いたよ」
いきなりやってきたエイダに襟を掴みあげられその勢いにキャロルは目を丸くしていたがエイダのその言葉に決まりを悪くしたようにその視線から目を逸らした。エイダの目はキャロルをじっと見上げたままだ。彼女よりも背丈の高いキャロルを先程よりもきつく睨みあげる。
「それなのにオマエらアイツにどうして此処にいるんだって質問攻めにしたんだって？」
エイダもシドの話を聞いて直ぐに寮に向かったのだろう。その際に部屋の周りにいるシスターたちに詳しい話を聞いたのだ。エイダが言ったことは間違っていない。直ぐに生徒寮に向かった時にはシドの部屋に変色しかけた血に塗れた部屋、微笑むように倒れ眠るシド、それを茫然と見つめたまま動かないトニーが居たのだ。その周りにはシスターたちが数人部屋の前に立ち竦んでいた。トニーが第1発見者なのだと確信したキャロルとマシューは顔を青くしたトニーを気遣うことも忘れその詳細を聞き出そうとした。質問にたどたどしく答えるトニー。その言葉は覚束ず酷く混乱していることは容易く予想出来た。途中、医務室在中のシスター数人とマルセルが現れ、そんな様子のトニーを無理矢理2人から引き剥がし彼を医務室へと連れていったのだ。エイダが彼らを責めるのも仕方の無い事だった。
「オマエらだって知ってるはずだ。……アイツら2人は親友なんだよ。その親友の、死んだ姿見てアイツがどんな思いでそこにいたと思ってるんだ！よくそんな言葉吐けたもんだな。人の心なんて持ってやしない」
つらつらと罵倒を述べるエイダに何も言い返すこともできず2人は苦虫を噛み潰したような表情を浮べた。
「……あの時は動転していて上手く気を配ることが出来なかった。本当に自分達が情けないよ。トニーには謝りに行かないと」
そうキャロルがエイダの榛色の瞳を見つめて言うと彼女も彼らの誠意を受け入れるかのように胸倉を掴み上げていた手を離した。しかし、その目は未だに彼を強く睨みつけている。
「……今は熱が出て医務室で寝てる。くれぐれも負担をかけるようなことはしてくれるなよ」
それを聞いたキャロルはマシューと顔を見合わせお互いに目を合わせた。まさか、熱が出るほどショックが大きかったとは。いや、それも当然のことだ。キャロルはもし自分の親友であるブレットが二度と目を覚ますことのない無惨な姿を見つけたら、と考え身震いをする。トニーには本当に申し訳ないことをしたと彼は瞳を暗くした。
それにしても、エイダがその話だけをしに生徒会室に乗り込んでくるとは思わなかった。彼女なりにトニーを思いやっての行動だったのだろう。犯人探しが間に合わず第2の被害者を生み出した自分たち、ひいてはイギリス人という人間への怒りが限界に達したのかもしれない。何にせよ、彼女が言葉にして叱ってくれることでキャロルとマシューも何処か救われたような気がした。これまでの事件には全く協力してくれる様子のない彼女だったが今度は違うかもしれない。
「言っておくが、熱を出したのは昨日アイツが池に落っこちたせいだからな……」
彼女の目は彼らを離すことなくじっと睨みあげていたが、そう口にした後に力なくため息をついた。なんと言っていいのか分からず、キャロルの乾いた笑いだけがそこに残る。
時計の針の音が響いた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

時計の針の音だけが響くのは此処医務室も例外ではなかった。普段から病人が集まる場所であるため煩くするような場所ではないのだが、これは自身の気の持ちように関係するのだろうか。重い頭を自分の枕より幾分か高い枕に預けながらトニーは考えていた。視界の端には針をせっせと動かす時計が見える。彼がいなくなっても世界は進むのだと残酷に突きつけられたような気分がした。それがたいした世界でないにしても置いてけぼりになったようなそんな暗い気分だ。ふと、あの部屋にいた時は自分は存在しないのではないかと不安になったがそんなことは無いようだ。時計を見つめる自分が存在する限りそれは証明される。頭が重く痛かったが
眠って起きてしまうとそれも直ぐに良くなった。軽くなった頭は酷く冴えていて思い返そうとすれば直ぐにあの時の記憶が蘇る。そうして蘇った相棒の姿に何度も吐気を催しては寝るのを繰り返し、遂には何も考えることをやめて時計を眺めることにした。
「具合はどう？って聞くまでもないか。いつもはあんなにうるさいトニーがこんなに静かにしてるんだからね」
プライベートを保護するためベッドを囲うようにしてつけられたベージュ色のカーテンが音をたてながら開かれひょいとマルセルが顔を出した。トニーを心配するような口ぶりだったが、思った以上に軽く話しかける彼に毒気を抜かれる。それはそれで有難いのだが、彼がそれを意図して行っているのかは分からなかった。マルセルはどれどれとトニーの額に手をやったり、彼に水を差し出したりと甲斐甲斐しく世話をやる。
「だいぶ良くなったみたいだけど安静にしないとだめだからね」
まあ、暫くは釣りに出かける元気すら湧かないかもしれないけど。マルセルは言いかけた言葉を喉の奥にしまい込んだ。彼のちょっとした発熱はたいした問題では無いのでマルセルは特に心配はしていなかった。しかし、精神面での心配はある。いくら平常が明るい人間であっても大切な友人、親友とも呼べる程の人間の死を目の当たりにして平気でいられるのだろうか。人間はそこまで強い生き物だったか。大切な人間を失くした人間の悲しみとはどれほど大きなものなのか。マルセルはそれが測りかねないものだと知っている。そして、その償い方もわかった気でいる。そんなマルセルを横目にトニーはなるべく心配をかけないようにと強く頷いて笑ってみせた。
「俺は大丈夫、です！寝たら頭も軽くなったし、それより……」
そう言いかけたトニーの視線はマルセルの後ろに向けられた。その向こうにはトニーが横たわるベッドと同じものが並んでいる。そのベッドを囲った白いカーテンは閉じられているため、そのベッドは使用済みを意味していた。
「リュンの様子は……？」
彼の視線を辿るようにマルセルはその先を遮っている白いカーテンを見つめる。もちろんその先の光景はわからないが、先程から大きな物音もしないのできっと寝ているのだと考えたマルセルは曖昧に微笑んだ。
「熱があるわけじゃないんだ。シドくんの話を聞いてびっくりしちゃったんだろうね」
今朝シスター方から話を聞いてマルセルがシドの部屋へと向かった時、キャロルとマシューに声をかけられたトニーは顔を真っ白にさせ唇を震わせていた。その様子を見てすぐに2人から引き離し医務室へと無理矢理連れ込んだのだ。マルセルが医務室へトニー連れて戻った時、医務室にはリュンがいた。顔を真っ青にし腕を抱えるようにしてベッドに入っている。連れ添っていた医務室控えのシスターに話を聞くと彼女は教室でシドの一件を聞いてすぐ顔色を変え、ここに運ばれたのだと。それからマルセルがトニーの処置で一通りやらなくてはならないことを済ました後、彼女のベッドをそっと覗き込むと寝息を立てていた。自身の腕を握るようにしてじっと小さく丸まり浅く呼吸を繰り返しているのが分かる。それを確認したのは暫く前であったが未だに起きた気配がなく変わらず寝込んでいるだろう。
「……そう、すか」
そう聞いたトニーはマルセルと向かい合っていた身体を捻り天井に顔を向けた。口に出して聞いたことはなかったがシドはリュンのことが好きだったんじゃないかと思う。彼と彼女は同じ時期にこの学院にやって来た。そのせいか、2人にしか分からない他者との明確な枠引きがあったのだ。決してそれをトニーや、他の人間に悟られることはなかったが2人なりの関係がそこにはあったのかもしれない。かもしれないというのも、トニーはその事をシドに聞いたことは無かった。それをしなかったのは誰にでも話したくないことの一つや二つ持ち合わせているものだとトニーが平素考えているからだ。事実彼からリュンについて何か話されたことはなかったしきっと彼もトニーに話したいとは思っていたなかったと思う。そう考えて彼と過ごした日々をぼんやりと思い出す。それはどれもトニーにとって一抹の安寧であったが今となっては胸を締め付けるような苦しさを持った記憶だ。
段々と理性を取り戻した頭で未だ鮮明に、匂いまでを思い起こすことができる今朝の彼の姿を思い出した。あの時、何が起こっているのか理解すらできなかったが、白い天井を前にするとやけに頭がすっきりと冴え渡っている。彼は苦しんで死んだわけでは無いのだろう。彼のあの微笑みがそれを強く確信させた。例えばシドを見つけたの別の生徒であれば、そうは思わなかったかもしれない。無惨な状況に心を痛めただろう。これは親友の、トニーだからこそ気づけたことだ。間違いない。彼は、シドは、抵抗をしていない。あの死を、胸に刺さる銀製のナイフを自ら受け入れたのだ。誰が、彼をそうさせたのか疑問は残るが親友が無念の死を遂げたわけではないと分かれば少しは気分も晴れる。といっても、背中にじっとりとへばりついた汗は酷く不愉快で、トニーが最も嫌いなそれを彷彿とさせた。それら全てに対して思うところがあるのは相変わらず変わらなかった。
＿＿＿＿＿＿＿＿
「やあ。お話中失礼、ブラザー」
トニーとマルセルの前に突然顔を出し何処までも爽やかに芝居がかった挨拶をしたのはハロルドであった。思いがけない人物の登場に2人は少し目を丸くする。マルセルは1度驚いた素振りを見せるがすぐにハロルドの存在に少し顔を歪ませた。
「トニーさん、お体の調子はどうですか？心配してたんですよ。」
ハロルドの背中にすっぽりと姿を隠していて一瞬姿が見えなかったがその後ろからドロシーが現れトニーに駆け寄った。その顔には心配の色を浮かべ悲しそうに眉を八の字にしている。同じように横にいるマルセルにも顔を向けドロシーは彼にぺこりと挨拶をした。ドロシーにとってトニーとシドは同じ年の友人であるのだ。今は他人の心配をしているがトニーやリュンと同様に彼女も内心で酷く落ち込んでいることだろう。
「2人はどうしてここに？具合でも悪かったのかな？」
マルセルが主にハロルドに対して冷たく突き放すように問いかける。彼はそれを歯牙にもかけず鼻で笑い返した。
「いや彼の、いやシド・キングストンの遺体について詳しい状況はマルセルから報告を受けろとシスター様が仰ったのでね。詳細を聞きに来たのさ」

そうでもしなければ、こんな薬品臭いところ来たくもない。と彼は医務室を見渡すようにして冷たく笑った。彼は此処があまり好きではないらしい。
話を聞けばハロルドとドロシーも事件の現場に向かったが、既に遺体が回収され、ある程度片付けられていたそうだ。詳しい話を近くにいたシスターに聞こうとしたが、マルセルに伝えてあるのでそちらから聞くようにと伺い医務室にやってきたというのだ。
トニーはその話を聞き、マルセルが先程まで向かい合っていたであろう机に目を向けるとそこには何枚かの資料が丁寧に置かれている。紙には恐らく、シドの遺体の状況について詳しくまとめたものが書かれているのだろう。マルセルがそれを眺めて頭を抱えていたことを思い出す。
ハロルドの話を聞いてマルセルが納得したようにその資料を手に取った。
「あぁ、もちろん構わないよ。でも皆が集まった時にした方がいいんじゃないかと思っていたんだけど」
資料をヒラヒラと扱い彼は机に腰掛けた。何度も同じような説明をするくらいなら一度に済ましてしまいたいのだろう。マルセルは少し、いや大概面倒くさいことを嫌う。
それを聞いたハロルドはマルセルを見て相手を嘲り笑うかのように鼻先でふんと音を鳴らした。マルセルを煽るようなその目に彼も対抗心を燃やし何か口にしかけた所をハロルドが遮るようにして言った。
「いや、先に説明を望むよ。何せ早急に確かめたいことがあるからな……」
ハロルドは怪しく目を細め笑う。彼はその後いくつか言葉を続け、室内には重く苦しげな空気が漂い満ちていた。
「………………………」
淡褐色の双眸が人知れずぱちりと開かれる。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「……随分綺麗に片付けられたのね」
調度の整ったテーブルランプ、クローゼットの装飾は細かく質の良さが見て取れる、テーブルクロスには刺繍が施され皺ひとつなく敷かれていた。生活感と清潔感が両立し、綺麗好きな人間が住んでいたことが分かる。ここはシド・キングストンの寮室だった。先程までシドの亡骸が横たわっていたというベッドはシーツが剥ぎ取られてマッドレスが剥き出しになっている。茶色く変色した血が真っ白なベッドを点々と染め上げていて、綺麗に整えられた部屋には不釣り合いだ。そして壁から天井にまで届くよう血飛沫の跡が目を引いた。その酷い有様にこの部屋を訪れたカタリナは息をのんだ。
「う、ゔぁじドぉぅ……ぅぅ……」
カタリナの横では顔から涙と鼻水をぐしょぐしょにしたブレットがベッドにしがみつくようにくぐもった嗚咽をあげていた。ブレットにとってシドは大事な友達であったのだ。温室で共に過ごした記憶の中で彼はブレットが連れ込んだ猫に囲まれ暖かな笑みを浮かべていた。
「ブローリー、折角シスターたちが綺麗にしてくれたんだモノ。アナタの鼻水で汚れるワ」
ラムダが部屋の扉付近で中に足を踏み入れることなくブレットに声をかける。しかし、ブレットにはその声が届いていないようでシドの名前を何度も呼び続けていた。
「ブレット先輩、鼻水がでてるわ。これを使って」

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セレスタインの頭文字が小さく刺繍されたハンカチで、ブレットの鼻を拭いディオネがそう言った。ちーんするのよ、とディオネが年上の世話をする様子にカタリナは思わず呆れたようにため息をこぼす。そのディオネの横にはテティスが部屋を見回すようにして立っていた。
「部屋の様子の事ですが、シスター方はご遺体の回収をしただけでそのままの状態だそうですよ。」
そう言ったテティスの言葉にカタリナはふむと顎に手をやり何かを考えるような仕草をする。この部屋が綺麗な状態なのはシスター達が掃除でもしたのかと考えたがそうでは無いらしい。
「部屋が綺麗ということは特に争った形跡はないということになりますわね」
先日、全員で学院の寮を探索した時怪しい人影について、その犯人は切り裂き魔なのではないかと誰かがその存在を明かしたことを思い出す。今回のシドの件も切り裂き魔の仕業だと仮定するとシドと争った形跡が見られないのは不可解だ。幾つか疑問に残る点をカタリナは思慮し天井にまで飛び散った血の跡を追うようにして眺めた。
5人は皆、事件についてシスターから話を聞いてこの場にやってきた。ここについた頃には既に遺体が回収され部屋には生々しい血の跡だけが残されていたのである。
学院内には新聞サークルの生徒によってばらまかれた号外新聞のせいか生徒の多くは混乱を窮めている。生徒寮への立ち入りは禁止され、一般生徒が入れないようにしているが号外新聞にはシドの死に際について書かれていた。寮への立ち入りを許されているのは何人かのシスターと聖痕者だけだと聞いているが誰がこのことを新聞サークルの人間に話したのだろうか。そのせいで生徒会がその対処に追われていたことをぼんやりとカタリナが思い返す。
「彼の冥福を祈りましょう。父と子の精霊の御名において……」
呆然と立ち尽くしただ悲しげにその部屋の様子を見つめていたところ、テティスが口を開いた。そう言ったあと彼は深く目を瞑りその手をきつく結んだ。口元に一線を結び死者の鎮魂を願う。その横でディオネも彼の真似をするように目を閉じ祈りを捧げた。

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/13_2021-09-29-00-50-14.jpg" alt="13_2021-09-29-00-50-14.jpg" class="pict" />

その姿は生き写しの人形のようだ。それに続けるようにカタリナも手をきつく結び、長く祈りを続ける。彼女の瞼が僅かに揺れた。その姿は彼等が厳正な神の信徒であることを示していた。殊更信仰心の薄いブレットはそれを下から不思議そうにぼうっと眺めて固まっている。その光景は何処か懐かしさを感じさせ、胸の奥を焦がすようにじくりと痛んだ。不快感とまでいかない、じれったいようなこそばゆいような。そんな感覚だった。
一体、その魂は何処に行くというのか。その祈りは届くのだろうか。
肩先まで伸びた毛先を左右に揺らしながら彼はゆっくりと立ち上がる。淡い藤色の瞳はブレットと同じように祈りを捧げずにじっと3人を見つめたまま動かないラムダに向けられていた。
「1番初めに彼を見つけたのはバルフさん、でしたよね。今は医務室に運ばれたそうですが1度話を聞いてみましょうか」
お祈りを終え、テティスはシドを殺害した犯人を見つけるべく冷静に物事を考えている様子だ。ディオネはいつも通りそう諭したテティスを褒め称える言葉を並べる。まるっきりふたりの世界だ。カタリナはそれに賛成し部屋を後にして医務室に向かおうと彼に続いた。
「医務室は嫌いだワ」
ね、ブローリー。とラムダはブレットに顔を向け薄く口角をあげた。先程までラムダのことを見つめていたのが気に入らなかったのだろうか。ブレットは彼女から顔を背けた。誰かが必死に内緒にしていたものを盗み見てしまって決まりの悪いとき、例えばそんな気分だ。申し訳なさと少しの羞恥がブレットの胸を染める。ブレットには何が何だか分からなかった。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

マシューとキャロルと、エイダの3人は医務室に向けて歩みを進めていた。トニーの様子を見に行こうと先程生徒会室を出たところ、マシューは当然のようにエイダも一緒に行くだろ？と声をかけた。話しかけられたエイダはというと、迷惑そうな顔をしたもののキャロルとマシューにはやし立てられるように気づけば2人と医務室へ向かう運びとなっていたのだ。途中でばっくれてしまおうかとも考えたが、トニーの様子を確認しておきたかったのはエイダも同じだったので少し後ろから2人の後を追いかけることにしたのだ。医務室へと続く廊下は、天井が高く天窓から降り注ぐ光に包まれている。日が傾き始め徐々に月が見始めた頃、薄暗い影が背中から追いかけてくるようだった。
「そういえばトニーだけじゃなくてリュンも医務室にいるんだって？さっき、シスターがそう言っていたんだ」
長い廊下を医務室へと進みながらキャロルは隣にいるマシューに話しかけた。マシューもその話はきいていたようで2人はリュンの心配を口にする。彼女の姿が見えないのはそのせいだったのかと少し後ろについて歩いていたエイダは真っ白な髪を短く切り揃えた少女の顔を思い浮かべた。口では嫌いなどと言ってみせるものの、エイダは多少彼女に好感を持っていた。いつも明るく巫山戯たような仕草の彼女に医務室は到底似合わない。エイダは思案する顔に不安を浮かべた。
医務室の扉は担架で運ばれる人も少なくないため、両開きになっておりその入口は人が3、4人は横並びになれると言うほど広々としている。換気の時間なのかその扉は開かれたままであった。3人は静かに部屋へと足を踏み入れる。医務室は広い作りになっておりベットが部屋の左右にいくつも並べられている。部屋の一番奥のベッドのカーテンだけが閉められており、そこにトニーとリュンがいるということがすぐ分かる。ほかの利用者はいないようだ。また、普段であれば在中しているシスターがいるものの今はその姿が見えない。シスター方も今朝のことがあり今も慌ただしく動いてるのだろう。医務室にはおそらく、マルセルだけが残り2人の面倒を見ているに違いない。
3人は寝息を立て休んでいるだろう2人のことを考えなるべく音を立てずに部屋の奥へと進んだ。
「……それで、何がわかったっていうのかな？」
「……答え合わせにはまだ早いさ、全員が集まってから出ないと」
「……もう少し待っても来ないようなら……」
トニーとリュン、もしくはマルセルの3人しかいないだろうと思っていたが何やら数人の話し声がする。先に見舞いに来ている生徒がいたのだろうか。3人は医務室の一角にそっと顔を出した。
ベッドにはトニーが、その隣のベッドにはリュンがそれぞれ利用している。ただ、2人は既に目を覚ましているようだ。トニーは足をベッドの外に下ろしマットレスに腰掛けるように座り、リュンは上半身を起こし暗い表情でブランケットを握っていた。その付近にはマルセルが2人の様子を伺うように備え付けられた椅子に座っている。
「あぁ、ようやく生徒会様のおでましか。随分遅い到着だな」
キャロルやマシューをからかう様に彼らの後ろからカツカツと音を立てて現れたのはハロルドであった。思いがけない人物の登場に3人は驚き目を丸くさせる。ハロルドは相変わらず生徒会への対抗心に舌を巻いている。
「ドクトリク……！なんでオマエがここに……」
エイダが驚いてハロルドに指を向けワナワナと震えているが、ハロルドはそれを愉快そうに受け入れた。
「やあ、同志よ！会えて嬉しいよ。だが残念だな。君は既にカルぺディエムのメンバーであるというのにまさか生徒会の者と共に行動しているとは」
やれやれといった様子で彼は両手を左右に広げ顔を俯かせる。わざとらしいその仕草にエイダは彼に向けていた指をきつく握りしめ心底呆れた顔つきで睨みつけた。不服であると彼女が言っているのは明白だ。その後ろにはドロシーも顔を出しており、現れた妹にマシューは狼狽えた声を出す。兄さん、今朝ぶりねとドロシーは小さくその手を降った。

「ここは医務室でしてよ？病人の前で大きな声を出すだなんて。はしたない真似よしたらどうかしら」
今度は誰だ、とその声のした方へと何人かが振り返る。キャロルたちが医務室についたすぐ後に誰かがやってきたのだろうか。そこにはまったくと冷たく言い放ち、背筋をぴんと伸ばした長身をこちらに向けるカタリナがいた。そのすぐ後ろにはテティスとディオネ、ラムダ、ブレットが続いて医務室へと入ってくる。いきなり増えた医務室の人口にマルセルはおいおいと苦笑いを浮かべた。マルセルの心配はよそに皆、怪我をしている訳ではなさそうだ。別の目的があるのだろう。ハロルドはそれを予想していたかのようにくつくつと喉を鳴らす。
「無事全員集まりましたねぇ。その様子だと皆さん既にシドさんの部屋には向かった見たいですしこの場をお借りして本題に入ることにしませんか？」
ハロルドの横から礼儀正しい口調を流暢に並べたドロシーが笑みを浮かべ集まった者達にそう述べる。彼女の言う本題、とは何なのか。この場にいるものでそれを分かっているのはドロシーとハロルドだけのようだ。マシューは自分たちにそう語る妹になんの事だと頭に疑問を浮かべ説明を求めた。
「……ここはそういう場所じゃないんだけど。仕方ないか、まずはみんな腰掛けて椅子はその辺のものを勝手に使っていいから。説明はこの2人が一からしてくれるさ」
マシューの問いかけに答えたのはドロシーではなく深いため息をついたマルセルであった。いくら利用者が他にいないからといってこの場に長居するつもりの彼等を少し迷惑そうにしているようだ。
当然、トニーとリュンの様子を見に来ただけのキャロルやマシュー、エイダにはなんの事だか分からない。また、そのすぐ後にやってきたカタリナたちもなんの事だか分からないと言った顔をしている。彼等も恐らく、トニーやリュンの様子を見にやってきただけなのだろう。
「ではこの場をお借りしてご清聴願おうか。これは我が相棒ドロシーと僕ハロルド・ドクトリクのしがない妄想、いや推理と言うべきかな。まあ、座ってきいてくれたまえ」
じくりと聖痕が疼く。
今から何が始まるのか、心臓は緊張の音を上げた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

ハロルド・ドクトリクはある疑問を胸に持っていた。それは先日の出来事、学院に出没する怪しい人影について。そしてその犯人は切り裂き魔なのではないかと疑う人物がいることを。彼は常々胸につっかえる何かを感じていた。その違和感の正体は、今朝起きたシド・キングストンの件の話を聞いた時からやけに明るくその全貌を顕にし始めていたのだ。
まず、その一声を聞いた時。
「昨晩、また怪しい人影を見たんです。もしかしたら、と思ったんですが」
それはシドの寮室とは少し離れたしかし同じ棟の部屋の生徒の証言であった。
ハロルドが今朝方シド・キングストンの死体が見つかったという知らせを聞いた時のこと。すぐそばに居た生徒がそういえば、と彼にそう教えてくれた。犯人を探す手がかりになればいいと思ってとその生徒は言葉を付け足す。
その後、ハロルドはその生徒に彼なりにお礼を済ませドロシーと合流しシド・キングストンの部屋へと足を運ぶこととなる。
彼の部屋についた時、そこには数人のシスターがいた。既にその部屋からシドの遺体はどこかに運ばれたようだ。だが、明らかに血溜まりがそこにあっただろうと言わんばかりにベッド周辺が真っ赤に染まっているので2人はシドが先程までそこにいたのだということを理解する。部屋の様子は至って生活感に溢れており、乱雑などではなく丁寧に整えられている。彼の性格からして普段からこのように整えられているのだろう。犯人とシドが争った形跡が無いことは見て取れる。壁から天井にかけて生々しく血飛沫が上がっているのが目を引き、詳しく話を伺おうと血塗れのシーツを片付ける妙齢のシスターに声をかければ彼女はマルセルに聞けと言った。それを聞いた2人は医務室へと行くことにする。
その途中、生徒寮のある塔を抜け医務室へと続く廊下に足を向けたあたりで新聞サークルの生徒が必死に号外を配っている姿を見つけた。彼等がどうやって鍵つけたのかは謎だがシドの死について何やら情報を掴んでいるようだ。廊下には生徒が読み捨てたのであろう新聞がクシャクシャな状態で投げ捨てられてあった。そして、その紙には「銀のナイフを心臓に突き刺された死体」「第2の被害者」という文字が大きく見出しになっている。銀のナイフを心臓に突き刺されているというのはシスターの死体が見つけ出された時の様子と酷似しているではないか。2人は眉を顰めその新聞を眺めていた。
死体に関する詳細はマルセルに報告が上がっているという先程のシスターの言葉を信じ2人は医務室へと歩みを早めたのだ。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

ハロルドはここ医務室にやって来るまでの経緯をそのように説明した。その話を聞き、シドの部屋を見た他の生徒たちも彼は犯人と揉めた訳では無いということを改めて確信する。憶測ではあるが、顔見知りである犯行が大いに考えられるのだ。
ハロルドのその話を聞き、テティスがそういえばと口を挟む。元来、大人しく礼儀正しい性格の彼はあまり他人の話に横槍をいれるような人物ではない。しかし、なにやら神妙な顔つきをしているところをみると彼もまた重要な事に気づいたとでもいうのだろうか。
「そういえば、僕も生徒寮に向かう時にある生徒から話を聞きました。その生徒はシドさんと部屋が隣だそうで。」
「生徒寮には壁が薄くて隣の部屋と騒音問題になることもありますよね？彼らの部屋も壁がうすかったみたいで。些細な音でも耳をすませば聞こえてしまうらしいんです。」
「シドさんのあの性格ですから幸いにも特にトラブルにはならなかったそうなんですが。昨晩、夜中にシドさんの部屋に来客があったとその生徒が言うんです。」
「部屋のドアが開けられた音がして、暫く2人の人間が話し合う声が聞こえたとか。決して言い争うようなものではなく大きな声ではなかったみたいです。ただ、1人は男性の声でもう1人は女性の声のように感じたと……」
テティスは困ったように眉を下げながらそう報告する。女性の来客という言葉に全員が犯人像を思い描き慄いた。
「それはそれは。ブラザー、重要な話をどうもありがとう。興味深いな……」
テティスの話を聞きハロルドは何か確信めいたように頷いた。その横でドロシーが一瞬その瞳を俯かせる。一体、彼らは何を知っているのだろう。
「話を続けようか。ここに来て僕たちはこの医務室の男に話を聞いたわけだが、まあそれは貴様が話す方がいいだろう」
そういってハロルドはバトンをマルセルへと渡す。その視線には嫌悪が浮かんでいる。話せと言われたマルセルはと言うと彼に命令されたことが気に食わないのか不服そうな顔をうかべた。
「まあ、僕から出来るのは遺体の状態の話くらいだよ。ハロルドに言われてってのは癪だけど……」
そう言って彼はその手にある資料を手に取った。おそらくその手の資料にはシドに関することが書かれているのだろう。彼がその資料を手にしていることに疑問を持つが彼ほど医学に精通した生徒はいない。ラムダが神学において学院から研究を命じられ特別に授業の免除を許されているように彼も同様に医学において特別な待遇を受けているのだ。
「シドくんの死因は、あの例のシスターと全く同じ。心臓を銀のナイフで一突きだよ。簡単に言えばその傷からの出血死ってところだ」
彼はとんと心臓を自身の指で突き刺す真似をする。この仕草はシスターの死因について彼が語った時と同じだ。それを聞いてあからさまにエイダやカタリナ、マシューは顔を歪める。同じ犯人の犯行なのかと。自分たちがどれだけ犯人の後を追ってもその人物の正体を見つけ出すことは愚か第2の被害者まで出してしまうとはとても情けない気持ちだ。
「その心臓の傷以外にほかの外傷はひとつも無い。本当に争った形跡なんて彼の身体には見当たらないんだ」
マルセルは資料をつかって空気を空振り叩いた。彼の大振りなピアスが揺れる。
「身体には、ね」
マルセルはダークグレーの瞳を少し伏せてそっと視線を資料から外しハロルドへと向けた。それがバトンの合図となったのか今度はハロルドが口を開こうとする。しかし、それはある少女によって遮られた。
「それは可笑しいわ」
大きな瞳は片方が癖のある髪の毛に遮られ隻眼が伺う。ハロルドの言葉を遮ったのはディオネであった。彼女の目は不思議そうに真っ直ぐとマルセルを捉えていた。
「だって、あの部屋には天井にまで届くように血飛沫が上がっていたもの。心臓を一突きにしただけじゃあそこまで血は飛ばない。」
そうでしょうというように彼女は自分の隣に控えるテティスを伺った。テティスも彼女と同じようにマルセルの言葉に疑問を持っていたようで首を強く上下に振り相槌を打った。
「姉の言う通りかと思います。それではあの傷は犯人のものと言うことになりますが犯人とは揉めたわけでは無いんですよね？では、犯人の自傷行為になりますが……」
揉め事がなかったと言うのはテティスが聞いたシドの隣室の生徒の話とも一致する。揉め事はなかったはずなのに犯人は傷を負った。それもかなり深い傷であると予想される。犯人がそこで自分を自傷したと考えるのはあまりにも不自然すぎる。双子が放った言葉に他の生徒も一様に疑問を浮かべた。
「まさか、レディに推理の先を越されるとは思わなかった。さすがだよ、あの謎解きを解いただけの事はある」
一同が介して疑問を頭に浮かべているところに、ハロルドが沈黙を破るように数回両手を叩きディオネを賞賛する。どこまでも飄々と振る舞う彼は不謹慎にもどこかこの状況を楽しんでいるのでは無いかとすら思える。
「えっと…………？」
どういう事だと言いたげな顔でトニーはそう語る目の前の人物達の顔を伺う。
「つまり犯人の身体にはおそらく深い傷が残っているということですよ」
結論付けるとそういう事になるだろう。ドロシーは3人の話を聞き、先程から置いてけぼりといった様子のトニーに向けて言った。ありがとうと小さく彼がお礼をしたのが聞こえる。
「僕とドロシーも2人と同じような疑問を感じた。今犯人として仮定されている切り裂き魔が本当に犯人だとしたらそのように不可解な行動をするのだろうか」
そもそも、少し臆病な所のあるシド・キングストンが切り裂き魔を前にして悲鳴を上げないはずがないとも思うが。と彼はその言葉に付け足した。
切り裂き魔、という言葉をきいて生徒たちは先日自分たちが寮内を回った出来事を思い出す。怪しい人影についてその正体が切り裂き魔であるかもしれないこと。また、その犯人が今回のシスターとシドを殺害したのではないかということ。だが、その切り裂き魔という犯人も今となっては何だか腑に落ちない所がある。
「切り裂き魔がこの事件の犯人だというのも、考えられないわけではないです。でもそれはあくまで可能性のうちのひとつに過ぎません」
ドロシーはハロルドの言葉に付け足すようにそう言う。まるで本当に探偵の相棒同士のようだ。
「犯人とシド・キングストンは顔見知りであること、また揉めた形跡は無いこと。シスターを殺害した人物と同一人物の犯行だとしたら犯人は学院外の人間ではなく、十中八九学院内の人物だろう」
切り裂き魔を犯人だと考え学院外部の者の犯行という線で考えていた。だが、ここに来て犯人は学院の中にいるシスター、生徒の内の誰かなのかもしれないとハロルドは言うのだ。だが、その言葉に同意せざるを得ない。
「これは僕たちが考えた結論に過ぎないが、犯人は切り裂き魔を装った犯行を行ったのではないだろうか？」
学院内の人物が、全く無関係の外部の者の犯行を装う。突然、不自然に話題に上がった切り裂き魔という存在はその布石に過ぎないのではないかとハロルドは言いたいのだろう。
パズルのピースを一つ一つ確かめるように2人は、今までの状況を説明する。何かがハッキリとしていくような気がした。周りの者も息を呑むように2人の話に耳を傾ける。
ハロルドは自身の肩にかかる白銀の長髪を手で払い除けながらこう言った。彼の髪に括り付けられた真っ白なリボンが揺れる。
「例え学院内に怪しい人影があったとしてもそれを切り裂き魔と結びつけるのはあまりに無理があるんじゃないかとあの時からずっと思っていてね。」
彼はその視線をちらりと動かす。
「そうは思わないか……？」
「……生徒会のレディ。リュン・フィー？」

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「貴様だったはずだろう？あの日、人影の正体が切り裂き魔の可能性があると話をしたのは」
1人ベッドに上半身を起こし、膝にかけられたブランケットを握りしめ震えるリュンにいきなり視線を向けたハロルドはその双眸をきつく細めた。波のように押し寄せた緊張が今度は稲妻の様に全員の背筋を貫く。唾を飲み込む音がした。
確かに、あの日切り裂き魔の話を持ち出したのはリュンであったことを思い出す。
「ま、待ってくれよ！そんな言い方したらリュンが、その……怪しい……みたいに」
リュンがハロルドの言葉に言い返す前にその隣のベッドに座っていたトニーが立ち上がり声をあげた。その顔には冷や汗が浮かんでいるが、それは元より彼の体調が優れなかったからかもしれない。
「そうさ、ブラザー。僕と、相棒のドロシーの推理は彼女が怪しいと言っているんだよ。まあ、これが僕たちの妄想だって言うならそれなりの証拠を見せて欲しいものだな」
ハロルドはカツカツと靴の踵を鳴らしリュンのベッドに近づいた。彼の影がリュンに差し掛かり彼女が顔をあげたと同時に、ハロルドはリュンの細腕を掴みあげる。
いきなり持ち上げられた右腕にかかる重力は彼女の腕を包むアームカバーを地面へと引っ張った。はらりとその布切れが肘近くに落ちた時、彼女の隠れた右腕を顕にさせる。
「………………嘘」
そう言いかけたのは誰であったか。
彼女の右腕には不器用に巻かれた包帯があった。

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そして、その包帯には今も真っ赤な血が滲み痛々しさを語っている。
「……この傷はどこで？」
マルセルはその傷について知らなかったのだろう。少し驚きを見せた後に直ぐに冷静にリュンに問う。彼女は唇を震わせ悲愴を浮かべるばかりで何も発さない。
「ちょっと待てよ、いくら何でもこじつけすぎだろ。偶然腕に深い傷があって、切り裂き魔の話をだしたからってコイツを犯人扱いか？」
その言葉に続くのはイギリス人への罵倒だろう。エイダはリュンを庇うようにハロルドの手を払い彼をきっと睨みあげる。
「あぁ同志よ。そう睨まないで欲しい。テティスも言っていただろう、犯人は女性の可能性がある」
ハロルドはちらりと横目でエイダをみるが、その視線はすぐにリュンへと向けられた。エイダはその言葉に頬を引きつかせた。
「ハッ、性別が同じだってか？人影の正体と切り裂き魔については結びつけたのが不自然だって言ったよな。オマエがこれだけのことでリュンを犯人だと疑うのも不自然だぞ。それともコイツが犯人だっていう明確な証拠でもあるのか？」
エイダがハロルドに詰め寄る中キャロルはふと、話の火中に投げ入れられたリュンを盗み見た。不器用に巻かれた包帯は自分で巻いたのだろうか。彼女の聖痕は腕に近いところにあるのだと以前言っていたことを思い出す。それを見せることを嫌っており今まで見たことは無かった。しかし、先程ハロルドによってあらわにされた腕には包帯と共に引っ掻き傷のような聖痕を見せた。腕をさする彼女の顔は伏せられその感情は読めない。1年程度彼女と共に生徒会として過ごしたが、リュンは決して人を殺せるような人間ではないとキャロルは感じていた。それはキャロルと共にリュンと時間を過ごしたマシューも同じように言うだろう。ただ、彼女が1度もハロルドの言葉を否定することのない態度に酷く困惑しているのだ。彼女の性格を考慮しても、とっくに糾弾の声を上げている筈なのに。
エイダにそう責め立てられたハロルドといえば言い返す言葉もないのか肩を竦める仕草をするだけだった。確かにエイダの言う通りにハロルドとドロシーはそのようにリュンを疑っているだけで証拠という証拠をあげている訳では無い。
「……そうね。私のお友達はそんなことする子じゃないわ。リュンは優しくて、不器用で、きっと何か誤解があるだけだわ」
そう言ってディオネは目を瞑り、誰かに言い聞かせるかのように言った。きっとそれは自分に言い聞かせているのだろう。初めてリュンと話した時彼女の名前をリュンフィだと勘違いして呼んだ時のことを思い返す。彼女に軽く怒られたが、その時だって彼女は決してディオネに無礼を働いた訳では無かった。それから何度もテティスを交えてボードゲームで遊んだことだってある。同学年なのだから、授業だって一緒に受けたし、勉強だって共にした。ハロルドは何か誤解しているに違いない。そう信じているが不安を抑えきれず彼女は自分の隣にいる片割れに寄り添うように近寄った。テティスも同様にリュンはそのような人じゃないのだとハロルドに声をかける。
「彼女の性格は皆さんもご存知の筈ですよ。確かに粗暴な所はありますが決して悪気があってしている訳ではな」
「インテュイショニズムだなぁ……」
テティスがリュンを庇うその発言を遮ったのは誰でもない、リュン本人であった。その表情はもういいよとでも言いたげだ。彼女の瞼には深い哀愁が籠り今にも涙が溜まりだしそうだ。
「……どうしてばれないとでも思ったんだろうね。これから先も平然と生きていけると思うなんて大間違いだよ」
分かってた筈なのに。そう小さく呟いた彼女の目は何処かを見つめている。その瞳は睨みつけるように強い怒りを孕んでいるようにも見えた。
インテュイショニズムだなんて、この場にいるだれがそんな言葉を知っているというのだろう。彼女は賢い。一般的な人は読まないであろう難しい本だって読む、様々な知識だって人より多く持っているし頭もよく回る。普段から呆気からんとした態度のため誤解されやすいところはあるが。彼女が悲しげに笑みを浮かべこちらを見た時、それは彼女の無言の独白なのだと言葉にしなくとも分かった。
「……ねぇ、トニー。シドは笑ってたんだよね？」
リュンはベッドから動くことなくその視線だけをトニーに向けてそう問うた。いきなり質問を受けたトニーは目を見張る。いつまで経っても自身が犯人でないと否定することのないリュンの姿に胸が芽吹きを唸るように感情が込み上げる。それは到底怒りなどというものでは無い。上手く言葉を発することが出来ずただトニーはリュンの言葉に何度も強く頷いた。喉の奥から込み上げてくるそれがトニーの声を封じている。そっか、とあまりに呆気なく、しかし酷く安堵したように彼女はトニーの返事を奥歯で噛み締めた。
その光景を前にトニーだけでなく誰も言葉を発することが出来なかった。
「……庇ってもらえるなんて思っていなかったから。ありがとう。でも、私はそんな綺麗な人間じゃないよ」
彼女は淡褐色の瞳を閉じ、何かを思い返すようにして言った。
心が綺麗なのは、きっと彼の方だ。
「この傷はね、自分でつけたんだ。シドと揉めてないっていうのは誤解があったみたいだね、ナイフを前に少しあってさ……」
閉じられた瞳に今どんな感情が浮かんでいるんだろう。彼女は瞼に思い描いた昨晩の出来事を他の者に話すつもりは無いのだろう。それ以上何か次の言葉を紡ぐことはなかった。
一悶着あった末についた傷だということは分かったが、どうして彼女は天井にまでついたその血飛沫をそのままにしたのか。シドの身体にも同じように傷を付けておけば彼女が犯人だということはばれずに終わっていたかもしれないのに。何処かで自分が犯人であるという証拠に繋がりうる何かを残しておきたかったのだろうか。それとも、彼に無意味な傷を付けたくなかったのか。両方か。それが本人の口から語られることは無い。
「一緒に背負った罪だったのに。私だけ、許されようなんて。そんな我儘どこの神様が目を瞑ってくれるっていうんだろうね。シドはやっぱり馬鹿だなあ……」
シドの名前を口にしてへらりと笑った彼女は照れくさそうに、それでいて淋しがりな子供のようにそう言った。喪失感だけがリュンの胸に残る。
そして、その姿を目に焼きつけるかのように誰もがその場で言葉を失った。
あまりにもあっさりと、自分が犯人だと認めるリュンにどう声をかけたらいいのか誰もわからなかったのだ。何があったのかと事情を聞くことさえはばかられるほどに。
医務室は既に薄暗く、窓の外の光は時間の経過を無慈悲に告げている。何があっても太陽が沈み月は昇る。神はそのように世界を創造したから。どれだけ止まって欲しいと願っても。どれだけ戻りたいと祈っても。
何を悪とし、何を善とするか。運命すら神は定める。では、彼等は何に祈りを捧げるのか。彼は何を必死に祈ったか。それはひとえに愛であることを、悲しくも言葉にしなければ彼女には伝わらないのだろう。そうして、致死量を上回った愛は行き場を失いやがて魂を穢すが如く彼の精神を蝕む。抱えた罪の重さにどれだけ自身が喘いでも彼女だけは救われて欲しいのだと願う。隣人愛など語るには当に度を越している。最後に身を結ぶのは死による魂の解放であることを彼はきっと知らなかった。知っていても彼女の救いを願っただろうけれど。
そして彼女もまた、そんなこと分かるはずもなかった。
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不透明なまま、確かにあらわになった犯人、リュンという生徒はその後キャロルとマシューによって報告を受けたシスターに彼女の処分を任せた。
力なく膝を曲げる彼女の腕を真っ黒な服に身を包んだ女性が丁寧に介抱し彼女は古くから学院に存在する地下室へと連れ去る。地下室とは、学院が設立されすぐの頃、懲罰房として悪さを働いた生徒の行き場だったという噂があるいわく付きの場所だ。食事を抜かれて何日も閉じ込められるのだとか。リュンがその地下室へ連れられると聞き、ディオネやトニーがリュンにあまり酷いことをしないで欲しいとシスターに嘆願するとシスターは慈悲の微笑みを浮かべた。どうにも、地下室は単に現在使われていないだけの空き部屋があるだけでその噂は出鱈目なのだと。然るべき対処が決まるまでは清潔な部屋で皆と変わらない食事を運ぶと約束してくれた。
地下室へ行く前に、とリュンはゴソゴソとそのポシェットから何かを取りだしトニーへと駆け寄った。その手には赤い紐でくくられた白のロザリオが握られていた。そしてロザリオには赤黒いものが付着してこびりついている。それはシドのロザリオで間違いなかった。

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「どうしてこれを？」とトニーが言うと、シドの遺体が回収されたあと医務室で寝ていた自分にシスターが渡してくれたのだと。トニーはシドと親友だったから、と彼の手にそれを押し付ける。トニーは顔を酷く歪ませてそれを拒んだ。自分が持つべきではない。そう言ったがリュンは、それを無視しシスターに肩を抱かれながら医務室の扉の方へと歩き出した。
シドは最後、確かに微笑んでいた。彼は苦しんで死んだのではない。これは、トニーなりの推測ではあるが、彼はおそらくリュンが自分を殺そうとナイフを向けた時そのナイフを奪おうとしたのでは無いだろうか。リュンがどんな理由でもって彼を殺そうとしたのかは分からないが、シドはリュンのことを想っていたから。そしてリュンもシドのことを想っていた筈だから。彼女に罪を犯させる位なら自ら死を選ぼうとそのナイフをリュンの手から奪おうとしたのでは無いだろうか。そのはずみに彼女の腕には深い切り傷が付いてしまった。狼狽えるシドの隙を見てリュンは……。だが、それもまた、彼にとっては受け入れ難いことなどではなくシドはリュンの全てを受け入れたのだろう。薄れゆく意識の中で彼はこのロザリオを握りしめ神に何度も祈ったに違いない。彼女が救われるようにと。自分を殺した自責の念に精神を食い荒らされることがないように。どうか神が彼女を許してくれるように。白のロザリオには不釣り合いな汚れがそれを物語っているようだった。
トニーはシドの姿を思い浮かべ、到底言葉には出来ない様な感情を胸に抱いた。
あぁ、何故……。
「……………わ…い」
ぼそりと呟いたその言葉は誰に届くことも無い。
ロザリオを握りしめるトニーを背に、医務室の扉をくぐろうとしたリュンがぴたりとその歩みをとめる。
こちらを振り返った彼女は神妙な顔つきで言った。
「シスターを殺したのは私じゃないよ」

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マルセルは薄暗くなった医務室にランプを灯す。炎はやがてガラスの中で大きく成長しゆらゆらと踊るように揺れる。言いしれない恐怖が全員の背中を伝った。










next……



























彼は色欲
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彼女は純白
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		<title>episode４.死者を騙る者</title>

		<description>episode４.死者を騙る者




礼拝堂…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-size:medium;">episode４.死者を騙る者</span>

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礼拝堂に続く渡り廊下は石膏で造られた柱が何本も連なり中庭に開放されているため風が吹き通す。頬にあたる風は冷たく僕を突き刺すようだ。
僕は寮の部屋に戻ることも食堂に行くことも図書室に行くこともやめて、足の動くまま目が映し出すその先へふらりと時間を潰すことにした。
これは偶然。偶然を必然と呼ぶなら、そうなのかもしれないが。ある生徒の空気の上を走るかのようにそこらに響き渡った声も耳に古くないそこは、かつて生徒たちが足繁く通い祈りを捧げていたのが嘘かのように伽藍としていた。
何故、ここに来たのかと。硝子張りの窓を出し抜いて入ってきた光が僕に問う。眩い光を遮るように僕は右手を顔の前にかざした。指の隙間から僅かにみえる視界では足元も覚束無い。頼れる外界からの情報は両耳が受け取る。信じられないことに。誠に信じたくはないが、僕の耳は鼻をすすり、声を押し噛むようにして口から漏れ出た空気の音を拾った。とても厄介な先客がいる。
確かめるようそっと右手を下ろし声のする方へ首を傾ければ案の定、並べられたカウチの先に祈りを捧げるでもなく肩を揺らす生徒がいた。何故自分はここに来てしまったのか今すぐ踵を返したい。こんな気まずい状況に出くわすくらいならトニーと釣りでもしていたほうがマシだ。もっと言うならカタリナさんに説教でも受けた方がマシだ。いや、よく考えるとそれとこれは同じくらい嫌だ。
声をかけた方がいいのだろうか。右手はポケットの中に綺麗に折り畳まれたハンカチーフを見つけている。これを渡すか。渡すべきなのか。少し泥の着いたその靴先を生徒に気付かれないようにゆっくりとその生徒へ向けた。
小さな声で押し殺すようにその生徒の嗚咽が礼拝堂に漏れ出している。近づけば、それは女子生徒だった。僕は試験の結果が好ましくなかった時もこんな気分になる。どういう気分かとそれを言葉にするならそういう気分なのだ。腹の奥から喉に向けてつっかえ棒を出そうとしているような気分だ。つまり、ストレスだ。泣いている女子生徒に声をかけるなど、16年間の人生の中で上手くいった試しがない。そもそも上手くいったとは何を指すのかも分からないから上手くいかないのだ。
トクトクといつもより早く鼓動する心臓の上には赤い紐で繋がれたロザリオが揺れている。泣いている女性をほっぽく不名誉さと手に汗握るまだ見ぬ畏怖を天秤にかければそのまま背中を向けることは後ろ髪が引けた。
大丈夫だ。このくらい造作もない。思えば、こんなことよりもっと辛いことはたくさんあった。比べればこれくらい大したこともない。筈だ。
「よかったらこのハンカチを使うといい......」

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そう、例えば試験で残念な結果になった時シスターに呼び出された時を思い出すんだ。あの時は顔が真っ白になっているとトニーに心配された位だった。このくらいなんてことは無い。
思った以上に絞り出した声は小さかった。彼女には聞き届いていなかったかもしれない。
いきなり目の前に差し出されたハンカチにすんと顔を上げた女子生徒の目が合う。酷くやつれていていかにも精気がないとはこのようなことをいうのだろう。妖精に悪戯でもされたのかと心配になる。
「どうもありがとう。」
そう言ってハンカチを受け取ったまま自身の両手でそれを握り締めると彼女は再び瞳に涙を浮かばせてそれを零し始める。
やってしまった。失敗だ。こんな時はどうしたらいいんだ！
シドはその生徒の横でしどろもどろになり口からはう、だのあ、だの単音の母音が無意識に出てしまっていた。ハンカチが消えて行き場のなくなった右手を意味もなく上下させる。
落ち着け！こういう時はどうしたらいいのか。考えるんだ！そう、あの時は......。
引き攣っていた頬を引き締めてシドが生徒の横に人間1人分の空間を開けて腰を下ろす。いつだったか、泣いていた女の子を運悪く見つけてしまったことを思い出していた。その時は、僕の－自分で言うのも癪だが－砂糖粒程度の勇気を振り絞ってその子に声をかけたのだ。
「落ち着いたらでいいんだ、その。話を聞くよ」
シドは喉を振り絞った。お陰でさっきよりは大きな声が出たので、彼女の耳にも届いた様だ。女子生徒は首を縦に何度も降っている。涙はシドの一言が決め手になったのか決壊したように止められることなく溢れ出した。僕は横目でちらりとそれを確認するといたたまれなさに身を縮ませた。
あの時はその子になんて声をかけたんだっけ。僕はとてもじゃないけど誰かを慰めるなんて真似得意じゃなかった。それは今も変わらない。ましてやその時の僕はもっと人を励ますことなんてできもしなかった。きっととても下手なことを言ったのだろう。声をかければその子は俯いていた顔を上げてへらりと僕を見て笑ったんだ。自分が酷く情けなく思えたことだけは覚えている。泣いている子を慰めようと声をかけたはずなのにその笑顔に慰められたのは僕の方だったから。
数刻すれば彼女の呼吸は段々と緩やかさを得て、深呼吸を繰り返していた。ハンカチは涙で染みを作っている。ぽつりぽつりと小雨が降り注いだような、ぽつりぽつりと朝露が葉を滑り落ちるような声で彼女はゆっくりと語り始めた。
「私、あの時見てしまったの。今でも鮮明に脳裏に焼き付いているわ。」
「シスターが、十字架に括り付けられ、死んでいるのを」
彼女は自身が件の事件の第1発見者であることを話す。あの事件以来口を開くことなくずっと塞ぎ込んでいたという彼女の話は生徒会の人から聞いていた。無理に話を聞くのも良くないから、追いかけ回さないようにと釘を刺されていたことを思い出す。といってもあれは、僕たちにむけた言葉というよりも自信家で軽薄なある一人の男に対する忠告だと僕は思っている。
運の悪い少女だと僕は思った。あの日、この場で偶然にも足を運んで偶然にもそれを見た。僕だったらどうしただろう。死体なんてもの見たくもない。想像すれば口の中が酸っぱく感じる。
ふと、疑問に感じるのはどうしてわざわざこの少女は自身の心の傷ともいえる事件の火中に居るのかということだ。人のあられもない姿を見てしまった場所では嫌なことも思い返されるだろうに。シドは彼女が手に握るハンカチを見つめて彼女の言葉をじっと黙りこくって聞いていた。
「あなた聖痕を持っているの。あぁ、そう。ではあなたは罪人を探しているのね」
そうその女子生徒がかなしげな声を出し言うので、シドは顔を上げて彼女の方を見やる。彼女も同様にじっとシドの顔を、頬を、聖痕を瞳に写していた。
「あぁ、そうだ。けれど、どうして......？」
じっとこちらを見つめる彼女の瞳が刺すように痛い。この目は苦手だ。稀にいるのだ。聖痕をもつと分かると偶像としてこちらを敬愛するような人が。それは、生徒というより1部のシスター、特に妙齢のシスターに多い。
「死んだ先には何があると思う？」
女子生徒はこちらの質問には答える意思がないというようにその目を瞬かせ問うた。こういう目の人間は常に一方的でこちらからの言葉など左耳から右耳へと聞き流すのだ。その内界にある種の狂気を含んでいると僕は思う。彼女の視線は僕、聖痕にしがみついたままだ。
「......神を尊ぶ人間なら天国へ行ける。」
先日落第の判を受けた神学ではこのようにシスターが教鞭をとっていたはずなのでまちがいはない。この程度は常識なのでもはや試験にすらも出ないのだが。
「そうよね。えぇ、私もそう思うわ。死という運命さえも神が与えたものなの。あのシスターの姿をみて私もはっとさせられたわ。あなただってあの姿をみたらきっとそう思うはずよ。」
満足のいく回答だったようで女子生徒はうんうんと頭を頷かせながらようやくその視線を僕から放し、かつてあのシスターが掲げられていた方を向いた。その表情はどこかうっとりとしている。
「あぁ、神は偉大だわ。祈りを捧げることで私は死後の世界であっても幸福で居られるのね。そう信じていたからあのシスターも最後には笑っていたのよね。」
最後の日に審判を受け、永遠の生命を与えられる者と地獄へ堕ちる者へに分ける。神を尊べば死後、神のもとに復活することができるのだ。だから僕達は祈りを捧げる。誰だって幸福にありたいと願うのは当然だから。
ただ、彼女のそれは少々過激なようだ。先程まで震えていた彼女の影はどこにも見られない。
「私は毎日欠かさずここに通って祈りを捧げていたの。あの日も同じよ。運命なんて存在しない、全ては神の御心が決めたこと。だからあの日私にそれを見せたのは神の啓示といっていいとそう考えたの」
「シスターは笑ってたわ。確かに笑っていたの。神の元へ行けることがあんなにも幸せなのね。羨ましいわ、私あの日からずっとシスターの姿が頭から離れない。私もあぁなりたい。あんな名誉な死が他にあるのかしら！」
「いいえ、きっとないわ！私だって今すぐにでも神の元へ行こうと思ったのでもよく考えてみれば自分の命を捨てることは重罪でしょう？そう思ったら悲しくて哀しくて」
「涙が止まらなくなるの。人生において神と巡り会う以上の幸せはないのよ！あぁ、私はあとどれくらい神に祈り続けばいいのでしょうね。」
忙しなく動かされた彼女の舌は歌うように神への賛美を乗せる。祈りを欠かさないシドといえどその有様には不気味だと背中が冷たくなった。女子生徒は両手をキツく結び目を閉じゆっくりと頭を掲げて見せる。
「誓って祈りを捧げ続けるわ。偉大なる父に感謝しなくては。」
「ねぇ、貴方もそうでしょう？」
気づけば、こちらを覗き頬を引き攣るようにして口角を上げた彼女の姿があった。シドは瞠目し思わず声を上げそうになるのを既のところで腹の底にしまい込んだ。
僕は違う。僕は......。
語り終えてスッキリしたのか、こちらのことなどまるでなかったかのように女子生徒が涙を流しながら再び祈りを続け始めた。シドはその場を後にすることにした。今にも彼女が自分を殺してくれとナイフで脅されるのではないかと不安になったのだ。それは心配のし過ぎだと考えすぎだと思われるかもしれないが、それくらい女子生徒の瞳はぎらぎらとしていて恐ろしかった。既にその目はシドのことなど見つめてはいない、その目には神と字が刻まれているかのようだった。あれはとうに狂ってしまっているのかもしれない。人の死体なんて目の当たりにしたのが相当精神に異常をきたしているのだ。
人間の幸福とは、それを結果論で語るなら死後にしか語ることが出来ないだろう。彼女は自信が死人かのように死の先こそが幸福だと言ってみせたがそれはどうだろう。
礼拝堂から1秒でも早く離れたかったシドは少し足早に渡り廊下をかけた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
とんとんと掌に収まる程度のそれでも確かに厚みのある紙束をマシューが整えるように机上に叩きつける。紙は背の丈を揃えてマシューの手によって棚へと仕舞われた。
「2人とも助かった。ありがとな。」
そう言うと、マシューは生徒会室に備え付けられた椅子に腰掛けているドロシーとリュンに向けて爽やかな微笑みを返す。
「これは貸しですよ兄さん！今日の夜はホットココアを用意して下さいね！」
身を乗り出すようしてドロシーがふんすと鼻息を荒くして腕を組んだ。瞳を閉じ偉そうに口角だけを人一倍上げている。いつもであればマシューはその様子に呆れたようにため息をこぼしている所だが今回ばかりはマシューはドロシーに助けられた。つい先日から始まった事件の捜査にあたるばかりで普段の生徒会の公務が疎かになっていたのだ。その分、机には普段通りの書類が山積みになっていったのだがそれを片付けなくてはならない筈の人材が不足していた。廊下をとぼとぼと歩いて暇を潰していたリュンをようやく捕まえることに成功したので、巻き込むような形で一緒にいたドロシーを手伝わせたという始末だ。
ドロシーはカルペディエム所属であり、学院一の問題児の右腕のような存在なので生徒会の仕事なんて手伝わせるとハロルドに出くわした時につらつらと嫌味をぶつけられるのだ。しかし、この際仕方がない。何せ生徒会長として生徒会を率いているキャロルもこの場にいないのだ。生徒会が機能するのはこのマシューあってこそである。それこそ、ハロルドやカタリナを中心に生徒会に対してお小言を言われるのも致し方ないことだ。
「ふぅ、まったく人遣いが荒いんですよ！私だって忙しいんですってば」
ドロシーの横に腰掛けて椅子に座っている。前に乗り出しているドロシーとは反対に背中を背もたれに預けてくたっとしている。実際疲れたのだろうが、彼女は無理矢理ここに連れてこられなくてもやらなくてはならない通常業務であるということを自覚してほしい。マシューはじっとりとした粘着質な視線を彼女にぶつけた。文句を言って顰めっ面になっている彼女はその視線に気づくとそろりそろりと視線を逸らす。
「でもリュンも頑張ったな。それは褒めてやるけど、次からは俺が連れてこなくてもここに来てこの書類を片付けてくれよ」
彼女達の目の前にはそれぞれ書類が並んでいるが、マシュー、リュン、ドロシーの順にその数は減っていている。実質1番苦労をしているのはマシューであった。影で生徒会を支えている縁の下の力持ちとはマシューのことだ。彼がいなければこの学院の生徒会はほぼ機能していないだろう。
リュンはマシューが卒業したらどしようと背中を柔らかい素材の椅子に預けながら考え瞳を閉じた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
ぽちゃぽちゃと水音にうきが沈む音がする。先程から一向に釣れない魚と対峙していたのはトニーだった。
むしゃくしゃとした彼は癖毛が無造作にはねたスチールグレーの髪を掻き毟る。うがーーー！と言葉にもならないようの声を上げているがこの流れは先程から3回以上は見ている。
「何やってんだアイツ」
気になるとは言わない。いや目に入ってくるのだ。仕方がない。
エイダは池付近の背の高い木に上り日中を過ごすことが多い。そして、トニーも池で釣りをして過ごすことが多い。必然的にエイダはトニーのことをその木の枝に腰掛けたままぼうっと眺めてしまっていた。釣れもしないのにあぁやってずっといるから馬鹿馬鹿しくて仕方がないのだ。だが、それを言ってやるのも馬鹿馬鹿しいのでなるべく視界に入れないようにしているのに。目を瞑った傍から大声を上げるのでぎょっとして彼の方に視線を向けてしまうのだ。
自然と口からは空気が吐き出される。鬱々として重たいものだったが風に攫われて直ぐに消えた。
最近は煩わしいことばかりだ。あの事件以来、シスターの犯人を探すだのなんだのでカルぺディエムだけでなく、生徒会にまで付きまとわれる。
「これがなんだっていうんだ......」
自身の額当てをぎゅっと握り、目を瞑ると今でも思い返す事ができる。一面に広がるコーン畑、自由の国。こことは違う、伝統や宗教に縛られることもないあそこはいつだって異物を受け入れ共生してきた。
ここはさながら生き地獄だ。逃げ出すことなど、できやしない。彼奴らはそれを神のわざだといって尊び悦ぶ。でも、ワタシは違う。いつだって逃げ出せる。それなのに、そうしないんだからワタシも変わりはしない。自由を謳うのにいつだって身を縛るように熱い聖痕のせいで自由ではいられないのだ。
「わ"ーーーーー！！！」
男の叫ぶ声がしたと思えば、直後にはどぼん！と水が跳ねる音が辺りに響いた。鳥たちが羽の音を大きく鳴らして辺りから逃げていく。見れば、いや見なくても予想はついていたが彼が池に落ちているのがみえる。バシャバシャと手で水をかいてもがいているのをみてエイダは木から急いで下りて、池に溺れたトニーの方へと急ぐ。
「あ！足ついた！」
いま叫び出したいのはエイダの方だった。
「あれ！エイダ！いたのか！」
へへっと屈託のない笑顔を向けているが頭には池の植物が引っかかっている。どうしてか足が勝手に動いた。こんなやつ放っておけば良かったのにどうしてだろう。その笑顔をみれば幾分か怒りが収まりその間抜けさにむしろ愉快さが零れる。気づけばぷっと吹き出しエイダはトニーと同じように笑っていた。
「笑うなよ......」
気恥しそうにトニーが水を掻き分け陸に上がると水を吸った制服を重そうに引き摺った。怪我はないようだ。
「オマエは死にそうにないな。どんなドジを踏んでも笑ってもらえるだろうよ」
笑われると恥ずかしそうにするのも面白い。ずっと見ていても飽きることがない。これならば目に入れられる。
「なっ！怖いこというなよ！こんなドジで死にたくねぇよ俺は」
「あぁ、そんなドジで死んだら一生笑いものにしてやるよ」
むっとした彼がエイダに言い返すが彼女に叶うはずもない。いとも容易く転がされている。いいかえすこともできずに口元をもごもごと動かす彼を見てまた笑いが込み上げる。エイダをちらりとみたトニーはその表情に頬をすこし染めた。これは池の冷たさに寒さに震えているだけだと心の中で何度も唱える。少し動悸が早い気がするのも彼の中では全て池に落ちたせいなのだ。
「名探偵トニー様はなんだって釣りなんかで暇つぶしてんだよ、事件解決はまだか？」
揶揄う仕草でエイダはトニーに近づくとひょいと彼についた池の植物をとりそこらに投げた。別段、彼らの行動に興味がある訳でもないがあんなに張り切っていた人物がこんな所で道草を食っているのを疑問に思ったのだ。
「あれ以来人影の噂も聞かなくなったし。犯人のしっぽは掴めねぇんだよ。これだ！っていう情報も掴めないし......。そうだ！エイダも協力してくれよ！」
頼む！と両手をぱちんと合わせて彼はエイダに頭を下げる。その仕草のせいで彼に滴っている水が少し跳ねた。迷惑そうにエイダは顔を歪めると嫌だといって踵を返した。彼に質問したのはエイダの方だったがこのような流れになることを望んだ訳では無いのだ。それでも諦めずにトニーはエイダの後を濡れた身体で付いてくる。
池臭いからはやく寮に戻って着替えてこい！とエイダがいうとハッとした様な表情でポリポリと頭をかきながら彼は寮の方へと背を向け駆け足で行ってしまった。その場にはぽつんとエイダだけが取り残される。
まさかアイツ自分がびしょ濡れなこと忘れてたんじゃないよな。
ため息が零れた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
トニーは自身の部屋へと早足で歩いていた。池で水を吸った靴は先程から床を踏みしめる度に水を吐き出して気持ち悪い音を出している。またそれは音だけではなく、歩いているトニーの足も悲鳴をあげている。
廊下ですれ違う生徒からは奇異な目で見られるが、もはやこれには慣れたものだ。相手方もトニーのドジには見慣れているのだろう。深く訳を聞いてくる生徒もいたが池に落ちたというと腹を抱えて笑っていた。
トニーの髪から服から滴った水が歩いたあとを追うように廊下を濡らしている。遠くで掃除を担うシスターが悲鳴をあげる声が聞こえるが、トニーには聞こえていないのか歩みを止めることなく彼は進んでいた。
「お前、酷い格好してるぞ......」
ぶつかりそうな勢いで進行方向の反対側からやってきた誰かに焦点を合わせるとこれまた眉を釣り上げ顔を顰めた親友がいた。シドも何かから逃げるような足ぶりで歩いていたようで危うくぶつかる所だった。トニーはそっと胸を撫で下ろす。シドはというと、なんでそんなに濡れているんだとか制服に藻がついているぞとトニーから1歩離れる。明らかに嫌そうな顔をして離れるのでじりりとトニーも彼に詰め寄った。
「ハンカチくらい貸せよ！」
なんて言い草なんだ。それが人に物を頼む態度かなどと悪態をつきながらその言葉にシドは右ポケットへと手を運ぼうとするが途中であ！と一際大きな声を挙げた。
何かに気づいた様子の彼は元より白い顔面を青白くさせて両手を顔の横へとあげた。きっと睨むようにしてトニーを見たので一瞬ぎょっとする。
「......ハンカチはない！さっさと自室に戻れ！......ストレスだ。」
何故か少し焦った様子のシドはそのままハンカチは諦めようとぶつくさと言いながらとぼとぼと歩いていってしまった。その方向からして自分の部屋に戻るのかもしれない。シドはトニーと違ってハンカチを忘れたりすることも少ないのだが、今日はどうしたのだろう。親友の丸まった背中から視線を逸らしトニーもまた反対方向へと進んだ。
その途中、そういえばとこの前の神学と数学と物理学の授業でシドと共に落第の判を貰ってシスターに怒られたことを思い出す。再試験を言い渡されたのでまた一緒に勉強会でもしようと先程すれ違ったシドのことを考えた。今日も一緒に釣りに行こうと誘ったが、すごい顔をして断られたのだ。散歩に行くんだとトニーよりも先に教室を出ていったきり彼がどこに行ったか分からないがよっぽど嫌なことでもあったのだろうか。
まあ、何にせよ、話は明日にでも聞けばいいか。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「僕を見るなり突っかかってくるのは辞めて欲しいな」
「まさか。ご挨拶をと思って声をかけただけだが」
トニーは目の前の光景に目を丸くした。温和でおっとりたまに抜けているのかと思うほど間の抜けたところがあるが頼りになるマルセルと自身の手当をしてくれることもある自信家だが聡明、なんだかんだいって好感をもっていたハロルドの2人が廊下の真ん中でトニーの行く手を塞ぐように口喧嘩をおっぴろげていたのだ。いつもは余裕の笑みを浮かべていていかにも先輩らしい姿しか見ていなかったためこのように眉を顰めては相手を牽制する2人をみてトニーは驚いた。ハロルドに関していえば生徒会に対する態度は割と辛辣なものがあるところはこれまでの所でよく知っていたが、まさかあのマルセルがこう人に接することが出来るとは意外だった。
「ん？ブラザー！ブラザーではないか良いところにいた。その姿実に愉快だね、今日の天気は晴れだが所により雨模様だったのかい？」
ハロルドは行く手を巾かれ2人の前で歩みを止めたトニーに気づくと両手を広げて彼に近づく素振りをみせた。だが、直ぐにそのトニーの体が全身水気を含み豪快な水遊びをしたということがわかると1歩止まり愉快そうに声をあげ笑っている。先程までマルセルとの間で火花が飛んでいたのは嘘のようだ。
「いや、雨つうかこれはなんつうか事故つうか......です」
覚束無い敬語で照れ臭そうにポリポリと後頭部をかいた。このように声をかけられるのももう何度目だ。その下手くそな敬語をきいて余っ程ツボに入ったのかハロルドは可笑しくてたまらないと言いたげに再び笑い出した。掴みどころのない人だ。あえて、掴まえられぬようにしているのかもしれないが。
トニーは身体をくの字にして笑い転げるハロルドを横目にちらりとマルセルを伺った。
「あぁ、気の毒だったね。僕はあれとは違って君の失態を笑ったりしないよ！これを使って」
そう言ってマルセルはポケットの中から少しグシャグシャになったハンカチをとりだすと、髪から滴っている水で濡れたトニーの顔をゴシゴシと拭った。赤子のように世話をされるがトニーになすすべは無い。ハンカチからは保健室の薬品の匂いがする。
「ありがとうごさいます！」
大きな声でそういうと、先程のマルセルの嫌味が気に入らなかったのか今度はハロルドが綺麗に折り畳まれ美しい刺繍の施されたハンカチを手にそれを差し出してくる。使えということだろうが、あまりにも綺麗なのでこれを使って汚すのはとてもじゃないけど気が引けたので丁重にお断りした。ハロルドにはそれが不服だったようだ。今日はやけに色んな人に会うなとトニーは目の前で煽りあい全くもってトニーを通しす気のない2人を眺めてぼうっと考えていた。
「はっぐしょぁ"ん！」
2人の言い合いを止めたのはトニーの豪快なくしゃみだった。2人は火花を散らしあっていた視線をそのトニーへと向ける。マルセルはそのくしゃみを聞いて瞠目するが直ぐに利き手の手袋を外しトニーに駆け寄って、その手を取った。
「冷たいな。もう夏も終わるっていうのにこんな格好じゃそりゃくしゃみもでるよ。暖かいシャワーでも浴びた方がいい。喉が痛くなったりくしゃみが止まらないようなら医務室にくるんだ」
子供を叱るような仕草でマルセルはトニーに言い放った。
してやったりという顔をしているが早く部屋に戻ろうとしていたところを邪魔されていたのはこちらなのだが。
「あぁブラザー、そうすべきだ。まずはその衣服を取り替えた方がいい。自室への行き方は覚えているか？」
ハロルドはトニーを何歳児だと思っているのだろう。自室への行き方くらいはさすがにわかる。眉を八の字にしトニーを心配するような素振りで肩を掴まれるが彼が本気で言っているのかどうかは分からなかった。
トニーは心配ありがとうございますと引き攣った笑みで2人の間を潜り抜けた。人騒がせな人達だ。決して悪い人ではないのだが如何せんこういった所がある。完璧な人間なんていないのだから仕方の無いことだ。
トニーは鼻水をずずっと啜り自室へと急いだ。廊下を曲がって階段を１階分登り右に曲がればすぐに自分のベッドにありつける。なんてことは無い。池に落ちて風邪をひくのも初めてじゃない。大丈夫だ。充分いつも通りなのだ。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
ここロプツォルゴ学院の図書室は蔵書が豊富だ。城の一角には離れのような造りになっており、そこ一体は図書室とされている。本棚が壁のようにいくつも並びさながら迷路のような空間で窓から差し込む光が遮られるためとても薄暗い。唯一読書のために用意された机には明かりが灯されている。それ以外は手持ちのランプを持つ以外に明かりはない。
その一角にはセレスタイン家の双子が2人肩を並べて読書をしていた。その向かいには読み切れないだろう量の本をいくつも机に並べ読書に耽っているラムダがいる。
「地のすべての獣、空のすべての鳥、地に這うすべてのもの、海のすべての魚は恐れおののいて、あなたがたの支配に服し、すべて生きて動くものはあなたがたの食物となるであろう」
そうディオネが手に持つ本を読み上げ、自身の片割れへと視線を向けた。
「神様はすごいのよ、テティ。これによると神は6日間で天地を創造したの。人間の男は土から、女は男の肋骨から。動物は人間の食物として神がお造りになったの」
何が面白いのか彼女はくすくすと笑ってみせる。そんな自身の姉を見てテティスは心臓のもっと中心がくすぐったい気持ちに苛まれるのだ。

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「それは創世記ネ。デュオは神学に興味があるの？もっと面白い本は沢山あるのにそれを選ぶのは変わってるワ」
ふと、目の前に座って本に埋もれてこちらに目もくれなかった小さな先輩が本ではなく2人に話しかける。途端にディオネは機嫌を良くして口角をさらにあげた。
「ラムダさんが読んでる本がどんなものか気になったの。」
本を抱きしめるように抱えて、ディオネはラムダに微笑みかける。テティスはその姉の様子を見てこの2人の会話を穏やかな微笑みを浮かべて聞いている。
「アラそう。アナタは神に興味がないのだと思っていタワ」
ラムダはそう言うとちらりとその視線をテティスに向けた。この双子はよく図書室に来てこうして共に時間を過ごすこともある。話に聞けばテティスが神を信じ尊ぶように語る一方でディオネも同じように神を敬ってるように思える。だが、言葉の節々から彼女自身の信仰があまり深くないことは容易にみてとれる。神を信じる人間というのはその目に狂気を孕み、それでいて平気で愛を語り、もっと清廉潔白なのだ。
ラムダの言葉にディオネは目を細めた。
「神は時に残酷なのね。動物はあんなに可愛らしいのに殺して食べるだけに存在するなんていうんだもの」
彼女は手に持っていた本をぱたりと片手で閉じその本を机においた。彼女は決してテティスの前で神についてこのように語ることはないので珍しいと思う。
「動物に同情するのは、動物が人間に近い存在だカラ。植物にはそう感じないでショウ？人間は人よりかけ離れた存在には憐れみも尊敬も感じないようにできているのデス」
そういうとラムダはまた静かに読みかけの本に視線を移して二度とこちらを見ることをしなかった。
読書を止めた姉にテティスは食堂にでも行こうかと声をかけるがディオネは静かに首を横に振るだけだ。
「テティはどう思うの？」
質問の意図を掴むことができずテティスは曖昧に笑うことしか出来なかった。じっとこちらを見つめたままのその瞳には自分がいる。その事に酷く安堵していた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
朝は潮のように夜を追い出していく。遠方から滲むように広がる朝は古城の黒を白く明るく染め上げるのだ。どこからか鐘が響き鶏鳴の声がする。かすかな輝きが空気の層を白く照らした。
朝の食堂には並べられた長机一面に皿が幾つも並び生徒たちがそれぞれ着席し食事をとっている。名画さながらのご馳走だ。いつにも増して豪勢な大皿の中身から器用に自分の好みのものだけを取り分けた。コース料理のように出てきたものを食べるのとは訳が違うのだ。好みのものだけ食べても誰も文句は言わないだろう。そう考えて、カタリナは苦味のある食材を避けて自身の小皿の隙間を無くしていた。
背筋をピンとのばしその制服には一切の乱れもない。彼女にとって朝とはそういうものだ。朝からだらしなくすればその日一日は酷く堕落したものになる。そう、隣の彼のように。カタリナはその視線を隣で大皿を食べ尽くす勢いで食事をするブレットに向けられていた。鋭い眼光に目もくれずブレットは食事を楽しんでいる。
「ブレット、貴方きちんと噛み締めて食べていますの？食材たちに感謝するという気持ちはないのかしら」
眉はぐぐぐと顔の中心、鼻の方へと寄せられた。カタリナは普段から眉を顰めているが人に注意する時もより一層不機嫌そうな顔をする。
「お〜！神よ〜！ありがたい！昨日の夜から何も食べていないんだ！ありがたや〜」
ブレットはそう口だけの感謝を述べながらもごもごと言いながら食べ続ける。この様子を見るに食事の前に祈りを捧げることなく乱暴に席について食事を始めたに違いない。なんと不敬な。
少し食事の時間からは遅れて椅子を引く音がカタリナの横からする。ブレットから視線を外しその音の方を見やると寝坊しちゃったといい癖毛を抑えて座るキャロルがいた。
完璧な朝とはこのようなものでは決してない。カタリナの両端に座る彼らは今日という一日を朝から台無しにしているのだ。彼女はふんとフォークを手にし食事を再開することにした。皿には何故か緑色の苦味を伴うグリーンピースが紛れていた。覚悟をきめてぐさりとそれをフォークで人差ししたあと一思いに口に放り入れる。完璧な朝とはこのようなことで覆されるものでは無いのだ。決して。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「あれ、こっちだったか！また間違えた......」
朝方の廊下は人通りが少ない。皆、それぞれ食堂で食事をとっているか又は眠っているからだ。その廊下にぽつりと両手をぶらりとさせ頭を下げた姿勢のトニーがいた。彼の手にはハンカチが握られている。
綺麗に畳まれたハンカチを手に朝なことを思い浮かべた。
先程食堂に向かう途中である女子生徒に声をかけられたのだ。
「あの、昨日これをキングストンさんから借りたのですが返し忘れていたの。あなたはバルフさんよね？キングストンさんと仲がいいって聞いたから......」
返して欲しいのだとそのハンカチを手に握らされる。聞けば、彼女は礼拝堂にいた所ある事情からシドにハンカチを貸してもらったのだとか。話を聞いてあのシドがと驚くが彼が見て見ぬふりをしてそのまま踵を返すのも想像がつかなかった。あぁ見えて、彼は人を思いやる性格だ。彼女はシドの名前を知らなかったのだが、頬に聖痕があるということだけは見て知っていたのでそれを頼りに名前を聞いたのだと。自分で返しに行こうかと考えたのだが少し話した時に彼のことを怖がらせてしまったようで顔を合わせるのは気まずいのだと。そういえば、昨日の彼はハンカチのことを思い浮かべると狐に化かされたような顔をしていたことを思い出す。この事だったのかとトニーは納得した。トニーがそのような願いを断る訳もなく快い返事をしたあと直ぐにトニーはシドの部屋へと向かっていたのだ。
朝から廊下に立ち往生するとはついていない。昨日のこともあって少し風邪気味なのだ。朝食の後は授業まで少し時間があるから医務室にでも行こうかと考えていたのだが。まずは親友に会いに行かなくてはさっきとは逆の方へとトニーは足を進めた。確かこの辺だったという記憶があるのだが。幾つかの扉が並んでいる。
ふと、見覚えのある光景がそこにあることに気づく。以前もトニーはシドと共にシドの自室に訪れたことがある。あれは確か前の試験のときだ。ペンのインクが切れてしまって、シドに借りようと訪れた。扉をノックして出てきたシドは呆れてものも言えないって顔をしてたなあ。ブツブツと文句を言いながらもインクを差し出してくれた。そんなことを思い出しながらトニーはシドの寮室の扉をノックする。返事を待つことなく、彼はガチャリとドアノブを回し部屋へと足を踏み入れた。
「おい！どうして勝手に入ってくるんだ！ノックしたなら返事をまつのが常識だろう......。」
「......いや、お前に言っても仕方ないよな何度言っても治す気配が無い。」
彼はため息を零し、口では何を言っても無駄だと諦めこちらをじろりと睨むのだ。
トニーは俺たちの中なんだ別にいいだろ、と人の部屋であるにも関わらずずかずかと足を踏み入れた。
綺麗に整理された室内には物の置き場所が神経質に決められているんだろう。部屋の中で1番日の辺りがいいところには真っ白なシーツが敷かれたベッドが置いてある。既に制服に着替えこれから朝食に出かけるところだったんだろう。ベストを羽織りかけているシドがいた。
筈だった。
最悪な朝だ。完璧な朝など存在するはずが無い。完璧なのは、この世にひとつ。全知全能の神だけなのだと。それが嘲笑っているのだ。

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神経質な彼によって丁寧に置かれたその室内には真っ赤な血飛沫が描かれている。その血は天井に向かって水面に毛糸を浮かべたように線になって走っていた。真っ白なハズのシーツは日の出より赤い。幾ふさの葡萄を胸に潰したように白い肌には銀のナイフが突き刺さっている。その表情は穏やかに緩やかに笑みを浮かんでいた。
あぁ、神よ。どうか我らをお救い下さい？
馬鹿馬鹿しい。そう誰かが耳元で言った気がした。
-「そんなに神に願って、何から救われたいんだよ」
俺はある時、自分より少し背の丈が低いそいつにそう聞いた。彼は神を信じている。何かと自分の胸のロザリオを握っては祈りを捧げるのだ。
ふと彼にとって救いとは何を指すのか気になった。小さな疑問だ。別に、これと言って何のことも無い。
貴方は救われているかと問われて、戸惑う人間は自分は救われる必要があると思っていないんだと俺は思う。救いとを物理的な意味で捉えれば健康である程度経済的に困ることも無ければ必要とされることも無いだろう。しかし、致命的な欠陥をもち病弱な人間は別だ。自分の命に救いの恩情を求める。でも、俺が口にしたのはそういった類の救いの話ではなく、もっと根本的な意味での質問だ。それは言うなれば、魂の救い。悪しき心の持ち主は常に本能的な恐れを感じていつも精神的に逃げ惑う。それに対して正しい人間というのは力に満ち溢れている。ある種の人間は常に裁きに対して一方的な恐怖を抱いているのだ。それは神の怒り。そしてそれから救われようと解放されようと願う。何が彼を神に祈りを捧げるほどに苛み苦しめているのか。彼は一体何をそんなに怯えているのか。
その質問にそいつはこっちを見ることもせずまた自身のロザリオを強く握った。
「僕はいらない。救われて欲しい人がいるんだ」
そいつの睫毛が影を落とした。あぁ、それを隣人愛とは呼ばないんだろうな。それは、言うなれば＿＿＿＿＿＿＿。
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		<dc:date>2021-09-29T00:24:41+09:00</dc:date>
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		<title>episode.3  悠久の冷気を温めて</title>

		<description>episode.3  悠久の冷気を温めて



「…</description>
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			<![CDATA[ <span style="font-size:medium;">episode.3  悠久の冷気を温めて</span>

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「気持ちは晴れた？」
「少しはすかっとしたかな。」
「それは、よかった。」
「......ねぇ、もしかして。後悔してる？」
「いいや、少しも。」
「あなたは？」
「......聞くまでもないか。」


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「何から語ったらいいか......」
礼拝堂のステンドガラスからは光が漏れ無慈悲なまでに透徹であった。その光を受け礼拝堂の木製のカウチに腰をかけた2人の生徒がいる。夏だというのにカウチは乾きひんやりとしていた。1人はチョコレートブラウンの髪を肩まで伸ばした少女で悲しみや恐れ、そうした押し隠すことの出来ない幾つもの感情がべったりと顔に張り付き酷くやつれている。もう1人は男性の割には細身で華奢な体躯で髪は長く、雪のように真白な青年であった。彼の手には真っ白なハンカチが広げられその中には包まれたプレーンのクッキーが数枚ある。小さな体を椅子に張り付け自分の靴先を眺めている彼女とは反対に、男はその下肢を大きく広げ光の入り込む方に顔を向けていた。
彼女は池の周りを歩いていたところを学院屈指の問題児ハロルド・ドクトリクに運悪く、否運良くといった具合に声をかけられ流れるように言葉巧みにこの礼拝堂へと連れてこられていた。ハロルドの手には何故かハンカチに包まれたクッキーが偶然、運良く握られておりこれを餌に彼女は彼に付いてきたのだ。このクッキーは彼が長年敵視を向ける彼から何かと理由をつけて奪いとった物ではあるがハロルドは何としてもそんなことは認めないであろう。
「では、出逢いから。レディとシスターがどのようにして巡り会ったのか、そこから話して頂いても？」
ぱちりと片目をつむり彼女を見つめた。じっと靴先を眺め俯いていた彼女が榛色の瞳を細めゆっくりとまばたきを繰り返す。
酷く幻想的で、淡い夢のような日々を記憶を頼りに瞼に思い描いた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
シスター・ウルスラは学院内における雑務を担う1人の修道女であった。厳格な信徒で清貧と貞潔の誓願の元に生活を送る模範的な人物だ。当時の彼女は学院内でも生徒が多く使用する寮のシーツの水洗を担当していた。日の高く昇らない朝方に汚れたシーツを木製の樽に石鹸と共に投げ入れ足の裏を使い器用に洗う。一日で1番日が高く上る時間にはシーツを日光に当て青空と深緑の元に白を彩る。シーツを乾かす間に祈りを捧げ、食事を摂る。自由時間を過ごした後に乾いたシーツを畳み部屋へとしまう。これが彼女の日課であり、神への清潔を示す最善の道であると信じて疑うことを彼女は1度もしなかった。
柔らかな微笑みを浮かべ、生徒との交流を求められれば期待通りの清廉な声で神を褒め讃えた。人当たりの良い彼女は誰にでも親切で慈愛を尊ぶ性格であったので多くの生徒から信頼を寄せられていたのだ。
チョコレートブラウンに榛色の瞳を輝かせた彼女もシスター・ウルスラを慕う生徒のうち1人であった。
ある時、彼女は1人身をかがめ神に一心に祈りを捧げていた。学院に入学し数年、家族とも友人とも離れ空白で透明な自身を神はその偉大な光で包み込み導いてくれていると信じていた。神に祈りを捧げれば何かから救ってくれると感じていた。何から救って欲しいというのか、それは途方もない期待で、無意味な祈りだった。今思えばホームシックとやらだったのかもしれない。初等部も中盤を迎えた年頃だったとはいえ、未だに学院には馴染めずに友人と呼べる人間も周りに作ることが出来ずにいた。自分にとって神への信奉を捧げることは一種の楔であり救いであった。大層な理由をつけたただの強がりとも。
言葉にならない寂しさを神へ祈りを捧げることで忘れることができると思っていた。木製のカウチはいつもほんのり冷たくて、腰掛けることが次第に怖くなっていた。ぎゅっと固く目を瞑り神に祈りを捧げる。いつしか緩く結び組んだ指は爪が肌にくい込み痛みを感じ始めている。
「貴方の手は酷く冷えていますね」
祈りを捧げていた手をそっと優しく生暖かい人間の手に触れられていた。きつく結んだ目をそっと開き、思わず差し込む明るい光に目を白くさせた。ステンドガラスから漏れ入る光はいつも彼女をきらきらと輝かせていた。その時も、シスターは光を受けその瞳を私と交差させ微笑み笑った。
「大丈夫、神は貴方を見捨てたりしません」
その言葉に救われた気がした。空っぽだった心に注がれたのは何だったか、いつしかカウチは人肌に温められている。
それからシスターは私の母となり姉となり友人となり先生となり恋い慕う人となる。何年も祈りの時間を共にすごし、言葉を交わした。たわいのない会話だった。天気がいいと日向ぼっこをしたくなるとか、甘いものをお腹いっぱい食べたいだとか。時には、食堂から盗んだクッキーを分け合い談笑もした。シスターの瞳から向けられる恵愛を精一杯に感じ取れることが透明な生活に色を指すような瞬間だったのだ。彼女の瞳を見つめれば嫌だったことも水に流れていくようにすっと外へと消えていく。心地よかった。彼女への感情を言葉にしろと言われれば何かと頭を捻るがそこには確かな愛と緩やかな時間を数年間過ごした2人の影があり記憶があるのだ。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「この先も、ずっと彼女と過ごす日々をと願っていたかい？」
ハロルドは彼女の紡ぐ言葉に耳を傾けていた。真横に座る少女と話中のシスター・ウルスラもこうして言葉を交わしていたのだろう。ハロルドは神へ祈りを捧げない。それは無意味なものだ。その考え通り彼のロザリオは自室のデスクに長年眠ったままだ。しかし、自分が神を信じないからといって彼女の神を信じ祈りを捧げるその姿を嘲るようなことは彼は決してしなかった。
「......そうですね。でも、彼女はきっと分かっていたのではないでしょうか」
彼女の言葉に淀みはなく、澄んだ瞳は今までの鬱憤した悲しみを誰かに話し吐き出すことで澄み切って見えた。ハロルドは天を向いていた顔を彼女に向け、頭をひねらす。シスター・ウルスラは何を分かっていたのかと問う前に彼女はそっとその視線をハロルドに向けた。
「ええ、自身の死の予感を......」
シスター・ウルスラとは、神に仕えた純潔な修道女。件の事件の被害者である。
この礼拝堂の聖書台の奥に掲げられていた巨大な十字架に、まるで絵画の主君のように磔にされ死んでいたあの修道女である。そして、ハロルドの横に腰かけその修道女との思い出を語るその少女は彼女と最も近しい存在であった生徒である。
ハロルドは彼女の口からシスター・ウルスラという人物について知るべく言葉巧みに彼女の口を開かせた。手に持ったこのクッキーも彼女から話を聞くために用意したものに過ぎない。
「......それは初耳だ。シスターは自身の死を知っていたのか？なぜそう思ったのか、お聞かせ頂いても？」
彼は広げていた足を組み、彼女の話に耳を傾けることに神経を集中させる。なぜ目の前の少女がそのように考えたのか、彼はとても興味があった。ハロルドは思わず少女に圧をかけるように上半身をぐっと前に出しかけたが、あくまで紳士めいた行動をとるべく理性で押しとどめる。
「決定的な言葉を聞いたわけではありませんよ。数年間一緒にいたのです、彼女の些細な変化くらいには気づきます」
「いつも達観した視点からものを考える人ではありましたが、事件が起こる前の彼女はとても盲目で......。」
「心ここに在らずというか、とてもではありませんが酷く哀しそうだったのです」
そよ風が礼拝堂の広く開け放たれた窓辺から入り、同じように反対方向に位置する窓辺の出口から出ていった。彼女の髪の毛がそよ風にのる。シスターは酷く哀しそうだったと語る彼女もまた同じように哀しさを瞳に感じさせていた。彼女はその榛色の瞳をそっと閉じ、彼女と最後に交わした瞬間を思い出す。
「あれは、事件が起こる5日程前でした」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


その日、いつもと同じ時刻に変わらずに訪れた礼拝堂には少し先にやってきたのであろう彼女が1人静かにベンチに腰掛け祈りを捧げていた。
何故か彼女はこちらをちらりと見ることなくじっとどこかを見つめている。彼女の視線の先を辿ればそこには彼女の身長の2倍はあるだろう十字架が見える。彼女のどこか悲しげな瞳がまたその美しさを際立たせていた。
少女はシスターの横に人一人分程の距離を開けて腰を下ろす。それでも彼女はこちらをちらりと見ることもなく、礼拝堂の奥を見つめたままだ。
何か声をかけようかと、少女が口を開けた時未だにこちらを見ることなくシスターは口を開いた。
「私は私自身の幸せや救いを願ったことはありませんでした。いつも私の身の回りの人や物の全てに感謝をし彼らの幸せを願いました。そうして神に祈りを捧げることで私に全てをもたらした神に感謝を述べているつもりでした」
「あなたもその1人です。あなたは私にとって眩しく尊い存在であったのであなたと私が巡り会えたことに感謝を述べました」
「私はずっと神に身を捧げているつもりでした。祈りに見返りを必要としたことはありません。見返りを求めることは強欲です。過度な欲望は身を滅ぼしますから」
「節制に生きなくては。必要最低限のものを口にして生きていくのです。でも、隣人には自分が持ちうる全てを捧げなくてはなりません」
「こうした徳を積むことを主君だけは見ている。そしていつか私がこの人生というものから開放された時主君は私を永遠の園へと......」
「あぁ、なのに私は......」
次の言葉を彼女は口にしなかった。ゆっくりと動く饒舌な口は次第に言葉を紡ぐことを恐れていた。彼女の瞳はゆらゆらと揺れていて今にも何かがこぼれ落ちそうだ。
少女は彼女の強く組み結ばれたその手をいつか彼女が自分にしてくれたように優しく包み込もうと手を伸ばす。すると、シスターは首を横に振りこちらに顔を向け微笑んだ。
何を言ってもあなたに私の想いが届くことはないのかもしれない。既に届いていても彼女の意思はどこかで強く定まっているのかもしれない。
それから、5日ほどシスターは礼拝堂に訪れることは無かった。他のシスターに聞いても彼女がどこにいるか誰も教えてくれることはなかった。ただ単に知らなかったのかもしれない。彼女のいない礼拝堂に行くのが怖くて礼拝堂に立ち寄るのを私もやめた。
そうして、何日かたった頃に私の目の前に差し出されたのは1枚の号外新聞である紙切れと、あれから数年学院でできた僅かな友人たちからの噂話で聞いたこと。シスター・ウルスラが死んだことを知った。何度か他のシスターたちに彼女の葬送に顔を出したいのだと訴えたが誰も私の要望を聞いてくれることはなかった。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「今日は風が強い、夜には少し荒れるかもしれないな。早く寮に帰った方が良さそうだ」
一通り彼女の話を聞いた彼はその表情をぴくりとも変えることなく立ち上がる。いきなり膝を伸ばした彼に驚いた少女が彼を視界に捉えた。ハロルドは手にしていたクッキーを少女の手のひらにそっとのせる。
「これは今日のお礼だ。君は今酷く落胆しているようだね。生憎そういったことには無縁だ。形だけのおべっかで慰めることもできるがそれは真摯に話をしてくれた君に失礼にあたるね」
彼はふむ、と顎に手を添え何かを考え込むような仕草をして見せる。少女は手渡されたクッキーを手にきょとんと間の抜けた顔を彼に向けたまま固まっていた。
「そうか、シスター・ウルスラは自身の死を予感していた......。君は彼女との最後の会話の中にそれを感じたという。」
息をするかのように彼の口からはペラペラと言葉が発されていく。風が彼の髪の毛をそよそよと揺らす。
「僕は未来も過去もさして気にしない。その時々を常に楽しみ息をしているからね」
彼もあの時のシスターと同じだ。こちらを一切垣間見ようともしない。彼のその瞳に浮かぶ感情から悲しみを感じないのがシスターとの違いだろうか。
「明日死を迎えると分かってしまっている人間が、日々の移ろいをどう感じるか。残された日々をどう過ごすべきなのか。少なくとも神なんかには決められなくもないな」
ハロルドの乾いた笑いが礼拝堂に響く。カツカツと靴を鳴らしながら彼はひらりとブレザーを翻しその足を礼拝堂の出口へと向けた。そのクッキーは少し甘すぎると彼は最後に残しこちらを1度も振り返ることをしなかった。
1人残された彼女はクッキーを手にし、開けられたまま閉められることもなかった扉の外を呆然と見つめていた。先程から自身の髪を撫でるように吹くこの風のような人だった。彼を掴むことはできないのだろうな、と彼女は考えて礼拝堂を後にした。
段々と風が強くなっている。彼が言ったように今夜は少し荒れるかもしれないと、少女は足を早めた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

時刻は午後11時。日はとっくのとうに沈みきって空には星が幾つも浮かび上がり天文塔からはさぞ美しい景色が眺められる時間帯だ。だがしかし、学院の窓は固く閉められており窓には鍵が掛けられている。それでも、窓はカタカタと音を立てすきま風がひゅーと音を鳴らしている。現在、外の天気は大荒れであった。日が沈みかけた頃から風が強さを一段と増し、どんどん黒い雲に空が覆われていった。ほとんどの生徒が夕食をとり終えた頃には雨と風が酷く、時には雷もなっている。
そんな最悪の状況で、寮の談話室にはちょうど14人、件の聖痕をもつ者全員集まっていた。
「ヘドニズムだね。切り裂き魔にとっての快楽は殺人そのもの、あれの犯行には私怨が絡まない。死のみを求める亡霊だよ......」
切り裂き魔、それはロンドンを騒がす凶悪犯罪者の通称である。ロンドン中の市民に恐怖と悲鳴をもたらし現在もその全貌は掴むことは愚か正体は霧の中に隠されたままだ。その言葉について13人の生徒たちに語ったのはリュン・フィーであった。彼女は腕を引き裂くように現れた自身の聖痕をなぞるように布の上からそっとその痕をなぞった。夜だからだろうか、その視線にはどこか薄暗く、普段の彼女からは感じられない弱々しさを感じた。リュンがそう語る周りには生徒たちが談話室のソファにそれぞれ座っている。部屋はオイルランプの暖かな光によって照らされていた。
14人の生徒がこうして、この談話室に集まるまでの経緯について、話を遡るにはまず学院にはびこるとある噂話が元にある。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
先日、シスター・ブラウンの頼みを聞く代わりに物置の鍵を手に入れ芋づる式に森への鍵も手に入れることができたが、同時に新たな情報を手に入れることができた。マシューたち一行とは別にシスターブラウンから物置の鍵を借りた生徒がいるというのだ。彼女は妙齢であり、鍵を貸し出した生徒についてよく覚えていないと語る。
これまで事件の犯人について、挙げられるのは外部の人間か内部の人間かであり特定は未だにできていなかった。外部の人間が犯人であった場合、学院への侵入経路は森を通った道が1番確実である。他の道は全て監視されており簡単に侵入することができないほか、実際にそのような侵入者がいたという話は一切報告されていない。但し、森には中からしか開けることが出来ない鍵が掛けられている。その鍵を学院内の誰かが近いうちのいつかに手にした経緯があるのだ。内部の人間が外部の人間を誘導したという線があがるのは必然であった。
そうした考えに至った時、ある2人の生徒が顔を暗くさせていた。シド・キングストンとリュン・フィーの2人である。彼ら2人は学年こそ違うが学院内に転入したのはちょうど同じ時期である1年前という時期であった。
ロプツォルゴ学院は一切外との交流を隔てている。生徒の家族とでさえも連絡をとることを許されていない。最低限度の外の情報しか入ることがないため、生徒は世間の移ろいには鈍感である。ただ、この2人に至っては別であった。彼らは1年前まで文字通り学院の外にいたのだ。ここにいる誰よりも、現在1番に世間の事情に精通していた。そしてその彼らが口にしたのは切り裂き魔に関する噂話だったのだ。
「切り裂き魔......？まぁ、多少なりともその言葉は聞いたことがありましたが随分と詳しいのね」
カタリナはその眉宇をさらに曲げて難しい顔をしている。常に眉間にシワを寄せているが彼女は決して不機嫌と言う訳では無い。生まれつきそういった所があるだけなのだが、それを知らない多くの生徒は彼女に壁を感じてしまうことも多い。真面目で心根の穏やかな彼女の事なのでそのような残虐な人間の行いは到底許せるものでは無いのだろう。
「1年ほど前まで違うハイスクールに通っていたんです。新聞にも多く取り上げられていたから知っていて当然ですよ！」
リュンは立ち上がり、右手の拳をぎゅとにぎり宙を殴りながら早口でまくし立てる。彼女もカタリナ同様にそのよう事件が横行していることに多少なりとも腹を立てているのだろうか。
「まぁ、学院では外の新聞なんて中々入ってこないから知らなくて当然だろうけど」
リュンの言葉に後付けするように言葉を発したのはリュンと同じように1年前に編入をしていたシドである。彼も切り裂き魔の噂についてはリュンと同じ程度に詳しく知っていた。
「これだからイギリス人は......！どんな教育を受ければそんな野蛮な人間が生まれるんだか」
はっと鼻で笑う彼女の言葉を噛み砕くならお里が知れるといったとこらだろうか。エイダのイギリス嫌い今に始まったことではない。こうして、イギリス人が起こした事件はイギリス人が解決しろとでも言いたげに今も自分が協力する姿勢を一切見せずにいる。そもそもここにいる14人の中で彼女が聖痕をもっていたことを知っていた人物などいるのだろうか。神ではなく自身の力に重きを置く彼女のことだ、きっと誰かに聖痕のことを語ったことなど1度もないのだろう。
「大体、なんでこんな夜中にワタシが呼び出されないとならないんだ？まさかこのくだらない切り裂き魔の話をするためだけに呼ばれたわけじゃないよな」
エイダは鋭い視線を生徒会の代表であるキャロルに向ける。彼女が呼び出されたのは生徒会のキャロルとマシュー、リュンに半ば強引にここ談話室に連れてこられたからだ。尚、他の生徒たちも同じように生徒会の生徒に連れられてきたのだろう。だからといって、まさか生徒会嫌いのハロルドまでいるとは思っていなかったのでエイダは多少驚きを隠せずにいた。
視線を向けられたキャロルと言えばそのまま余裕たっぷりの笑顔をエイダに向ける。睨まれたとは全く思ってもいないという顔にエイダはむかっと腹を立てるが彼はそういう性格であるために押しとどまった。その様子を見てカタリナが深いため息をついている。
「こんな暗い時間に呼び出したことは謝るよ。そうだなぁ......どこから話せばいいか」
当のキャロルが呑気にも頭をひねらせているのを見てマシューが苦笑いを零す。彼の頭は常に花畑で平和ぼけしているのだ。決して頭が悪いわけではないが、独特のペースでもって人を混乱させるのも少なくない。
「そう、簡単に言うと幽霊が出るらしいんだ！」
「ゆ、ゆゆゆゆ幽霊！？」
「ゆう、れいですって......！？」

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どん！と効果音がつきそうな勢いでキャロルが幽霊という言葉を出した途端たじろぐ生徒が2人。2人は幽霊という言葉を聞いた途端に冷や汗をダラダラと流し始める。固まって動かなくなったシドを隣にいたリュンが指でつついているが彼は一切動かなくなってしまった。その反対ではカタリナがその眉間に先程よりも酷くシワを寄せている。何やらブツブツと幽霊なんていないと唱えているがその手はカタカタと震えている。氷のような絶対零度で周りをひやりとさせる彼女の弱点はそういったホラーの類である。
一方で、ブレットはキャロルの言葉に目をきらきらと輝かせていた。未知なるものへの飽くなき探求に彼は心を踊らされているのだ。その横でぐーすかと鼻ちょうちんをつくっているラムダの肩をゆさゆさと譲り絶対に俺らで幽霊を捕まえようなどと意気込んでいる。巻き込まれたのが俺じゃなくて良かった、とマシューはホッと胸を撫で下ろした。
「それって、あれですよね！最近学院中で噂されてる怪しいヒトカゲってやつですよね。夜中に物音がしたと思って自室の扉を開けたら遠くで人影が動いてたってみんな噂してたぜ！」
へへんとトニーが得意気に話しているが、実際にこの噂話は新聞サークルによって記事にされたこともあり多くの生徒に広めまっていた。不特定多数の生徒が物音を聞き、人影をみたという証言をしているらしい。
「うーん、それは可笑しいですよ！事件が起こってから夜の外出は厳しく叱られるようになりましたしシスター方も流石に寮までは見回りに来ないはずです」
ドロシーがアホ毛をひょこひょことさせながら人差し指を宙に掲げそうトニーの言葉にそう反対する。その反対の腕はマシューの腕を絡めぎゅっと離さない様子を見ると彼女も幽霊という言葉を聞いて少し恐れを抱いているようだ。
「あぁ、ドロシーの言う通りなんだ。だから、まず生徒の人影ではないと俺たちは考えた。......それこそ幽霊ではないとすると」
マシューは自分の腕にしがみつく妹の頭を落ち着かせようとぽんぽんと頭を撫でながら言う。その表情は強ばっていた。
「そうか、君たちはシスターを殺した犯人がまだこの学院内に潜んでいるかもしれないと考えたんだね。それで僕たちにその人影の正体を掴めってわけか」
微笑みを浮かべながらマルセルが状況をいち早く理解する。彼は普段から成績も良く頭の回転も早い、どこかの彼女よりもよっぽど生徒会役員に抜擢されるべきだが彼のことなので面倒くさいだとかいう適当な理由もって断ったのだろう。
「それで、切り裂き魔の話とは何が関係あるのかしら？」
どうして夜間外出が禁止されているこの時間帯に14人の生徒たちが集められた理由に関しては理解したが、ディオネはリュンが切り裂き魔についての話をしたこととの関与性について頭をひねらせていた。一体、夜間に現れる幽霊、人影の噂と切り裂き魔の噂がどのように関係しているというのだろうか。
「ベック先輩方は、外部の侵入者でこの事件の犯人像として切り裂き魔の犯行という可能性を視野にいれたのではないですか。」
「話を聞く限り、その犯人は快楽犯のようですし自身の犯行を新聞社にも送りつけわざわざ大袈裟に広めているようですね。このロプツォルゴ学院で切り裂き魔の事件が起こったとされればまた犯人の名声を高めることになりますね」
ディオネの謎を解いたのは彼女の片割れであるテティスだ。彼の言葉通り、リュンの話を聞いた生徒会の一行はその線を視野に入れ、人影の正体が切り裂き魔であるという可能性を考えたのである。犯人は連続殺人犯であり、自身の犯行が世間に明るみになることを楽しんでいるような人物であった。シスターの次となる被害者がここ学院で発見される可能性も低くはない。そうとなれば、早急に人影の正体を突き止める必要があると判断したのだ。
「特別に夜に学院内を探索することを司祭様から許可して頂いたからね、全員でその人影の正体を突き止めようと思って！もし一般生徒だとしても、夜間の外出はあまりおすすめ出来ないし注意したいところだからね」
そういうことだ、とキャロルは両手をパチンと鳴らし立ち上がる。
暴風が吹き荒れ雨が窓をノックしている。その中でたった1人だけが黙念として考えをまとめるように部屋の片隅で動かずじっとしていた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「僕は絶対に行かないぞ、誰が好き好んでわざわざ夜の学院を回らないといけないんだ」
バラバラと3つ4つに分かれてそれぞれランプを掲げながら談話室を出ていったあとに、シドはソファから動くことなく固まっていた。その顔には冷や汗が浮かんでおり微かに青白い。
「おい、ワタシも行くなんて一言も言ってないぞ。大体ワタシはオマエらに協力するつもりは鼻から……」
「まぁまぁ！2人ともそんなこと言わないで！俺も夜の学院は少し怖いけどこれも学院の安全のためなんだ」
「いやだから！なんでワタシが生徒会の真似事なんてしなきゃならないんだって話だ！」
どかっとソファに足を広げて座っているエイダに残って動こうとしない2人を説得するようにキャロルが声をかけていた。
そのエイダの横には同じように不服そうな顔をしたハロルドがいる。
「まったく我が同士の言う通りだ、なぜ僕が生徒会なんかの手伝いを？」
ハロルドは鋭い視線をキャロルに向けるがキャロルはまったく表情を帰ることなく苦笑いを浮かべていた。
「まったく君たちのお粗末な推理には失望するよ、なぜ君たちは………」
「…………まぁいい、僕には関係の無いことだ。こんな茶番には付き合っていられない。何か重要なことが分かったのかと思ったがここに来る必要もなかったみたいだ」
ハロルドはソファの肘掛に頬杖をつきふいと窓の外を眺めた。窓には雨が叩き付けられており、かたかたと揺れている。彼は何か考えがあるようだが、それを口にする気はないようで先程からずっと考え込んでいるようだ。いつも饒舌な彼だったが今回ばかりは口を結んでいる。
「他の皆は仲良くやってるんだろうか」
談話室に残ったのは運悪くこの4人であった。まったく動き出そうとしない3人をキャロルが促しているもののあの場にいた誰よりも御しづらい連中が集まっている。皆がまた戻ってくるまでもしかしたらずっとここに往生する羽目になるかもしれないとキャロルはため息をこぼした。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

学院の廊下には額縁が飾られその絵は大抵が宗教画、それか学院に縁ある貴族たちが寄付したものだ。それらをランプで一つ一つ照らすように回っている4人がいた。学院内はとうに消灯されていて灯りは手元のランプのみ、先頭の1人がランプを掲げている。
「夜の学院は雰囲気がありますね」
テティスはランプを手に持ち後ろを振り返りにこりと微笑んだ。その視線の先にはリュン、トニー、続いてカタリナがとぼとぼとゆっくりとした足取りで跡を継いていた。1番後ろのカタリナに至っては周りをやけにきょろきょろと見渡し明らかに挙動不審である。
「もしかしてリナ先輩ってこういうの苦手なんですか？」
「えぇ！？？カタリナさんって苦手なものあるんですか？！」
しんと静かに歩いているカタリナの前にはやけに騒がしいリュンとトニーが大きな声で話している。あまり大声を出すと他の生徒に迷惑がかかるといつもならカタリナが真っ先に口酸っぱく2人に苦言を零している所なのだが、今の彼女が注意をする余裕もなさそうだ。弱々しい声で否定の言葉を述べているのが辛うじて聞こえる。カタリナの代わりにテティスが2人に優しく声の大きさに注意するように言っているが何故か数刻後には煩くしている。テティスはカタリナに気の毒で胸が塞がれるような思いを抱き、2人の注意をなんとか逸らそうと話題を振ることに集中していた。
「でも意外でした！テティス先輩はてっきりディオネ先輩と一緒に回るものだと思ってたんで！」
やけにキラキラとした尊敬の眼差しをテティスに向けトニーは声をかける。テティスは飾られた額縁に対しての感想を述べながら歩いていたのだがトニーはまったく聞いていなかったようだ。トニーのその両手は忙しなく上下にブンブンと音を立て大きく動かされている。
傍から見るとトニーはテティスを随分尊敬しているようだ。一方のテティスもそれを微笑ましく思っているのか柔らかく目を細める。自分の振った話題に全く関心を抱いていない点について目を瞑ったようだ。
「あはは、僕たちもずっと一緒にいるという訳では……。なるべく男手は分散した方が安全ですし」
紳士的な返答を述べるテティスを一層目を輝かせてトニーが仰ぎ見る。ぐっと拳を握りわなわなと震わせ感動している。あまりの大袈裟な表現に当のテティスも苦笑いを浮かべているがトニーはまったくそれに気づく様子もみせずに唇を噛み締めている。
「うおー！さすがテティス先輩だ……！」
「うんうん、トニーもテティスを見習いたまえ」
先程までカタリナにしつこく幽霊が怖いのかと質問攻めにしていたリュンがくるくるとこちらに足を運ぶ。腕を組み何度も頷いているが、そう言うリュンもテティスを見習うべきである。リュンから解放されたカタリナは絡みついていたリュンが離れたことでほっとしている反面不安そうである。相変わらず周囲を十分に警戒しながら後ろを着いて歩いている。
「でも、トニーの言う通りディオネとテティスが一緒にいないと変な感じ？物珍しい光景だね」
ランプを手にしたテティスの周りをくるくると慌ただしく動きながらリュンが値踏みするようにテティスを見つめている。
「二人は仲良しだからさ」
飛び跳ねるようにしてリュンが廊下を進み、こちらを振り向いてそういった。あんまり離れると危ないですよ、とテティスがランプで道をそっと照らす。廊下はずっと先まで続いていて、その先は暗闇に包まれていた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「お二人は仲が良くて羨ましいです！でも、私たちだって仲良しなんですよ！ね、兄さん！」
ドロシーは楽しそうに声を上げながらマシューの横で兎のように飛び跳ねている。腕をマシューの腕に回してくっついているのでマシューはランプを持ちづらそうにしているがその顔は満更でもなさそうだ。
テティスとディオネは双子であり、仲がいいのは学院中の誰もが口を揃えて言うことだ。だが、こちらの兄妹も相当仲がいい。ディオネとテティスのようにいつも一緒にいる訳では無いが、結構な頻度で一緒に歩いている姿が見られる。大抵はドロシーがマシューに愚痴愚痴と何かを叱られていることが多く、マシューが妹想いであることは明らかだ。 
「おい、ドロシーあんまり引っ付くな！危ないだろ、ランプの火があるんだ……」
マシューの手にはオイルランプの火が灯されていた。暖かな光が2人を包んでいる。
マシューは目を細めドロシーからその火を遠ざけた。彼にとって彼女は本当に大切なものなんだろう。どんな危険からも彼女を守りたいのだろう。それはマシューの瞳をみれば直ぐに分かることだった。とても優しい目をしているからだ。そしてその瞳に映る彼女もまた、兄を酷く想っているのだろうことが分かる。
「お前、制服を着崩すなっていってるだろ。ほら、貸して」
そう言うとマシューはそっとランプを手放し、ドロシーの形の崩れたリボンをキュッと結びなおした。

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彼女はそれをなすがままにさも当然のように何も言わずに受け入れている。兄さん、ありがとうと微笑めば気をつけろよとマシューがドロシーの頭を割れ物にでも触るかのように撫でる。その光景をディオネは優しく見守っていた。
「ふふ、本当に仲がいいのね」
ディオネがくすくすと小さく笑う声が廊下に響いた。それに気づくとマシューは頬を染めて変なとこ見せたなと照れくさそうに頭をかいた。そのままマシューはディオネからドロシーに視線を向け、お前ももっとしっかりしろとドロシーに指を向け母のように叱り始める。
「あぁ、うちの兄さんは口うるさいんです……。テティスさんはディオネさんにこんな風に叱ったりしませんもんね。羨ましい」
ドロシーがマシューの口うるさい言葉に耳を塞ぎながら逃げるようにディオネの傍に駆け寄った。毎度毎度似たような内容で叱られているのを見るが、彼女は反省する気はないのだろうか。マシューもさぞ大変だろう。
「ふふ、そうねぇ。私たちあんまり喧嘩もしたことが無いから」
ディオネは頬に手を添えると目を瞑りテティスとのことを瞼に描く。そのどれもが彼女にとっては大切なものだ。彼女は彼のためなら自分の利益を顧みず身を捧げることも厭わないのだろう。はなから彼女にとっては自分の利益が彼の利益に繋がっているのかもしれない。
ディオネがテティスの自慢をつらつらと話し初め、果てにはテティスの幼少期の話でドロシーと盛り上がり始めている。そんな情報が！と喜んでディオネに頷いているドロシーをみてマシューはほっと息をついた。先程まで怖がっていた様子だったのが心配だったのだ。暗がりでメモができないことを悔しがる妹の姿をみてマシューは薄く微笑んだ。彼のいない所でこんな話を聞いてもいいのだろうかとその笑顔は多少ひきつれているが、マシューは2人が怖くないように2人の前を歩き道を照らし歩く。
「……………」
「えぇ、羨ましいのは……」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


「ラムダ！マルセル！幽霊が出たら直ぐに教えて！俺、絶対に幽霊を捕まえたいんだ！」
「ふぅん、それはナゼ？」
「アイツらさ……壁とかすり抜け放題だしコツとか聞きたいなって……」
「へぇ、それで壁をすり抜けられたらどうするつもりなの？」
「うん、食堂とかこっそり入ったら色々便利かなと思ってさー！いや、盗み食いとかするつもりはないんだけど。まったくない。」
「アラ、幽霊は捕まえられないんじゃないカシラ」
ランプを手にしたマルセルの隣にはブレットがそのブレットの横にはラムダが、3人は横並びに廊下を進んでいる。ブレットがどしどしと足を進めるためほか2人は少し早歩きで彼に続いていた。

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ブレットは2人の手をひいて廊下を突き進むので不思議とあまり恐怖を感じることも無いのが救いだ。ラムダがブレットに手を引かれていないほうの手で眠たそうに目を擦り合わせている。
「ラムダ寝るな！一緒に幽霊を捕まえるって約束したよね」
その様子をみてブレットがラムダの肩を強くつかみがしがしと横に縦に振り回すのでラムダは小さな悲鳴を上げている。しかし、この光景を見るのも珍しいことでは無いためマルセルはニコニコとその様子を伺っている。ここにキャロルやマシューがいればブレットを叱って止めに入っていただろうがその人物はいないためブレットがやりたい放題している。
先程から廊下を早足で歩いているため、それなりに歩き回っていたはずだが怪しい人影というものも見当たらない。騒ぐ2人を他所にマルセルは辺りを見回してみるが、変わった点といえばいつもは昼間に見ている景色が夜になると少し不気味に感じる程度だ。今日の収穫は薄いだろうな、とマルセルは廊下の燭台にたまる埃を払い除けながらぼうっと考えている。
「     きゃあああああああ     」
すると突然遠くの方から誰かの甲高い叫び声のようなものが聞こえ3人は少し浮き足立っていた歩みを止めた。
ブレットにどれだけ揺さぶられても動じなかったラムダもその声に目が冴えたようだ。
「ブローリー………今の………」
ぎゅっとブレットの制服の袖を引っ張り、声の聞こえた方にラムダが振り返る。不安そうな顔をしたラムダをよそにブレットだけは目を輝かせて嬉しそうにしている。
「幽霊だ、絶対に幽霊だ！！」
ブレットはランプを手にしていたマルセルからそれを無理やり奪い取り、いきなり走り出したと思えば廊下の先へと1人で行ってしまった。遠くでユラユラと暖かい光が見えるものの、先程よりずっと暗くなった廊下にぽつりとマルセルとラムダは取り残されてしまっていた。
マルセルは突然のブレットの行動にぽかんと口を開けていたがはっとして直ぐに声を出して笑い出した。遠くからは2人とも早くして！とブレットの声が聞こえる。行こう、とマルセルがラムダに声をかけブレットの向かった先へと追いかけた。
少し不気味に見えた廊下も何故かランプの光を灯せばその恐怖も薄れるような気がした。ブレットはランプを振り回しているので早くそれを渡してもらわないと幽霊所では済まされない話になりそうだ。あぁ、そうだいつかもこうやっていた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
一方、その叫び声の持ち主はブレットの想像するところ、渇望するところの幽霊などではなく生徒のものであった。廊下中に響き渡るほどの声を出す失態など到底考えられない人物のものである。
「……い、いま……！あちらで……！」
カタリナだ。
「人影が……！！！！！」
彼女は震える指先で廊下の先を指す。それは共に進んでいたテティスのランプの先、二手に別れた廊下の方だ。廊下の先には階段があり人影がその階段付近に確かに見えたのだとカタリナは腰を抜かしている。リュンはカタリナが腰を抜かしてわなわなと座り込んでしまったところに駆け寄り大丈夫ですかと声をかけていた。さすがの彼女も怖がっているのかその手は微かに震えているようにも見える。
「私のことはいいですから、はやく後をおって……！」
本来の目的は人影の正体を突き止めることであった。彼女はぎゅっときつく瞳を瞑っているがトニーとテティスに人影の跡を追うようにと指示を下す。こんな時でさえ彼女は忠実に学院の安全を優先するのだからその態度にはほかの3人もも感心せざるを得ない。テティスがせめて明るい場所にいて下さいと2人を明かりのある部屋へと案内しランプを手に持ち直ぐにカタリナが人影を見たという方へと急いだ。
「直ぐに戻りますね」
テティスは安心してくださいと、微笑みを浮かべるがその表情は少し強ばっているようにもみえる。トニーもその横で強く頷いているが緊張した面立ちだ。部屋にはカタリナに付いているリュンを残してテティスは扉をそっと優しく閉めた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
暖かいミルクに蜂蜜が注がれそれをくるくると金のスプーンで掻き回す。辺りにはふわりと優しい香りが漂っている。
談話室にはマシューがいれたホットミルクが人数分のカップで用意されていた。
「それで、人影の正体は掴めなかったんだね」
「うぐ、面目ねぇです……」
トニーは背中を小さく丸めるようにしてキャロルの言葉に落胆する。相変わらず敬語が下手くそでいつもならカタリナ辺りに注意を受けているところだがその彼女は先程から消沈しているのか差し出されたホットミルクを大人しく飲んでいる。じっと真っ白なミルクからゆらゆらと波を描くように天井に向かう湯気を見つめている。キャロルがそんなカタリナの横に座っていた。
あの後、廊下の先をテティスとトニーが向かったのだが人影の正体を見つけることはできずに終わった。途中、叫び声をきいて声のする方に向かっている途中だったブレットたちに出くわし合流したものの、その正体を見極めるまでに至らなかった。結局、5人はカタリナとリュンの待つ部屋に向かった後に談話室に向かうことになったのだ。部屋に向かった時には2人の顔色もだいぶマシになっていたが、室内に入った時にはしんと静まり返り時計だけがチクチクと音を出していた。
一方のキャロルたち一同は談話室に立ち往生することになりハロルドは早々に自室に戻ってしまっていた。彼が扉に向かう際、すれ違った時にとてもでは無いが苦しそうに胸を抑えていたのが気がかりだが何か嫌なことでもあったのだろうか。後から声をかけた方がいいかもしれない。ハロルドが出ていくとエイダも直ぐに自室に帰ってしまったため、部屋にはキャロルとシドだけが残り他の生徒が戻るのを待っていたのだ。シドは終始申し訳なさそうな顔をしていたので、本当に怖がっていただけで2人とは違い協力を一切しないつもりはなかったのだろう。ちょうど短い針が2回りするというところでマシューたちが談話室に帰ってきて、そのすぐ後に他の数名も戻ってくることとなったが有益な情報は何も得られないという結果に終わってしまった。
「あぁ、ごめんね！そんなつもりで言ったんじゃないんだ！」
キャロルがわたわたとトニーに謝っているが、自分の不甲斐なさにトニーは眉を八の字にし心の底から申し訳なさそうにしている。その姿をみてさらにキャロルが慌て出すのでキリがない。他の生徒も状況を聞いて、眉をひそめている。カタリナの見間違いということも考えられたが、後から話を聞くと共に居たリュンも廊下の先に走っていく人影がちらりと見えたと話した。何にせよ、夜間に学院の廊下を出ている人物がいるというのは間違いなさそうだ。それが、外部の人間なのか。いずれにしてもこれからより慎重に調べていく必要がありそうだ。
「今日は疲れただろ、片付けはしておくからミルクを飲んだら自室に戻るといい」
マシューはカップを片手に廊下に繋がる扉に手を向けた。いつの間にか雨はやんでいたが霧が立ち込めていて酷く不気味だ。ポツポツと屋根から滴り落ちた雫の音がする。
「最悪だ……」
誰かがぼそりと呟いたがそれも雫の音にかき消されて誰の耳に届くこともなかった。
夏だというのに気温はいくらか冷たい。時期に秋が来るのだろう。
震える体を癒すように二の腕を摩った。




切り裂き魔の噂

共有者　リュン　シド

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		<dc:date>2021-09-29T00:23:59+09:00</dc:date>
		<dc:creator></dc:creator>
		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
	</item>
	<item rdf:about="https://stikumastory.novel.wox.cc/entry21.html">
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		<title>episode2.見つめる先</title>

		<description>episode2.見つめる先



日差しを遮る…</description>
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			<![CDATA[ <span style="font-size:medium;">episode2.見つめる先</span>

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日差しを遮るものはなく直射される日光が肌を突き刺す。容赦なく襲い来る暑さが現在の気温の高さを物語っていた。
現在、授業の全てが終わり、チャイムの出番が終わった頃、メインストリート外れに位置する塔の入口付近で箒を手にし、せっせと働くマシューの姿が学院中のどの部屋からも覗き見ることが出来た。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「本当なのか？見間違いじゃなく？」
「本当にあったんだ！森の奥に建物があるなんて……どうみても怪しすぎるだろう！」
大体お前じゃないんだからそんなもの見間違う筈もないだろう、とシドがスチールグレーの癖っ毛が無造作に乱れたトニーに指を向けて声を荒らげ強硬に主張する。授業終わりに2人は廊下を早足で歩いていた。

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シドが立ち入り禁止の森の奥に何か建物を見つけたと報告するため生徒会室に向かっていたのだ。人に指を指すなよ、とトニーが論点をずらしそろそろ話題が逸れる所で他の部屋より幾分か重厚な生徒会室の扉が目の前に見えた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
生徒会室にはキャロルとマシューが机に向かい何やらペンを持ち紙に向き合っているようだ。誰かひとり欠員が生じているためその穴を埋める作業が大変そうにみえる。察したシドが誰もいない机と椅子をじとりと見つめ、細いため息をゆっくりと吐き出した。
「何か有益な情報でも見つかったのか？」
書類から顔を上げマシューが2人にそう投げかける。事の発端である禁じられた森の奥に存在する建物についてトニーとシドが言葉を転がした。
「その報告なら既に何人かもくれていたんだ。生徒の見間違いということも考えたんだけど、流石に見た生徒の数が多すぎるね」
「調査をする以前から一般生徒からもその話を聞いていたんだが、やはり森の奥に建物があるのは本当みたいだな」
書類仕事と睨み合っていた筈のキャロルとマシューが顔を上げ2人の話に相槌をうつ。思いつく言葉を掻き集めるようにしてキャロルとマシューは口を開いた。
「学院の警備は万全なんだ。学院は湖で囲われているから正門以外の入口はない。でも正門には常に鍵が閉められているし見張り番もいるから許可のない者には扉を開けない。学院内の見回りもシスター方が執り行ってくれている。」
「もしも今回の事件の犯人が外部の人間だったとして、犯人が身を隠しながら侵入するなら立ち入り禁止の森からだと考えていたけど……」
「一度森を調査する必要があるかもしれないね。」
ふむ、とキャロルが持っていたペンをくるくると指の上で回しながら話す。トニーがキャロルの言葉よりそのペン回しに感嘆していた次の瞬間には回していたペンを床に落としていた。
「でも学院には周りを囲うように鉄柵で覆われていますよ……？犯人が森から侵入するとしても彼処の柵にも簡単に侵入できないように鍵がかけられているはずだ」
トニーとは対照にキャロルの話を聞きシドがそう口を挟む。鍵がかけられていては外部から侵入はそう簡単ではない。鉄柵はよじ登ることができないように一般的な男子生徒の身長よりも頭3個分程度は高く設置されている。鍵のかけられた柵の扉を開けないことには侵入は困難だ。
「シドの言う通りだな。森に繋がる柵の鍵は物置にあった筈なんだが、その物置にも鍵がかけられてるんだよな……」
「確か……鍵の管理者はシスターブラウンだ」
マシューが挙げたその名前を聞いてげっと大声を出したのはトニーだ。その額には冷や汗が浮かんでいる。シスターブラウンといえば、教会に古くから務める老巧なシスターであるがその齢は90歳を超えるそうで所謂モノボケが始まってしまっているのだ。シスターは基本教鞭をとり生徒に学びを与える者と教会の雑務を担う者の二つに分けられている。シスターブラウンは前者であり痴呆が酷くなる前は生徒に手厚い指導を行う厳しい教師でもあった。その頃のシスターは園芸に精通しており学院内の庭園の草花を植栽し、柵や石畳などで装飾を施し庭作りに励んでいたらしい。今は教鞭を置き学院の草花を愛で余生を過ごしているが些か庭に対する熱意が激しい。ひとたび生徒が花を散らそうものなら齢90を超える方とは思えないような足取りで追いかけ回し捕まれば延々と説教が行われる始末だ。察するにトニーは何度か彼女からそのようにご指導を受けたことがあるのだろう。
「まさかシスターブラウンに物置の鍵を開けて貰おうなんて思ってないですよね？俺、あの人目つけられてるんだよなぁ……」
起こりうる最低の想像をしトニーは右手で空を押し上げるようにし、唇をゆっくり小さく動かした。そのあからさまに嫌そうな顔をし、青ざめた顔のトニーにその通りだと言える無神経な者は生憎この場にいなかった。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「物置の鍵……ですか？一体どのような要件で彼処の鍵を開けようと言うのですか？言っておきますが生徒に鍵を渡すなどそのような行い到底許されるものではありません。並大抵な理由で渡されるとは思わないように。そもそも本来であれば話を聞くことすらやめているところです。しかし生徒会の生徒である貴女方からの言葉であるからこうしてわけを聞いているのです。ええと、それで、なんの話しでしたか？」
シスターブラウンはメインストリートに設置されたベンチに腰掛けゆっくりとした口調でしかしハッキリと淡々と言葉をつらつらと並べる。彼女の話がとても長いことを知っているトニーはマシューの後ろに身を隠しながら頬には苦笑を浮かべている。
「何だかすんなり鍵を渡してくれそうにないね」
口元に手を添え小さな声でキャロルがそう言った。鍵を渡す云々をよそに全く話が通じていない。シスターブラウンは相当耳も遠いのでコソコソと話す必要などないのだが、キャロルはそれでも小さな声で後ろの3人に声をかけている。シスターブラウンは話を聞いていないどころか目を閉じ半分程度寝かけているのではないかというくらい微動だにしないので心配になる始末だ。
「適当な理由をつけて物置の鍵を貰うしかないな」
物置小屋には庭園を整える際に必要となる鋏やシャベル、使われていない鉢入れなどが収納されているのだがあまり使用されている様子がない。そこまで重要な物が仕舞われているわけでもないためこうしてモノボケの始まっているシスターブラウンのような方でも管理が任されているのだ。
一度物置に保管されている柵の鍵の在処を確認し、できれば森への立ち入りを許可して貰おう。
「シスター、私たちは事件解決のために主席司祭様から調査を命じられているんです。そのために物置の鍵を開けていただきたいのです。」
至極真っ当な理由をマシューが腰を曲げ爽やかな笑みと共にシスターブラウンに丁寧に説明する。彼女は耳が悪いのでマシューは言葉をゆっくり大きな声でなるべく彼女の耳に届きやすいように伝えた。
「そうですか。それで、何の話でしたか？」
とうのシスターブラウンといえば相変らず全く話が通じていない。マシューの後ろに身を隠していたトニーがやっぱりだと首を垂れ落胆している。
「シスターは耳が遠いだけじゃなくてとんでもない痴呆なんです！何言っても話が通じないから延々と平行世界ですよ……」
トニーは遠い目をし在りし日を思い出す。トニーもそのそそかしい性格から不注意で説教を受け弁明の余地もなく延々と彼女から長い説教でも受けたのだろう。
「シスターブラウンは庭の話しか耳を通さないんだ……」
俺が何を言ってもこの人は……。相当搾り取られたのだろうかトニーは意気消沈しぐったりとしている。名前を聞くだけで青ざめる程なのだ。流石のシドも同情し彼の肩を軽く叩いている。
「それじゃあシスター、俺たちが庭仕事を手伝いますよ。そのためには道具が必要なので物置小屋の鍵を開けてくれませんか？」
キャロルが苦肉の策としてシスターブラウンに提案するとまったく反応のなかったシスターがぴくりとする。固く瞑られた目をゆっくりと開け彼女は口を開いた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「そういう経緯で、塔付近のこの芝を掃除することになったんだ」
けろっとした顔で竹製のほうき手に持ちながらをキャロルがそう言う。その顔はこれからピクニックにでも行くのだとはりきっている初等部の生徒のようだ。塔の前には生徒が7人ほど集められていた。
「全くそんなしょうもない理由で私を呼ぼうなんて大迷惑ですよ！忙しかったのに！」
ぶーぶーと講義しているのはリュンだ。その横では芝に腰を下ろしぶーぶーと声に出しているラムダがいる。生憎その様子は半分程度寝ているようにしか見えない。2人は一緒に図書室に居たようだ。

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「忙しいって……どうせ図書室で騒いでいただけだろ」
「ちょっとちょっと！ラムダ先輩の横で本を読む事のどこが忙しくないことになるのかな！え？さては羨ましいの？そうなの？」
「なわけないだろ！僕は図書室は……」
「幽霊がでるから行きたくないんだよな！誰だって幽霊は怖いぜ、シド！」
「な！ちが......！あぁ、ストレスだ。早く掃除を終わらせよう、掃除より面倒な奴らばかりだ……」
大体どうして僕が掃除なんてしなくちゃいけないんだ、箒なんて手にしたことも無いのに。何かとブツブツ文句を言いながらシドは誰よりも早く枯葉を黙々と集め始めた。
「ねぇ、マシュー。これ終わったらここに落ちてる木の実でなんかつくってよ」
ブレットは屈託のない笑顔で木の実を数個あつめ大事そうにマシューに手渡している。無理だろとマシューは心の中で思い眉を顰めているが一方のブレットは絶対的な信頼をマシューに向けている。こちらも噛み合っていない様子だ。
「あ、足りないかな。ちょっと待ってて！今マシューが満足するくらい持ってくる！」
「待てブレット！掃除を……」
木の実をどれだけ集めても調理が出来そうもないがそれをブレットに伝えることが出来ないほど一方的な信頼を向けられ、困惑しているのはマシューの方だった。遂にはキャロル！キャロル！とキャロルまで巻き込んで木の実を探し始めたブレットをみて2人分の箒を両手に持ったマシューは彼に話しかけるのを諦めた。
その手に持つ箒はシスターブラウンから無事に手渡された鍵によって開けた物置のものだ。物置には案の定、庭の整備に使われる用具が1式揃っていた。頻繁に使われるものは物置にはしまわれずに保管されているため物置に仕舞われた用具は少し型の古い旧式の物が多いように見えた。しかしシスターブラウンが定期的に管理しているからか錆などが目立つことはなく比較的綺麗にされていた。
小屋の奥にはもちろん例の鍵がかけられていたが、シスターブラウンは全くと言っていいほど話が通じなかったので森への鍵はこちらで勝手に拝借することにし、後から司祭様に許可を頂いたらこの鍵を使って森への調査に向かうつもりだ。
まずはシスターブラウンに頼まれたここの芝を綺麗にすることから始めなくてはとマシューは1人意気込んだ。周りを見渡しても真剣に掃除をしているのは少数なので人手を集めてすぐに終わすという計画は人選ミスに終わった。
＿＿＿＿＿＿＿
「な、な！どうしてそうなるんだ！」
掃き掃除をせっせと行っていたシドがプルプルと箒を握りしめながら突然大きな声を出した。その声には流石のラムダも目が覚めたようでシドが騒いでいる方に顔を向ける。そのすぐ傍には枯葉が多く散らばっており、トニーが腹ばいになって倒れていた。状況を察するまでもなくシドが集めた枯葉をトニーが不注意で散らかしてしまったのだろう。シスターブラウンも彼を問題視するわけだ。
「わ"ーー！悪い！本当に悪気はなかったんだ！」
へへと笑いながら謝っているトニーにそんな出来事には十分慣れてしまっているシドは怒ることも無く呆れてものも言えない。
「また怪我でもしたんだろう、医務室に行くぞ……」
はぁと大きなため息を零しながらもシドは転んだトニーに手を差し出した。涙ぐましい友情だ、とキャロルは隣で木の実探しに勤しみこちらに目もくれないブレットを片目でちらりと見ながら思った。2人だけだと心配なので私もついて行ってきますとリュンが少し遅れて2人について行く。掃除をサボれてラッキーと背中に書いてあるほどその足取りは軽やかだ。マシューはリュンに待てと声に出かけたがそもそもリュンがいた所で掃除をする素振りも見られないのでそのまま止めるのを諦めた。人選ミスである。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
医務室には在中のシスターが基本的に存在し、怪我をした生徒や具合の悪い生徒の面倒を見てくれている。古城に作られたロプツォルゴ学院の1階に面しており教室3個分程度の広さの部屋にはベッドが2列向かい合って何個も並べ置かれている。その一角には長身の体躯を屈めて初等部の生徒たちに飴を配るマルセルがいた。
「ちゃんと手を洗ってから食べないとダメだからね」
初等部の生徒たちが数人列になって並ぶ中、順番に飴を一人一つ渡している。彼は面倒見がよく、人当たりもいいためこうして好かれやすいのだ。だが、対人関係においては何処か一定の線引きをして寄せ付けないそんな所がある。そんな彼は医療に精通しており、生徒の中で特別に医務室での出入りを許可されこうしてシスター方の手伝いをしているのだ。
シドとトニー、それからリュンの3人はトニーの願いによりシスターではなくわざわざマルセルに怪我の手当をお願いしに来たのだ。トニーは何故か他のシスターからの治療を避け嫌がるので、マルセルがいることを確認すると其方がいいと言ったのだ。医務室にはよくお世話になっている様子だし気の知れた仲なのかもしれない。
「あれ？皆さんお揃いで何しに来たんですか？」
マルセルからお菓子をもらう数人の列最後尾には少し背の丈が飛び出た少女が一人。頭の下で二つに結ばれたブロンドの髪の毛をゆらゆらと揺らしながら首を傾けているのはドロシーだった。
「お！びっくりした、ドロシーこそ何してるんだ？怪我でもしたのか？」
ドジだな、気をつけろよとトニーがドロシーを心配しているがシドがもう僕は突っ込んだりしないと固く目を瞑っている。道中もトニーとリュンの2人に随分振り回されたようで彼は怪我人のトニーよりも辟易していた。
ドロシーもまた、彼女の趣味に没頭した結果怪我をするというのは稀という訳でもなく、トニー同様に医務室に頻繁にお世話になっているのだろうか。
「私のことはどうでもいいのです！」
「それより、今の時間は兄さんと庭掃除をしているはずでは？」
ドロシーはメモを手に取りパラパラとページを捲っている。その反対の手をサッと素早く後ろに回し何かを隠したが。小さな袋紙に包まれた何か、あれはお菓子だろうか。
「でた！ストーカーはやめなさいってば！」
ストーカーじゃないです！とリュンの言葉にドロシーが反論しているが、どこでその話を聞いたのか本当に謎である。シドはその話をきいてストーカーとさして変わらないのではと今まで何度思ったことだろう。彼女のメモにはどれだけの生徒のプライベートな内容が書き込まれているのか、触れてはいけない。
「こら、医務室では静かにしないと！って、また君たちか……。いい加減に軽率な行動は控えないと体がいくつあっても足りないだろ」
呆れた様子でトニーに説教をするマルセルだが、その手は既に手当の準備を整えており手際ガよい。相当トニーは彼にお世話になっているのかもしれない。
どうしてまたこんな怪我をしたのかと聞かれ、トニーがわけを話し終わる頃にはマルセルの手当が終わりトニーの手首にはガーゼが当てられてた。話を聞いたマルセルは治療用の椅子から立ち上がり、彼の背に位置する窓辺に立った。窓を開けるとむんとした空気が部屋に入り暑さを物語る。外を見渡すように窓を覗くと遠くでいそいそと掃除に励む彼らの姿を捉えた。
「兄さーん！って聞こえないですね」
マルセルの横から窓に顔を出しぶんぶんと手を振りマシューの名前を呼ぶドロシーだったが、遠くにいる豆粒サイズのマシューがこちらに気づく気配はない。掃除に集中している様子だ。
マルセルはじっと高くそびえた塔の付近で掃除をする彼ら数人を眺めている。
「…………」
「それでドロシーはどうして？また怪我でもしたの？」
見る限り怪我をした様子もないドロシーが何故医務室に居たのかマルセルがドロシーの顔を覗き込むようにその長身を折り曲げたが、ドロシーは彼と目を合わせ微笑むだけだった。
「暇つぶしです！」
少し間を開けてから彼女が微笑むので、拍子抜けしたように力なくマルセルがころころと笑う。ここは暇つぶしで来るようなとこじゃないってば、とコツンと彼女の頭に拳をのせた。

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塔付近の芝は草が伸びきってしまっていて他の芝より管理が行き届いていない様子だった。だからこそシスターブラウンはキャロルたちにここの芝の整備を頼んだのだ。
先程のシドの大声でラムダも目を覚ましたので無理矢理にでも箒を持たし掃除をやらせ、木の実を集め続けるブレットには木の実より美味しい料理を作ると約束し掃除をさせた。無事に終わった頃には日差しの強さも弱まり夕暮れ時になってしまっていたが、一日で終われただけ充分だ。
枯葉を集め、伸びた芝を整えたおかげが見違えるほどに庭らしくなった光景を見てシスターブラウンもご満悦だ。しかしそのほとんどの労力と功績はマシューによるものである。
芝の整備は無事に終わったものの一点だけ奇妙な点があった。塔付近には石膏のマリア像が置かれている。50センチ程度の台形の石の上には150センチ以上のマリア像があるため2メートル程の大きさで古いものであるため所々剥がれた石膏からはグレーの石が見えている。現在は礼拝堂のある西を向いているが、そのすぐ真下の地面は固くなり芝生が禿げてしまっている。その形を想定するにどうやらこのマリア像は以前は森の方角をむき東を向いていたのではないかと考えられるのだ。
「東は太陽が昇り、光の昇る方向だワ。像は主の救いの光に向かい、神の国を待ち望む姿勢を示すため本来であれば東をむき設置されるはずヨ。きっと誰かが意図的に動かしたノネ」
マリア像に絡んだ苔を払うように手をかざしながらラムダがぺたぺたと像を触る。
「森の方を見つめていた……」
マシューはマリア像と森を交互に見て、やはり森を探索する必要があると手に入れた鍵を握りしめた。
「かつては東を向き太陽を追いかけたこのマリア像も時と共にあれから背を向けられました。これは禁忌とも。深く知るべきではなく、閉じられたものです。注意なさい、主はいつもすぐ側で貴女たちを見ているのですから」
森の奥から目をそらすようにシスターブラウンが瞼を閉じ独り口を開く。その様子は酷く流麗でまるで神に仕える修道女の鏡のような姿であった。
「そういえば、貴方たちの他にも物置の鍵を開けて欲しいと頼む生徒がいました。」
時期に日が暮れ夜が訪れる。カラスの鳴き声が辺りにひびき渡った。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「ねぇ、テティいまカラスが鳴いたわ。そろそろ日が沈みかけてきたみたいね」
ディオネは同じ歩幅で隣を歩く自分よりも背丈の高い片割れを見上げた。2人が歩いているのは学院の中でも中央に位置する廊下だった。直接外の光が届かない廊下には明かりが灯されており明るいがなにぶん外の様子が分からなかった。
ディオネの手には手のひらより少し小さいか大きいかくらいの紙が握られている。その紙には何やら記号が書かれているのが見える。
「この謎解きは何を意味してるのかしら……」
ディオネが手にしていたのはカルペディエムからの挑戦状という名の謎解きだったのだ。謎解きの答えは単純で単語は金星を意味していた。手がかりとなる文には悪魔を意味する言葉があり、金星という言葉から明けの明星の悪魔であるルシファーを表していることが分かった。だが、ディオネはその先の答えが分からずにいたのでテティスに相談していたのだ。
学院の各部屋には名前がつけられている。その名前は天使の名前を冠しており、ミカエルの間、ウリエルの間といったようにそれぞれ振り分けられていた。
「誰かが言っていたんだ、この辺りに天使の名前を冠した名前でなく悪魔の名前をつけられた部屋があるって……」
その名はルシファーの間と名付けられシスターや生徒が立ち入ることの無い学院の中央、迷路のように広がる廊下の先にあるのだとか。そのためここ数日謎解きの答えを見つけるためにテティスとディオネの2人はこうしてルシファーの部屋を探し回っていたのだ。
「でも、どうしてここまで謎解きに夢中に？こういうのが好きだったなんて知らなかった」
「別に好きではないけれど、答えを見つけてあげないときっと悲しむ気がしたから。付き合わせてしまって申し訳ないわテティ」
ディオネは誰が悲しむとは言葉にしなかったがテティスは十中八九彼のことだろうと長髪の彼を思い浮かべる。姉が懇意にしているのは知っていたし、自分もゲームに関して手合わせを願ったこともある。
彼は掴みどころのない人だった。雲を掴むようなぬらりくらりとした人であり、或いは掴ませないような要領の得ない人。自分とは対極に位置した人だ。聖人君子のように姉の幸せを願い神に祈る自分と天国や救済を信じることない彼に彼女は何を思い何が違うと比べて何が足りないと思うのだろう。否、彼女はそんなこと考えていないだろうことは分かっている。わかっているつもりでいるのだ。
「やぁ、レディ！ブラザー！ここにたどり着いたのは君たちが初めてだな、おめでとう祝福するさ」
迷路のように複雑な廊下を一つ曲がった先に、扉に背をつけこちらに体を捻るハロルドがこちらに手を降っていた。この廊下を曲がっても見つけられなかったら今日はもう食堂に向かってご飯を食べようとしていたところだった。ディオネとテティスは顔を見合わせほっと息をつく。
ハロルドは扉から離れカツカツと靴を鳴らしながらこちらに向かって歩いてくると、ディオネの手に握られた紙をひょいと上から奪い取った。ジロジロと自分が用意したであろう謎解きを見つめながらこれを解いてやってきたのか！と感嘆している。結ばれた艶やかな白髪が備え付けられた白熱灯に照らされて輝いていた。
「偶然よ、適当に歩いていたら貴方がいてそれが正解だっただけね」
自分の作った謎解きを眺めてもっと難しくするべきだったか等と思考を捻らしているハロルドを見上げディオネが微笑んだ。ハロルドは紙から顔を上げ彼女を見つめてニヤリと口角を上げ愉快そうに声を出して笑い始める。
「いや、運も君の力だよ。ここを見つけたのが君たちで良かった」
「ここは我がカルペディエムが占拠している部屋のひとつなんだ。ルシファーの間なんて悪名高い名前をつけられてしまっていてね。その名前のせいか他の生徒もシスターも何故か立ち寄らないから、便利に使わせてもらっている」
「以前は誰かが使用していた痕跡はあるが、今は誰も使っていないようだからね。使われていないからってホコリだらけという訳でもないさ掃除をしたからね」
放っておけばペラペラと口を開くのでディオネとテティスはハロルドの言葉にほほ笑みを浮かべながら相槌を打っていた。
「中でお茶でもと思ったんだが、もう夕食時だね。ここは少し複雑な構造だし食堂までエスコートさせて頂こう」
紳士めいた行動でディオネの手の甲に口付け彼は2人を誘導する。

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くすくすとディオネが微笑んでおり、お気に召したようで良かったなんて軽くハロルドが茶化している。
テティスは口元に優しげな薄笑いを浮かべ2人を暖かい眼差しで見つめていた。
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 「捻った時は痛くないんだけどじわじわと痛いんだよなぁ」
ひとりごとを愚痴ながらトニーは寮の自室へと遅い足取りで廊下を進んでいた。その手で転んだ時に捻った手首を摩っている。
「オマエまた怪我したのか、懲りないやつ」

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1人とぼとぼと歩くトニーの後ろからひょこりと現れ声をかけたのはエイダだった。
思いもよらない彼女の登場にトニーは狼狽し声が裏返ってしまう。トニーのその裏返った間抜けな声にエイダが笑い始めるのでトニーは少し赤く染った頬を隠すようにそっぽを向いた。
「なんで怪我なんかしてんだよ？今日は……」
オマエ、釣り堀にいなかっただろと言いかけたがまるで普段から自分がトニーを見ていると言っているようなものだったのでそれを口に出すのは憚られた。
エイダは池付近の木に登り授業を横着することが多い。池付近は高い木が群生しているため木が日を遮り常に薄暗いためあまり生徒たちも近寄らないのだ。未だに異国に馴染もうとしない彼女はそこを心の拠り所のように使っているのかもしれない。
「トニー名探偵が事件を紐解く為に調査してたんだぜ！」
「それで無様に怪我してんのか？さぞ探偵ってのは危険な仕事なんだな」
えっへんと効果音がつくように鼻を高く伸ばしていたトニーだったがエイダの一言にうっと顔を俯かせた。顔を突っ伏した彼はちらりとグリーンの瞳だけ彼女を見上げくせっ毛の髪の隙間からエイダを伺う。彼女はあまりこの事件解決に協力的ではなく、自分の行動も気に食わないのだろう。トニーの言葉を聞いてもあまりいい顔をしない。
「なぁ、エイダ……」
トニーはエイダに手を伸ばしたが彼女は故意にか鈍感なのか気づくことなくトニーの先を歩き気をつけろよとだけ残して、すたすたと歩いていってしまった。自室に向かっているのだろう。
「おやすみ……」
彼女には届いていないかもしれない。でも、きっと頑固でいつも眉宇を引き締めた彼女はそんなこと誰にも言って貰えないし誰にも言わないだろうから聞こえなくてもいいからと声に出した。
本当はもっと言うべき言葉があって、言葉を選べれば良かった。思わず口から出そうになった言葉を今は言わなくて良かったと思う、君を困らせるだけだと思うから。遠くを歩く彼女をその瞳に捉えたまま暫くトニーは動き出せなかった。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「シスターブラウンが物置の鍵を誰かに渡したの……」
談話室のソファに座り足を組みながらカタリナが指を顎に添えている。ふむと考え込んでいるところに、ブレットが彼女の横でマシューから貰ったドライフルーツ入のパウンドケーキをむしゃむしゃと頬張っている。あまりにぼろぼろと口からこぼれているのをカタリナが見て信じられないと驚愕の顔を浮かべケーキを食べる時は素手ではなくフォークを用意してきちんとした姿勢で座って食べなさいと説教が始まったがブレットは意に介さない。
「シスターブラウンは詳しくは覚えていなかった、何せ妙齢だ。でもきっと女子生徒だと言っていたな」
「外部からの侵入の可能性があるとすれば森からだとおっしゃいましたわね、では学院の生徒と外部の者の共犯という可能性も出てきましたわね……」
マシューとカタリナが推論をつらつらと並べ合っているが二人の間には何故か火花がちっている。

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早口でどちらも言い合っており、段々とその声が大きくなっているので周りの生徒がビクビクとし始めた。この2人は何故か馬が合わず犬猿なのだ。
「2人とも凄いね」
うんうんと能天気に頷いているキャロルだけが二人の犬猿な空気の中に口を挟むことができるのだろう。
「森への調査だけど司祭様には話を通しておくよ、でも森は危険だ野犬がでると言うし出来れば行きたくはないね」
キャロルの言葉通り森には野犬がでるのだ。人を襲う可能性もあるため森への立ち入りは禁じられている。いくら調査のためといえど司祭様から許可を貰えるかどうか確証は得られなかった。
ただ、森に何かあることは確かで、それを確かめることが何か事件解決に繋がるといいのだが。
「シスターブラウンの禁忌という言葉が気になりますわ、一体何を知っているというのでしょう」
談話室のソファに身を沈めその肘掛をつつとなぞる様に指をはわせる。彼女は談話室に飾られたロプツォルゴ学院を写し取ったかのような精巧な絵画を見つめながら何かを考えるようにその目を細めた。
禁忌とはさわりのあるものとして忌みはばかられる物事への接近、接触を禁ずること。この教会において何が禁忌とされ何が悪とされ、何が善とされたのか。
シスターは何故殺されたのか。
絡まるばかりの謎を紐解くには何せ情報が足りないのだ。
辺りは暗く、夜が訪れ、月が顔を出した。


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


嫌な予感が背筋を走る。
そろそろだ、誰かが月を眺めていた。 ]]>
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		<dc:date>2021-09-29T00:23:15+09:00</dc:date>
		<dc:creator></dc:creator>
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		<title>episode.1慈しみの罰が下るまで</title>

		<description> episode.1慈しみの罰が下るまで 


も…</description>
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			<![CDATA[ <span style="font-size:large;"> episode.1慈しみの罰が下るまで </span>
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もし僕を裁くことができたなら
僕は一切の弁明をせずに
その罪を認めますので
どうか貴方がその罪状を決めてください。

謎の死、シスター殺害、侵入者の犯行、面白可笑しく先日の事件を記事にしたのは新聞サークルの生徒たちだ。あれだけ騒ぎになっていたのだからどれだけ迅速に対応したとしてもこのように生徒たちの口の端に上がるのは想像ができた。生徒たちの集まるありとあらゆる場所で配られている号外新聞を手にし昨日の今日で仕上げたにしては立派なものだと思わず関心してしまった。
「あぁそれか、新聞サークルは耳が早いよね」
生徒会室に備え付けられた革張りのソファに腰掛け例の号外新聞を読むマシューの後ろから覗き込むようにしてキャロルがひょっこりと顔を出した。
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やはり彼も新聞サークルがこの事件についての新聞を出すのは遅かれ早かれ予想していたようだ。彼らの仕事ぶりの善し悪しは別として、まるで誰かの妹君を思い出させるような情報収集能力の高さだ。その文章には多少の脚色がなされ面白可笑しく書かれている部分もあるがそれもまた彼らの記者としての能力だろう。
「新聞の発行を止めるように今朝のうちに話はしてきたけどこの様子じゃな」
既にほとんどの生徒たちがこの号外新聞を手にしてしまっている事だろう、とマシューは手にしていた号外を机にそっと手放した。
「俺もブレットが持っていた号外新聞をもらったんだ。ブレットは中央広場で男子生徒から貰ったそうだよ」
キャロルは愉快そうにあのブレットが文字を読んでいたという点に感動している。ブレットでさえ手にしているというのだから、本当に多くの生徒は既にこの事件を認知してしまっているだろう。まったくため息をつきたくなる現状だ。そして、何より生徒会長であるキャロルに危機感を感じたそぶりが全く見られないのも問題である。
「まったくこれだからキャロルは。私たちは生徒会なんですよ！もっとアルトルイズムであるべきです」
この事件を早く解決してこの学園に平穏をもたらさなくては！といつにも増して意気込んでいるのは職務放棄常習犯であるリュンだ。
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大方先日の司祭様の招集を受け願いを何でも叶えるという甘言に動かされているだけだろう。常に仕事を放棄し生徒会室を遊び場と思っている後輩にそう諭されたキャロルといえばアルトルイズムという言葉に頭をひねり辞書を開いている始末だ。マシューはこの状況を垣間見てソファに沈み込む自分の身体がずっしりと重たくなるのを感じ天井のシミでも数えたい気持ちに駆られるがこの状況を収められるのは自分しかいないと心の中で言い聞かせることにする。
「事件は思った以上に複雑だ、俺たちだけで解決するには人手も足りない。どうにかあいつらと協力したいけど......」
話が2転3転していくキャロルとリュンの姿を視界の隅にとらえマシューが机に広がる号外新聞を指でトントンとたたいた。
招集を受け学院に存在する聖痕をもつ者だけが集められこの事件を解き明かす権利をもつことが明かさたのはつい先日のことだ。聖痕をもつ者が14名もいたことに驚いたのは自分だけではないだろう。中には見知った顔もいたが、まさか聖痕を持っているとは知らなかった生徒もいたのだ。聖痕は多くの人から畏敬の念をもたれ、それがあることが信徒として大変誉高いことだ。そうであるのにも関わらずひた隠しにするなんて。一体どんな事情があるのかと厳格な信徒であるマシュー は疑問を感じる他ない。とはいえ、人には言いたくないことの一つや二つくらいあるものなのだから仕方がないのだと自身の左手を見つめながら気にかけるのをやめた。
「まずは早急にこの事件を解決しなくちゃな。残りの11人にも協力して事件を解決するよう伝えよう。」
未だに混沌とした空気の中まったく事件解決に役に立たない会話を繰り広げるキャロルとリュンの方を振り向きマシューは言った。



＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿




「そうね。事件を解決するためには私たち全員で協力すべき、とても効率的ですわ」
差し出された紅茶のカップを優雅に摘み生徒会室備え付けのソファに足を組みながら腰掛けるのはカタリナだ。
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「協力は惜しみません、このような残忍な事件を解決するのも私たちの役目ですもの」
「しかしここに集められているのは全員ではないようだけれど」
はたと気づいたかのようにカタリナはじろりとキャロルを睨む。
生徒会室には現在9名の生徒が集まっていた。そのうち6名は生徒会に所属しておらず生徒会によって呼び出された者たちだ。カタリナもそのうちの1人であった。マシューの一言により生徒会は聖痕を持つ者14名が協力して事件を解決するため、まずは状況確認をとその生徒たちを生徒会室に呼び出したのだ。
「いや全員に声はかけたんだけど、ほら皆忙しいみたいだ」
カタリナの鋭い眼光を向けられたキャロルはその瞳から目を逸らし冷や汗をかきながら言い訳を述べる。全員に声をかけたのは本当のことだろう、しかし忙しいというのは言い訳にしてはよく出来ていない。大方、面倒だから来ていないか、よっぽど生徒会に反抗心をもやしているだけだろう。
「人望のなさが伺えますわ」
呆れた、と出された紅茶を飲み干したカタリナはカチャリとカップを皿に置く。
「集まらないのは仕方が無いと思うの、だってみんな個性的だもの」
くすくすと笑いながらキャロルを庇ったのはディオネだ。庇ったというより彼女の場合思ったことをそのまま口に出しただけなのだろう。そう言う彼女もかなりの変わり者なのだ。
「人望がないだなんてそんなことは無いです、生徒のために力を尽くしてくれているのは知っていますから」
くすくすと笑うディオネの横で微笑みを浮かばながら同じ容貌の彼がキャロルを強いては生徒会を庇う。もちろん、彼の場合は彼の姉とは違い彼なりに生徒会へのフォローに言葉を選んでくれたのだろう。その横でテティスはなんて優しいのかと弟想いの姉はそんな弟の言葉に感動している。
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「生徒会の皆さんにはお世話になってるし俺で良かったらなんでもお手伝いします！」
お人好しな性格はどこまでも変わらない。笑顔を浮かべながらそう答えるのはトニーだった。彼は人当たりがいいため頼まれ事も多かったが何分鈍臭いのだ。
「意気込みだけは助かりますけど」
きらきらと目を輝かすトニーを横目にリュンはボソリと数々の彼の行動を思い浮かべ呟く。その横でマシューは意気込みだけなのはお前もだと突っ込たい衝動に駆られたがぐっと堪えた。
「な、シド！」
まったく生徒会の面々からの信用がないことをよそにトニーは彼の半歩後ろに息を殺すようにして存在を消していたシドに声をかける。
「なんで僕までこんなことに協力しないといけないんだ......。勝手にやっててくれ、もし何か危険なことがあったらどうするんだ......。」
その様子を見るに彼はトニーに無理やり連れてこられたのだろう。親友の臆病な様子にトニーは慣れているようで俺がいるから大丈夫だと明るく声をかけているがシドがお前かいるから不安なんだという顔を浮かべているのは明白だ。<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/C30B2D23-5693-4BAD-81F4-1837ECA19B65.png" alt="C30B2D23-5693-4BAD-81F4-1837ECA19B65.png" class="pict" />
「えっへん！心配いりませんよシドさん、こんな事件はドロシーロイドがあっさり解決して見せます！」
そう胸を張るのはドロシー、彼女は学院の問題組織カルペディエムに所属しているためこの場にはこないと思っていたが兄の頼みとあればこちらにも顔を出すのだろうか。彼女の情報網は確かなものであるため力になると言ってくれるならなにより助かる。
「ハロルド先輩とエイダさんはやっぱり来てないみたいですね、ハロルド先輩はこの事件はカルペディエムが解決するんだって意気込んでました」
案の定カルペディエムは独自に事件を解決したいようだ。生徒会を毛嫌いしているのだからこちらと手を組むつもりは無いだろう。だがそんなハロルドの相棒であるドロシーが今回生徒会室への呼び出しに素直に応じているのが不思議だ。しかしこの際どちらが先に解決しようが学院にとっては都合がよいのだから深く考えることはやめた。
「ラムダ先輩にもブレット先輩にも伝えたんですけど」
来てないみたいですねとリュンがキョロキョロと辺りを探す仕草をし、その横でキャロルが苦笑いを浮かべながらやっぱり呼ぶだけじゃなくて迎えに行かないと駄目だったかと諦めている。
約束の時刻からは既に5分は過ぎている。カタリナは真面目に15分以上も前から生徒会室に足を運んでいたので長い間待ちぼうけていた。見かねたマシューが用意した紅茶を飲み時間を潰していたがそろそろ眼光の鋭さにキャロルが根をあげるだろうというころ、生徒会室にドアがノックされる音が響いた。
「お待たせしちゃったかな、ちょっと立て込んでて」
そっと開いたドアからひょこりと顔を出したのはマルセルであった。マルセルは謝罪を口にしながらも大して悪びれもなくその長身でずかずかと生徒会室に入っていく。もちろんカタリナからギロリと目を向けられるがお構い無しでつんと済ましている。遅刻を咎められても意に返さない彼は手にした紙の束を生徒会室に備え付けられた机にばっと並べはじめた。
「例の事件の被害者の検死が済んだんだ。これはその資料だよ」
どうやら彼はこの資料を整理するのに遅れたようだ。


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「シスターの死因は心臓を一刺しされたことによる失血死だ」
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自身の心臓部をトントンと叩きながらマルセルは資料を説明した。
「彼女の胸には銀製のナイフが突き刺さったままだった。いわゆる凶器ってやつだね」
「遺体は礼拝堂の聖書台付近に設置されていた十字架に括り付けられていたんだったか、それなら犯人はシスターを殺害した後に括りつけたんだな」
マシューは顎に手を添えその当時の礼拝堂の様子を想像する。十字架に磔にされた死体だなんて、神への冒涜そのものだと苦虫を噛み潰したようにな顔をうかべる。
「兄さん......」
マシューは厳格な信徒である。このように神を穢すような事件を許せないのだ。ドロシーはそんな兄の手をそっと手袋をはめていない方の手で優しく掴んだ。
「推定される死亡時刻は夜だね、ナイフは彼女の正面から刺されているし抵抗した素振りもない」
マルセルが淡々と事実を明らかに説明していく。
「抵抗をしていない？外部の人間が忍び込んだなんて新聞サークルが騒いでたけど。顔見知りの犯行なら犯人は学院内の人間ってことになるよ」
スケプティックの犯行にまちがいないね、そう言うリュンの言葉にスケプティシズムとは何かまたキャロルがいそいそと辞書を漁り出す。まったく緊張感のないやつである。
「学院内に犯人がいるなんてそんなの恐ろしくて夜も眠れないぞ......」
リュンの言葉に蒼白した顔でシドが怯えている。実際この学院内に犯人がいると考えるのは妥当だが、同じ学院に通う学友を疑うよりも外部の人間の犯行であることを信じたい。
「まだそうと決まったわけじゃないだろ！手がかりを探さなきゃな」
不安そうなシドの横でトニーは気合いに満ちている。その勢いで近くの花瓶を割ってしまわないか心配である。
「ミスターバルフの言う通りですわね、各自でこの事件に関わる手がかりを探しましょう。何か有益な情報が見つかれば共有するのよ」
これ以上の推論は意味をなさないだろうとカタリナは立ち上がりお茶を用意してくれたマシューに礼を言った。ごきげんようと淑女のカーテシーを取りながらカタリナは優雅に生徒会室を立ち去った。それを皮切りに生徒たちが挨拶をのべ生徒会室を後にする。全員ではないが、協力をしてくれる生徒がいた事は助かった。
現れなかった4人だが、うちハロルドとエイダはドロシーによってこの場の状況は自ずと伝わるだろう。ブレットとラムダに至っては事件を解決する気が無さそうだが手がかりを見つける手助けはして貰えると助かる。キャロルが何とか話をつけてくれることを信じるほかない。
「ひとまず方針は固まったな」
飲み干されたティーカップを片付けマシューは一息ついた。






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「医務室のあの男がそんな情報を握っていたのか、やはり君に収集に応じるよう頼んでおいて正解だったな」
ロプツォルゴ学院のある一室はカルペディエムの生徒によって不当に占拠されていた。古城を元に設立された学院の施設は広く、使われていない教室はサークルなどに正式に貸出されるのだがカルペディエムは非公式組織であるためこうして使われていない部屋を勝手に乗っとているわけだ。面倒事に巻き込まれたくない生徒たちはこの事について黙認、また注意を受けたところで聞くような集まりでもないので彼らが不当に占拠している部屋が学院内にちらほらと存在するのだ。そんな部屋に元から備え付けられたのか何処かから持ち出してきたのかやけに立派な1人用ソファに腰かけたハロルドは同じく反対側に位置するやけに立派なソファに腰掛け足をぶらぶらと揺らすドロシーに声をかけた。
ドロシーはにやりといたずらっ子のような顔を浮かべている。
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「ハロルド先輩ってば最近退屈そうでしたしようやくおもしろい展開になってきましたねぇ」
悪巧みをする子供のような笑顔だ。彼女が生徒会からの呼び出しに応じたのは有益な情報を集めてハロルドに共有するためだ。
「人が死んでるってのに不謹慎な奴らめ、勝手にやってくれワタシのことは巻き込むなよ」
フンと鼻を鳴らしここに居るのが不服なのだとエイダが態度で示す。そんな様子にコロコロとハロルドが愉快そうに笑う。何が面白いんだかとエイダが心底嫌そうにハロルドを睨むがまったく気にしていないようだ。
「同志よ、そうむくれてくれるな」
「オマエの同志になったつもりは無い！！」
エイダは声を荒らげハロルドに対抗するがそれすらも彼の笑いを誘うようで余計に笑いだした。彼のそう言った態度が彼女は相当頭にきているようだが、彼はわざとなのか無意識なのか。騒がしくなってきた部屋の様子にドロシーはにこにこと笑みを浮かべながらハロルドの持ってきた高級菓子を摘んだ。




＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿





たとえ昼間でも高い本棚に囲まれているためこの図書室は常に薄暗い。そんな図書室の一角には分厚い本が大量に積まれひとりの人間のためのスペースが出来上がっていた。
「夜は寮に戻るようにした方がいいよ。事件を解決しろとは言わないからせめて自分の部屋に帰ろう、物騒な事件もあったし」
ね、ラミィとそこら中に散らばる本を避けながら本に埋もれるラムダにキャロルが話しかける。
「フゥ、まったくローラは心配症でめんどくさいのだワ。ラミィは自分の部屋を覚えていマセン」
やれやれといった口調でキャロルをあしらっているが部屋を覚えていないとは一体どういう要件なのか呆れたいのはキャロルの方だ。ラムダを説得するのは無理である。
「うげーどうでもいいけど早く食堂行って今日のスペシャルチキン食べに行こうってば」
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ブレットがねぇねぇとキャロルの袖を引っ張り駄々をこねている。右と左の実年齢と行動の釣り合わない彼らにキャロルは大きなため息をついた。犯人探しの前にキャロルは日々彼らの世話をするのに精一杯なのだ。






＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿








間違ってないのだ。
何一つ正しいのはこちらなのだと、彼らはいつ気づくのだろうか。
そして賛同し結局は神の前に跪く。
これが正解なんだから。
だってあの人がそういったんだから。
罰を与えるのはこちらなのだ。 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2021-07-28T18:33:15+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>prologue  あなたの望むもの</title>

		<description>prologue

あなたの望むもの




…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-weight:bold;">prologue

あなたの望むもの</span>

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無知の無知、自分は何でも知っているからと驕り高ぶる人間がいたとして私はそれを幸福だと思う。
無知の知、私は自分が無知であることを自覚し学び続ける道を選んだけれど自分の首を絞めるだけだった。
例えばそう。目の前にあるこの紛れもない死を頭では理解して受け入れてしまっていること
 、とか。

ロプツォルゴ学院は今は使われなくなった城に設立されている。敷地は広いが、幼い頃から学院に身を置く者たちにとっては庭のようなもの。
学年ごとにばらつきはあるが30名ほどが12クラス程あると考えると、生徒の数は多く彼らが一様に没個性的であれば学院での生活は平穏で退屈なものだっただろう。そうでないのもまた学院のいい所ではある。
多少やんちゃな生徒がいるのもご愛嬌だ。
学び舎がある古城から外に出る渡り廊下の先には、大聖堂が隣接されている。
外からの訪問者など滅多にいないため此処を使うのは専ら生徒たちだ。
信仰深い生徒たちは何かしら自分のルーティンに従ってこの大聖堂でお祈りを捧げるので常に一定の人数はこの大聖堂に集まっている。生徒全員が入っても余裕があるほど大きな大聖堂は正面に美しいステインドグラスが飾られ、その真下には我らが主の像が厳かに立っている。遥かに高い天井を見上げるだけで首が痛い、信仰心がないなんてことはないがそこは少し苦手だった。
ふと、生徒の数人がその大聖堂へと流れていくのが目についた。いくら信仰深い生徒が大聖堂へ毎日足を運ぶことがあっても、今日はやけにその人数が多い気がした。放課後といえどいつもの様子とは明らかに違う。それと、何やらガヤガヤと騒がしい気もする。中には、お祈りなんて普段はしないだろうという生徒の顔もちらほらとみえる。何か厄介事でもあるのかと、多少その顔に苦笑を浮かべながらも生徒代表の身であるキャロル・ベックが様子を見に行くことに躊躇することは無かった。
「何ともないといいけど、面倒ごとだけは勘弁だなぁ」


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


渡り廊下を野次馬の如く集まった生徒をかき分けるように、なるべく早足で駆け歩く。
大聖堂には多くの生徒がいるようで、何やら大声で喚いている者もいる様子。この分だと小さないざこざが起こっているという訳でもないらしい。今日は書類を片付けなくてはならないので、なるべく早く生徒会室に戻りたかったのだが。
重厚なドアは既に誰か他の生徒に開けられているようだ。人混みをかき分け、そっと騒ぎの中心に目をやる。
｢会長様、どうかお助けを！｣
｢あぁ、なんて言うことでしょう｣
｢早く誰か医務室へ人を！｣
｢神の怒りが下ったのね｣
大聖堂に足を踏み入れると、ザワザワとした生徒達がキャロルの姿に気づいたようで口々にこの状況について話す。残念なことに相当混乱しているようで、その口から詳細な状況を把握することはできなかった。
｢シスターが...........!!｣

第1発見者は中等部の女子生徒。放課後はいつも1番に大聖堂に足を運ぶそうだ。日頃の習慣に従い当然の如く大聖堂へ向かったが、彼女はあろう事か、祈りを捧げる我らが主のその像の中心、十字架に磔にされるように眠っているシスターの死体を見つけたそう。
その胸の中心には輝く銀製のナイフが刺さっていたらしく、それが死因の原因であろう。
眠っていたというのも、息絶えたはずのその顔はあまりにも穏やかに微笑んでいたのだ。不自然な程に。
女子生徒の悲鳴の声を聞いて、すぐさま近くの生徒が集まったそうだが混乱する中誰かが他のシスターや司祭を呼ぶまでもなく。キャロルがその場にたどり着くまでは、第1発見者の悲鳴を聞き心配で駆けつけた生徒と多少の野次馬精神で集まった生徒がいたという訳だ。彼がその場にたどり着いた時は冷静にその騒ぎを収めたそうで、直ぐに他のシスターや司祭を呼び集め彼女の死体は真っ暗な暗幕に包まれた。シスターの死体については学院内での混乱を招くと予想されるので正式な知らせがあるまで口止めが行われていたが、間違いなくすぐにこの話は広がるだろう。実際、今日には新聞部の生徒によって面白可笑しく記事にされていた。
彼女の死体はその後、シスターと司祭によって弔われたそうだが詳細は伏せられている。大々的な葬儀は行われないようだ。
事の事件の詳細はこのようなものであった。
そう、説明するのは学院長を務める主席司祭様である。初老の枢機卿は白髪を撫で付け人当たりのいい笑顔を浮かべながら説明して下さった。呼び立てられた主席司祭様の部屋は、その地位に見合う見事なつくりで、ペルシャ絨毯が一面に引かれ司祭様が腰掛けた革張りの椅子と机が置かれている。四方を背の高い本棚に囲まているが、広い部屋のつくりになっているので圧迫感は全く感じなかった。
枢機卿が腰掛けている椅子の正面には広間のような空間がありそこには10数名の生徒がそれぞれ司祭様の話に耳を傾けている。
呼ばれたのは自分だけかと思っていたが、そうではないようだ。ぱっと見るに見知った顔もいるが学年や性別、編入時期もちがうので特に共通点も思い浮かばなく、呼ばれた理由も検討がつかない。
｢さて、何故自分たちが呼ばれたか分からないという顔をしているね｣
司祭様はそう言うが、何故この説明を自分たちが受けているのかこの場で分かるものはいるのだろうか。
きょとんとした顔を浮かべている僕たちの顔をみて司祭様は愛おしそうに笑いながら口を開いた。
｢聖痕とは、神の愛し子の証である。その身に聖痕を宿す者は神に特別愛され、魂が潔白な証拠だ。もちろん、皆も知っているだろう。｣
学院において、聖痕がある事は大変目覚しいことだ。古くから聖痕を持つ者は神の愛し子とされ重宝される。現在では信仰心の篤い者の間だけで、そんなものただの傷跡や痣に過ぎないなどと言う不敬な者も存在するが、事教会においてそれは縁起の良いものであった。それがあるだけでも、学院内では生徒や司祭、シスターから神聖視されるのだ。それが嫌で、わざと隠す生徒も中にはいるらしいので誰が聖痕を持っているかなんてのは割と分からないことが多い。
「そう、聖痕とは古くから尊ばれるべき眩いものなのです」
｢私は誇りに思う。この学院にまさか14名もの聖痕者が集う日がくるとは。｣
ニコリと優しく微笑む司祭様を片目にちらりとこの部屋に集められた人数を見れば丁度14名。話の内容からするにここに集められたのは学院に存在するたった14名の聖痕者なのだろう。
自分の他に13名もいたのかとしみじみと感じる、司祭様が言うとおり素晴らしいことなのだろう。14名もいるということを僕も初めて知ったのでそれを内緒にしていた生徒もいたとういうことか。
「そう不安がることは無い、ミスターキングストン。何も恐れることなどない簡単なことだよ。君たちには1つお願いがあるのです。」
心配になるほど顔を青ざめた僕の隣の彼に声をかけ、司祭様は目を細め笑う。
その目は僕達をじっと見つめていた。
「兼ねてより災いごとが起こった時、14名の聖痕者が現れ世を平定するのだとか。また真実に導くとか、そんな言い伝えがある。」
「古い言い伝えだよ、知らない者が殆どだろう」
「君たちにはこの事件の解決を要求したいのです。シスター殺害の犯人を君たちの力で見つけ出して欲しい。」
「あぁ、そんな顔をしないで欲しい。誉高き聖痕者たちよ、どうか我らをお救い下さい。これも何かのお告げだろうと我々司祭らで考えたのです」
「もちろん、褒美も授けよう。タダで協力して欲しいとは言わない。あなた方が事件を解決したならば望みをひとつ、何でも叶えることを約束しましょう」
そうつらつらと話す司祭様の目は終始三日月型に細められじっとこちらを見て逸らすことをしなかった。
それに対して二つ返事、とまでは行かないが面白そうだと嬉々とする者や、不安がる者、そもそも興味がないという者も、枢機卿の最後の言葉には心が動かされたようで多少のやる気を見せている様子。
何れにせよ、生徒会としてこの事件を放っておくわけにもいかなかったので解決するのに協力者が集まるというのは悪い話ではない。その上、褒美まででるというのだからむしろありがたい限りだ。
生徒会室の増築を願おうかな、とふかふかの椅子にかけた足を組み替える。
「話は以上になる、忙しいのに呼び立てて悪かったね。君たちには期待しているよ。事件解決にあたって協力できることはなるべくしよう。その旨も他の者にも伝えておくよ」
さぁ、と席を立つように促され退出を求められる。主席司祭様と話す機会は少ないが彼は割とせっかちだ。その分話も簡潔でなので嫌いじゃない。
腰掛けた椅子から立ち上がり、華美な絨毯を踏みつけドアまでを歩く。
「どうか彼らに神のお導きがあらんことを」
主席司祭様の部屋のドアは礼拝堂と同じ重厚なつくりで、ここから出ようと押した扉は酷く重かった。
 ]]>
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		<dc:date>2021-04-11T21:57:44+09:00</dc:date>
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		<title>episode18  はじまりの終末</title>

		<description>episode18 はじまりの終末




心地…</description>
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			<![CDATA[ <span style="font-size:x-large;">episode18 はじまりの終末</span>


<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/80.jpg" alt="80.jpg" class="pict" />

心地いい目覚めとは、体温の変化によるものだと本に書いてあるのを見たことがある。

今日はじっとりと背中にかいた汗が冷たくて、それが気持ち悪かった。浅く目を閉じていたそれをこじ開けて眩しい日差しに顔を顰める。簡潔にいえば気分は酷く悪い。

あたりはとっくのとうに明るくなっていて、重たい体を起こす。

焦げるよう焼き付いた夢の記憶が何だっかは覚えていないのに、それが原因なんだとわかる。

隣のベッドを見れば、いつもいびきをかいてうるさい彼の姿が見当たらない。今日の朝の朝食当番の顔を思い浮かべてそういうことかと納得する。



また、朝が来た。

眠れない夜はとても長く、長く、暗い。
終わりのない闇が後をつけてきて、前にはもう何も無い。ただ無だけがそこにある。
昨日の夜もそうだ。
昨日も、一昨日も、その前もずっと変わらないけど。

俺にとって夜は光のない、終わりも始まりもないようなトンネルを歩き続けるだけの地獄だった。

彼女が、ランプを持って迎えに来てくれるのをずっと待っているんだ。
うっすらと彼女の顔を思い浮かべて、虚しさだけが胸に遺る。

ほんの少し聖痕にちくりとした痛みと共に、微かに鼻をくすぐるような香りが広がる。
向かいの部屋からは喧しい女の子の声とバタバタとした足音がする。

そっとその扉を開いて、階段下へと続く廊下を1人歩いた。

でも、今は。

1人じゃない。

1人じゃない。誰かが傍にいてくれるんだ。





＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿





何度も何度も繰り返したその声は、また脳内に響く。

これは彼女がソレの死体を発見して叫び声をあげる時から始まる。
いや、始まりはとうに無かったのかもしれないけれど。
確かに覚えのあったのはきっと気の所為だろう。

もう、何も見ることも感じることも無くなればいいと本気で思っていた。
そろそろ疲れたな、でもこれが罰だと神様が笑ってるんだ。

ずっとずっと耳に木霊して離れないのは、罪人を罰するように唸り続ける誰かの声。
耳に劈くように叫ぶ許しを乞う獣のような声だ。

塞いでも塞いでも、耳から記憶から離れることは無い。
心の、脳の、もっと奥のその先に刻まれた僕達の叫びだろう。

チャンスはない。2度目もない。3度目だって。

1度きりだ。

生まれてきたこの瞬間に私たちは、こうなる事を定められていた。

受け入れる他ないのは、分かっている。
そこには終わりも、始まりもない。

何も無いことが恐怖だと感じない、むしろ本当に何もかも無くなることをずっと望んでいた。



今度は、もっと償おう。
もっともっと、謝ろう。

そうした所で赦しを与えられることはないだろうけれど。
そうする事でしか、自我を保つことが出来ないと思った。

熱く燃えるような痛みに襲われたあの日、僕達は罪人になった。
これはそう、そんな私たちの号哭。

叫びは空に消えていく。
だれも声を張り上げても、お空の向こうで笑ったまんまの神様には届かないんだろう。





【探索開始】



ミア・リッピンコットは何処へ行くことができる？何処へも行けないと分かったので死を選んだ。

イザベラ・リッピンコット は何処でもない何処かにいる。その苦しみを胸に抱いて苦しんで死んだ。

アーノルドは何処でもない何処かへ行きたいと願う。そんな所はないと神様に嗤われるので赦しを乞うた。

ペルセイは何処もかしこも覚えていなかった。またはじまりを告げる合図に悲鳴をあげた。

フロイドは何処かを探した。何処にもないので、懺悔を繰り返した。隠した犯人は自分だった。

ガルシェは何処かに身を隠した。もう誰にも見つからないように死を選んだ。

リンダは何処かへ何処へも行かない。今日は懺悔。明日は死。明後日は懺悔。

ローワンは何処か遠くへ。彼女と。皆と。願うことすら許されないと悟るのはまた次回。サヨナラ。

セレーネは諦めた。渇望のない明日を。



【探索終了】













神よ！
お赦しください！
この罪を！


ある日ある朝、僕達のシスターが死んでいた。
礼拝堂のど真ん中、微笑む彼女はマリア様のようで。
どうか安らかにお眠り下さい。
貴方はこの真実に辿り着ける？


答えはそう、輪廻の先にあるよ。
そこへ行こう。


おいでって彼女が手招きしているから。
手を繋いでそちらへ行ったらいい。


そこに出口はない。
入口もないから。


ただ、迷子にはならないよう。
その先の世界を、見て。
嗤って。泣いて。苦しんで。絶望して。


それでまた、死を選んでみせて。


何度も何度もやり直して見せて！

ここにハッピーエンドはないけど、
バッドエンドも用意してないの。

それが罪。
それが償い。
本当の過ち。

繰り返す時の世界で永遠に覚めることの無い幸福な夢をあげる。
その顔はきっと神様を喜ばせるから。




彼女の名前を呼んで。




「シスター！」






<a href="https://twitter.com/if_v90/status/1310209616089808897?s=20">何処でもない何処か。[クリック]
</a>






「おい、こっちだ」

「見てみろよ……酷いもんだぜ」

馬の蹄がぱからぱからと気持ちいい音を立てる。今では少々古い馬車が道の悪いことに悲鳴をあげてがらがらと音がしていた。男の声が響く。誰も知らない、2人組の男。格好をみるに、村人だろうか。

「此処にこんな教会があったのか？俺ははじめて知ったね」
「驚くべきなのはその奥だよ」


やめて。入ってこないで。
僕達の思い出を踏み荒らさないで。


木々が揺れる。その光景はひどく不気味だ。


「恐ろしいものだよ、未だにこんなものがあるなんて……」


礼拝堂の扉を開ける。


そこにあったのは異常なほどの異臭を放つ9人の子供たちの腐りかけた死体。何度も何度も傷ついたかのように、その身体は人それぞれではあるが多くの傷がある。すべて許しを乞うかのようにその指を中心に絡めて安らかに微笑みながら死んでいるのだ。


あまりの恐怖にもう1人の男がひっと声をあげて逃げ去っていく。それを追いかけるように逃げ腰の男がまた1人走っていく。


瞬く間に、その教会の話は拡がっていた。


街に蔓延る噂話。黒いベールの女が、悪い子供を森の奥の教会に攫っていくのよ。


そんな噂話を思い出した。

何処にだってあるようなそんな噂話。
子供に言うことをきかすための、そんな言い文句。

恐いなら確かめればいい。気になるなら迎えに行くよ。



どこかで女の声がする。


焼けるように体の痣が痛む。

ノックがするんだ。地獄への招待が。

end……





スティグマ 【stigma】
個人に非常な不名誉や屈辱を引き起こすもの。 他者や社会集団によって個人に押し付けられた負の表象・烙印。

8つの贖罪を象徴する悪魔たちの血を色濃く継ぎし者達。
彼らは何処にだって現れる。何度も。


next→coming soon

「罪人は永久に」
「消えない罪を此処に」
STIGMA:II

来春企画始動開始予定 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2020-11-19T21:08:47+09:00</dc:date>
		<dc:creator></dc:creator>
		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
	</item>
	<item rdf:about="https://stikumastory.novel.wox.cc/entry17.html">
		<link>https://stikumastory.novel.wox.cc/entry17.html</link>
		
				
		<title>episode17 レムからサヨナラ</title>

		<description>episode17 レムからサヨナラ


目の前…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-size:x-large;">episode17 レムからサヨナラ</span>
<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/74.jpg" alt="74.jpg" class="pict" />

目の前に倒れる彼を見つめる自分がいる。
俺は何処から間違えていたんだろう。


手についたのは真っ赤な真っ赤なイチゴジャム？


違う。これは、血だった。
真っ赤な血だ。
覚束無い足取りであの場所へ向かう。

もしかしたら、もしかしたらいつもみたいに微笑んだ笑顔を浮かべるあの人がいるかもしれない。

そう思って進んだ。

後ろを振り返ることはしなかった。
彼の様子が可笑しいことはわかっていたし、あそこでそうしなければ俺は死んでいた。彼の目がそれを物語っていたんだ。だから俺は悪くない。

生きるためだ。何をしたっていい。
だから俺は悪くない。

俺は何も信じない。罪人だなんて聞いて呆れる。みんな頭が狂っているだけだろ、どうしてそんな御伽噺信じて死ななきゃならないんだ。

巫山戯てるだろう、はやく会いたい。

今すぐその暖かい手で包み込んで嫌なことなんて何も無いよって言って欲しかった。

ずっと彼女は俺を守ってくれたんだ。

嫌なことから目を逸らしたっていいって教えてくれた。眠れない夜には、手を握ってくれた。俺の髪を撫でてキスをしておやすみなさいって言って。

また、笑ってよ。シスター。

そっと血にまみれたベトベトの手で彼女の部屋の前、ドアノブを掴み立ち止まる。



後ろを振り返った。




気づけば変な匂いがする、油のような何か。気付かないふりをした。何も知らないフリをしてそっとそのドアを開けて中に入る

誰のものかもわからない血がぽたぽたと彼女の部屋のフローリングにシミを作り出していく。たしかに自分のものでないことだけは確かだったようだ。

やはり、誰もいないその部屋の様子に何処かほっとする自分がいた。本当に彼女がそこに居たらどんな風な表情を見せたんだろう。それを想像するのが怖かった。

いたむ心臓を抑えて、震える足を止めるように彼女の真っ白なシーツが貼られたベッドへと倒れ込んだ。


ぼふんっと心地いい音がする。


彼女の匂いと、暖かな日差しに照らされた布団の香り。このまま、二度と夜が来ないように眠ってしまいたい。




真っ白なシーツに滑稽なイチゴジャム。

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/75.jpg" alt="75.jpg" class="pict" />







目を瞑る。






思い浮かんだのは、みんなのこと。





馬鹿馬鹿しい。
罪人だなんて嘘に踊らされてあんなふうに最後を迎えるなんて。俺は絶対に信じない。俺は可哀想なんかじゃない。
俺は、幸せになるんだ。
此処で、教会で、シスターと、みんなと……。


「…………」


「……俺以外、誰もいないじゃないかｯ‼︎‼︎」


枕に話しかける。返事はない。誰も返事をしてくれない。

それもそうだろう。誰もいないんだから。
静かな教会で轟轟と何かが燃えていくのだけが聞こえる。

気付かないふりをした。

アイツの仕業だと何となく察しが付いたけど、そう思いたくなかったんだ。どうして、諦めた。生きていくことを選ばなかった。

みんな俺を置いていく、死ぬのが怖い俺だけがずっとそこに取り残されて異端者のように扱われる。

そんなのおかしいだろう。

おかしいって何度も嘆いても誰も助けてくれやしなかった。

その答えは既に、明るみになっていて、後は信じて胸を預けて明日にさよならするだけ。
それを出来ないものだけが残されて、それを選べたものだけがまた明日を迎えられる。

目からこぼれ落ちたそれが哀しみからか、悔しさからか、やっと死を迎えられる喜びからか分からなかった。なにもかも分からないままだった。

ただ、死ぬのは怖い。
やっぱり、死にたくないんだ。
守ってよ、シスター。


そう思っても無駄なことを知っているのに願わずにはいられない自分が滑稽で嫌いだった。

いっそ嫌いになれたら良かった。
みんなのことも、シスターのことも。

でも、どうしたって俺たちは互いの傷を舐め合うだけの存在だったんだ。
心の拠り所をいつだって探して依存するようだった。

それでも、未来は輝いているものだと思っていたけど。
罪とは重いものでそれだけで自分たちに鎖をするようなものだった。

この先煙がこの部屋に充満して、眠ったままの俺は死んでいくだろう。


今、今ならまだ間に合うかもしれない。今から逃げれば助かるかもしれない。きっとまだ、火の手はそこまで上がっていない。命だけは助かるかもしれない。



逃げよう。


何処か遠くへ。


一人でも。


独りぼっちで何処へ？


そう思って、体を起こそうとした。



独りぼっち



誰も、手を差し伸べてくれることはない。
朝は一人で迎えて、朝食は一人で。
そんな朝を平気で過ごせる？

どうやったって、何もする気にはならなかった。

この先に待ち受ける未来にみんなが居ないから。ひとりぼっちだから。
寂しさを紛らわすように1人、自分を抱きしめるようにして固く目を閉じた。

「シスター……」
どこに行ってしまったんだろう。いつの日か居なくなっていた彼女のことを思い浮かべる。ずっと、ずっと居ない。彼女がいない。どこに行ったかは分かっていたけど、知らないふりをしてた。


サヨナラくらい、言わせてほしい。


挨拶は嫌いだったのに最後の最後でこんなことを思う事になるなんて想像もしなかった。
全て想像の仕様のない現実だった。でも、いつかくる未来だと過去から分かるそんな未来だった。

重たい足を引き摺って。重たい瞼を閉じて。
俺は今から眠るんだ。

明日が来ないってのは、暖かい陽射しの中で包まれているように安心できた。その反面、寝転ぶ背中だけは酷く冷えている。

もう明日に怯える必要がないとほくそ笑んだまま、疲れたからだを彼女のベッドに沈めていく。




羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹。




100匹を超えてもまだ寝れないなら、また1からやり直せばいい。


何度目かの99匹を超えた時、静かに眠りにつく。



怖いことは何も無いよ。
この先には何も無いよ。



熱さに身を焦がれた昨日を俺たちは忘れて眠る。


そしてもう何度目が覚めた時、決まって同じことを繰り返す


盲目だった。
最後まで気付かないふりばかり。


もう怖くないと思ったら、今日はよく眠れた。










おやすみ。
<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/76.jpg" alt="76.jpg" class="pict" />



next……



















彼は怠惰。

もう二度と寝過ごすような過ちを犯さないように
<a href="https://pbs.twimg.com/media/Ei2CrWxUMAAPQHZ?format=jpg&name=large"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/77.jpg" alt="77.jpg" class="pict" /></a>
<a href="https://pbs.twimg.com/media/Ei2CrWwVkAEbclS?format=jpg&name=large"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/78.jpg" alt="78.jpg" class="pict" /></a>
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		<dc:date>2020-09-26T23:38:05+09:00</dc:date>
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		<title>episode16 アムネジア気取り</title>

		<description>episode16　アムネジア気取り


「何し…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-size:x-large;">episode16　アムネジア気取り</span>
<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/66.jpg" alt="66.jpg" class="pict" />

「何してるんだよ！！」

アーノルド！アーノルド！待って！

そう叫んだ時には井戸の底でバシャバジャと音を立てていたのが静かに止まる。
きっと視線をむけ睨んだ先には呆然と自身の手を見つめている彼が立っていた。

「どうして!!どうして彼を突き落としたんだよｯｯ!!」

彼の襟首を掴み詰め寄った。その視線がまじ合うことはなく彼はずっとその先を見つめていた。

「僕は違うんだ、君たちと違う。」

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/67.jpg" alt="67.jpg" class="pict" />

彼は狂ったように、噛み締めるようにその言葉を自分に言い聞かせている。
それがとても恐ろしくて思わず、足が怯んだ。



「ペル、セイ……？」

いつも見たいに笑う彼の顔が脳裏に浮かんで、その様子を信じられずに思わず彼の名前を確かめるように口に出した。




「…………」


「ペルセイ？」


「ハハ……」

「ペルセイじゃない！僕はペルセイじゃない！」


フロイドのその言葉を何度も何度も咀嚼して、しまいには君もそんなことを言うんだねとでも言いたげな目で彼がドッと笑いだした。
あまりに理解できないその言動に思わずヒッと声を出してしまう。


その瞬間に彼が力を込めて、フロイドの細く白い首に手を伸ばしギリギリと握った。


「僕は違う。君たちが罪人だとしても！僕は違うんだ！僕は帰るよ、ここが家だなんて僕は思ったことなんてない！ずっとずっと可笑しいと思っていたんだ……違う！なにもかも僕は……」

彼の目は首を絞めているフロイドのことなんて目に入っていない。ずっとその先の何かを見ているようでそれが酷く悲しくてフロイドは苦しみから目頭が熱くなっていくのを感じる。



「……う、そつ……き…！」

みんな嘘吐きだ。一緒にいるなんて簡単に口にして。結局は。

そう言ったフロイドの言葉に彼がハッと目を覚まして、その手を一瞬緩める。すぐにフロイドは身体をよじり彼から離れるようにして尻餅をついた。

倒れ込んだ先にあった小石が手に突き刺さり酷く痛かったけれど、そんなことさえどうでもいい。はやく逃げなくちゃいけないと彼の錯乱した表情をみて本能的に感じ取る。背中に冷や汗が流れるのを感じていた。

すぐさま、上体を起こしもつれる足を速く速くと彼を背にして走った。




「僕は、違うんだ。」

「みんなとはちがう。でも……」



僕を護ってください。

この身につけた名前を、英雄の名前を。

どうか。







＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿






彼の足音と、違う違うと否定する声がした。
どうしても怖くて怖くて。

ただ、息を潜めて食堂に隠れ体を縮こませうずくまっていた。
いつだって、蹲ることしかできない自分が嫌だった。

「僕は違うんだ……。みんなを救わなきゃ、みんな……」

みんなを救わなきゃ。


「救う……だって？」
彼が、そういった言葉に思わず声が漏れた。


今ので彼に自分の居場所がバレたのも分かった、でもどうしてもその言葉が信じられなくて。何故、彼はそんな事を。理解出来ない。




「フロイド……？そこに居るの？」



その声はどうして逃げないのとでも言いたげで酷く悲しい声だった。
そんな風に言うなら、どうしてアーノルドをと疑問が募っていく。思えば、アイツもアイツだってみんな理解が出来なかった。

「死が救いだって……？巫山戯てる。俺は死にたくない。当たり前だろ、どうして死ななくちゃならないんだよ。可笑しいだろ、俺たちが何をしたっていうんだよ！何に怯えて死なないとならない？可笑しい。絶対に間違ってるだろ……！」

なのに、どうして皆は。

死を選べない自分が異端のようだった。そんなはずないだろ。死にたくないのが当たり前だろ。

フロイドはただ1人、訳が分からず生に執着しそれを否定出来ずにいた。


「君は分かっていないんだね、その先を。生きていたところで何があるの？もう君たちにはなにも成し遂げられない、なにも得られない、なにもないのに……」





「ひとりぼっちなんだよ……？」


可哀想だ。



そう彼が口にした途端に頭が沸騰しそうなほど感情が爆発しそうになった。

「可哀想だって！？誰がそんなことを言える！勝手に俺の人生を可哀想な事にするなよ！俺は俺は、ずっと……！俺は可哀想なんかじゃない！」

醜いなんて馬鹿にしないで。
シスターだけは……。
誰もそんなことを言って否定しないからここが……。

俺のやっとできた居場所だったのに。

「あぁ、可哀想に。きっと君は混乱しているだけだよ。」

そんな風に言う彼の目は、酷く辛そうで。
それなのにどうして。



「それなら、君はどうして」




「震えてるんだよ……」

ペルセイの手はふるふると震えて寒そうに凍えていて。
でも、誰もそれを握りしめることはもう出来なくて。


「……ｯ‼︎僕は初めから違うんだ！ちがう！そんなふうに、そんな目で見ないでよ……」

「僕は……」

「ちがう……こんなの……こんなことは……」

ちがう。ちがうよ。ぜんぶちがう。
まちがってるんだ。

声にならないその感情は頬に伝う涙となって流れていく。でも、その哀しみだけは流れていくことはなく、心に振り積もっていくんだ。

それでも、彼の目はまるで大好きな彼女のように慈悲を帯びていて。その目で俺を殺そうとしていた。

それが俺たちに与える救いだと信じて疑わないようにして。ちがうよ。

って言った言葉が自分に言い聞かせているようだった。
違うと否定するその姿はもう、まるで。




「信じない、俺はだれも信じない。だから例え……」


「僕は違う、はやく家に帰らなきゃならないんだ……。でも、皆のことは救わわなきゃ。だって、皆は僕の……」



<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/68.jpg" alt="68.jpg" class="pict" /><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/69.jpg" alt="69.jpg" class="pict" />



言葉にしようのない感情はどこに行くんだろう。
ふと、そんなくだらないことを考えていた。


気づけば目の前で倒れているのは彼だった。


英雄の名を被った彼だった。







<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/70.jpg" alt="70.jpg" class="pict" />





俺は、立ち尽くす。
その場に広がる赤いドレスと。
おとこと。
俺が居る。
俺の手にはあの時のようなナイフが握られている。

死にたくにない。
そう呟いた。





＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿







初めて、この教会を訪れた時に僕は思った。
何かが可笑しい。

家族との思い出に蓋をしたかのように今までの事を語らない子供たち、ずっと彼女に盲目的な信頼をよせていて何かが可笑しかった。

酷く不気味だったんだ。

僕は、僕だけは絶対に間違わない。
僕は彼らとは違う。

明日を願うことより、昨日を忘れないことを選んだ。

シスターやみんなのことは大好きだったけれど、絶対に心を預けることはしない。
本当を晒せば、もう二度と昨日に戻ることが出来ないような気がしたから。

僕に勇気をください。
そう言って僕は星に願った。あの星座を僕はきっと、外の世界でまた見ることになる。そう信じて疑うことは無かった。

本当に怖かったのは、僕が心を開けば開くほど大好きな人の存在が薄れていく気がしたこと。

みんなのことは確かに大好きだったよ。
嘘じゃない、これは嘘じゃなかった。
心からの言葉だったんだ。

真実を知った時に、僕は違うと思った。

皆がそう罪を犯した罪人だっていうなら、僕だけはきっと違うんだと思った。だって、僕は誰にも心を開かなかった。僕はきっと彼らとは違うんだ。


でも、大好きな彼らにしてあげることがあるなら僕は何だってしようと思った。


それなら、彼らを殺すことだって出来た。
それが救いなんだろう？
生きていたって、なにも救われないと彼らも分かっているんだろう？


だから、僕は。

信じられないとんでもない事をしていた。

ふと、自分の腹に刺さる包丁が見えた。

彼と攻防の末に結局、倒れていたのは僕だった。

ドロドロと流れていく血を見ていて僕はそこでやっと気づきました。
僕も皆と同じだったことに。


結局、死を恐れてそれでも心のどこかで死を望んでた。

アーノルドの背中を押した時に彼のことを見て、自分が本当に罪人でないなんて言えるのか怖くなった。

今更どうやって帰るのか、本当はその時から分からなかったのに。今更どうしたらいいのかも分からなくなっていたんだろう。
気分が優れない。

いや、いつも気分が悪いんだ。

ずっともやもやとした答えのない質問をされているみたい。

僕は、僕にもなりきれなければ。英雄にもなりきれない。どうも酷い病熱に侵されているように眠りにつくだけみたいだ。



目を瞑る。

暖かい思い出が瞼に焼き付いている。いつまでも、続けばいいと願ってしまっていた時点で僕はやっぱり罪人だったんだろうな。そう思って、目を瞑る。

もう少しここに居たら答えが出る気がしたけど、そんな時間すら神様はくれないみたい。

罪人の自分にお似合いの最後だった。


next……




















彼は憂鬱

その鬱憤が誰かを傷つけることがないように


<a href="https://pbs.twimg.com/media/Eiw-RNHUcAAMdST?format=jpg&name=large"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/71.jpg" alt="71.jpg" class="pict" /></a>
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		<title>episode15 井の中のドブガエル</title>

		<description>episode15　井の中のドブガエル



顔…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-size:x-large;">episode15　井の中のドブガエル</span>
<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/57.jpg" alt="57.jpg" class="pict" />


顔を洗いにいこう、といって教会の外へ出てその裏庭にある井戸へと向かう。

アーノルドがしきりにフロイドの心配をして、ペルセイは俯いたままでずっと言葉を口にすることは無かった。

裏庭の奥には彼女が眠っているはずで、
でもその事を考えれば言い様のない感情に襲われる気がしてあえてその事には触れずにいた。

井戸に手をかけ、手押しポンプを押す。
いつものように綺麗な水が流れ出てくるのでその水を木で出来たバケツに貯めていく。

段々と辺りが明るくなっていた。

「……2人とも、まずは顔でも洗おう。」


そうしたら、きっとまた。
また笑顔で過ごせる？
当たり前の日々を送れる？

そんなはず無いのはわかっているのに、そんな言葉口には出来ないのに。
どうにかして、当たり前の日常を取り戻せないかと取り繕って笑うアーノルドが言う。

彼は無理にでもその顔に笑顔を貼り付けていて、それが逆に酷く不気味だった。

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/58.jpg" alt="58.jpg" class="pict" />

貼り付けられた笑顔はとうにこの傷ましい残状に目を瞑って空想の世界へ誘われるかのよう。

「君は……」

「どうして、君は平気そうに笑っていられるんだ！人が死んだんだぞ！セレーネも、ガルも、ミアもイザベラも……！それなのに、君は……」

ほらバケツに水が溜まったよと、笑顔を向けるアーノルドにフロイドが居てもいられず彼に怒鳴り散らす。それでもその表情はただただ悲しみに暮れていた。

アーノルドがただ彼らを励まそうとしてそんな素振りをしているのは分かっていた、それでも平気そうに笑う彼が理解できなかった。

そう言えば、彼はまた困ったように笑って言う。

「俺は……。皆といっしょにいられたらそれでいいって思っていて……。」

「だから、みんなと一緒なら……」

「それが……どうして……」

歯切れの悪いその言葉にフロイドが行き場のない拳を強く握りしめた。アーノルドの表情には悲しみの笑顔が浮かんでいた。

双子の手を離したこと。

それは彼にとって勇気ある行動だったのだろう。大切な誰かを、その人のために死へ導いた。それが救いじゃないと否定してあげる事が自分たちには出来なくてそれしか道がないと気づいていた。

だから、誰にも止められなかった。
止める権利すらなかったんだ。

でも、それでもどうしても平然と笑う彼が許せなかった。悲しいと、辛いと一緒に言って

それで何になるのかは分からなかった。それでも、彼はいつも自分の本心を隠して、それでいいって思っているようでそれが凄く悲しかったのだ。




「アーノルドはいつも……！いつもそうだ……」



<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/59.jpg" alt="59.jpg" class="pict" />

縋り付くようにその場に立ち尽くす彼を見下ろして、それでもアーノルドは困ったような笑顔のままだった。そうしないといけないと、誰かに言われたようにその気味の悪い笑顔のままだった。





＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿






先程からすすり泣くような声でフロイドがずっとしゃがみ込んだまま顔をあげない。ペルセイは何か考え事でもしているようで心ここに在らずというようにただ水の底をずっと見つめていた。

「2人とも、もう戻ろう。ローワンとリンダが心配だ。あの傷ははやく手当しないと……」

アーノルドがようやく口を開いたところで、ペルセイがようやくびくりと肩を震わせこちらを向いた。


その目が酷く錯乱していてまるであの時の彼女のようだった。

自分が何一つしてあげられなかったあの子と同じ目。

そう今にでも……。

「ペルセイ……？君もとても、顔色が悪いね。中に戻ろう、俺がホットミルクでもいれるから」

井戸の中をずっと覗き込むようにしていたペルセイの元に近づき、その背中を擦りながらそんな甘い言葉を口にした。

だから、一緒にいよう。
一緒に戻ろう。

残された者だけで何ができるか、なんてことはアーノルドは考えていなかった。ただ突然とぽっかりと開いたこの哀しみと抑えることのできない死への焦燥感をその片目に閉ざしたままにしていた。

微笑んで話しかければ、ペルセイが酷く暗い顔をしていたことにアーノルドが気づくことは無かった。彼はもう、ずっと何かに囚われていてきっと目の前のことから誰よりも目を逸らし続けていたんだろう。

見えないフリ、見ないフリ。それでするすると超えなければならない丘を避けて歩いてここまでやってきてしまっただけの小さな青年だ。

「アーニー、君は……」

ペルセイの八の字を描いた眉が妙に悲しげだった。


「ペルセイ……？」


彼の名前を口にする。音となったその言葉はなんの意味もなさない。
その瞳で、そんな愚かな彼を見つめていた。





「僕は違うんだ」




空気に振動してその言葉がアーノルドの耳によく響いた。







「あ」 


<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/60.jpg" alt="60.jpg" class="pict" />

<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/61.jpg" alt="61.jpg" class="pict" />


一瞬。
反転。

視界がくるりと反転して逆さまの世界が挨拶する。
そんな視界の先で僅かに見えたのは青い空と彼の不安げな瞳だった。

深い井戸の底へと金色の髪を靡かせて彼が落ちていくのを、ゆっくりと見ていた。





＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿








何がいけなかったの。

生まれた時からずっとずっと失敗の連続だった。
なにもかもが上手くいかなかった。失敗だらけの人生で、嫌なことばかりで。でもそれは、全部自分が悪いと言うことに俺は何よりも先に、誰よりも先に気づいていた。
罪人だと、わかった時に妙に納得した自分がいたんだ。

あぁ、だから。
だから、こんなにも報われないのか。

神様なんてどうでも良くて、皆と一緒にいられたらそれでいいなんて願ったあの時のことを酷く後悔した。あの時、神に膝をおって祈るようにしておけば少なくとも誰も失わずに済んでいたかもしれないと考えてしまう。

あの手を離したのは、怖かったから。

手を離さずに2人を連れて外に出ても、自分の醜さは変わらない。自分が罪人であることを背負いながらこれから先、あんな惨めな思いをして生きていくのも。そんな惨めな思いをさせてまで自分が彼女たちを守りきる自信がなかった。

いつだって、臆病者で弱い俺がそこにいた。

彼女たちに背を向けて、階段を登った時。
死ぬのが怖い、死ぬのは嫌だ。

みんなと居たい。ずっと皆と一緒で居たい。
そんなことを神様に願った。

これが悪い悪夢で目が覚めれば、そこにはまたシスターが笑ってたりして。だから何度も瞬きをした。次に目を開けた瞬間がベッドの上で、双子たちと共に目を覚ますかもしれないと思ったから。

それでも、この悪夢が覚めることはなくて現実に引き戻される。



怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


笑ってみせた、そうしたらきっと救われるんじゃないかって。俺はずっと思っていたんだ。
でも、笑うだけで願うだけでただそこにいるだけの俺じゃ結局なにも変えられないままだったと。

落ちていく中、思った。

ペルセイの痛みに歪むあの表情が段々と見えなくなっていく度に、彼との思い出が甦った。あの時、ひとりぼっちだった俺に話しかけてくれたのは君だった。それから、友達になってそれから、君と一緒に居た時間をかけがえのないものにした。でも、最後はあっという間だったみたい。

不思議と彼を憎むとか恨むとかそんな気持ちはなかった。彼がどう考えていたかは分からなかったけど、きっとあの表情を見るに俺が彼に感謝しているなんて思いもよらないだろう。

本当はこうして、あの時楽になっておきたかった。

一緒になって死んでおけば良かったんだと思う自分がいた。

この先生きていても、もう俺にはとうになにもないのに。
初めから何も無い者が求めすぎた結果だったんだろう。

水が冷たい。深い深い底に身体がゴボゴボと沈んでいく。息が出来ない苦しみが肺を圧迫している。酸素を求めて足掻き狂う自分はとてもじゃないけれど滑稽で醜かった。この期に及んでも生に執着する自分が気持ち悪かった。

最後に謝りたいことがあったけれど、言葉にならなかった事も。また後悔が募っていく。

いつからやり直せばなにもかも上手くいくのか、考えたが。初めから間違いなら何をどうした所で何も変わらないのを知る。



水は冷たかった。


あの時の体温を思い出して涙がそれとも井戸の水が分からない何かが頬に当たる。


醜い醜い目を閉じた。



遠くに一筋の光が見えたけれど、手を伸ばしても届かないことを知る。
手を伸ばしても伸ばしても、ずっと向こうにあってそれを掴むことは初めからできなかった。

臆病者を笑ってほしい。
なにも成し遂げられない俺を蹴飛ばして殴って痛めつけて。
笑ってから、抱きしめて欲しい。

もうここには、居たくないな。
息が苦しいんだ。
水の中の方がよっぽど楽だよ。

本当は初めから気づいていたのに知らないふりをして俺はやっぱり弱虫だなぁって笑った。




next……




















彼は暴食

いつだって異端な貴方がこれ以上化け物に近づかないように

<a href="https://pbs.twimg.com/media/Eir084MXYAA60yc?format=jpg&name=medium"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/62.jpg" alt="62.jpg" class="pict" /></a>
<a href="https://pbs.twimg.com/media/Eir084xWsAM4yw9?format=jpg&name=medium"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/63.jpg" alt="63.jpg" class="pict" /></a>
<a href="https://pbs.twimg.com/media/Eir084-WAAEEhcV?format=jpg&name=medium"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/64.jpg" alt="64.jpg" class="pict" /></a>
<a href="https://pbs.twimg.com/media/Eir085cX0AI2_Q5?format=jpg&name=medium"><img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/65.jpg" alt="65.jpg" class="pict" /></a> ]]>
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	<item rdf:about="https://stikumastory.novel.wox.cc/entry14.html">
		<link>https://stikumastory.novel.wox.cc/entry14.html</link>
		
				
		<title>episode14 たとえこの身が朽ち果てようとも</title>

		<description>episode14　たとえこの身が朽ち果てようと…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <span style="font-size:x-large;">episode14　たとえこの身が朽ち果てようとも</span>
<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/51.jpg" alt="51.jpg" class="pict" />

手に握られているのは握りこぶし2つ分程度の大きさの石だった。渡り廊下は中庭に設置されていて、隣にあった丁度いいものを手に取った。

ずっと、彼女にかける言葉が見つからなかった。何かに怯えていて、何かに苦しんでいるのは分かっていた。それは、俺もおなじだったから。

彼女のために何ができるか考えたんだ。幸せになりたいなんて願いならそれは無理だと思ったが、楽になりたいという願いなら叶えてやれる気がした。それが、俺たちに残された道なんだろう。

動かなくなったソレをみても、俺はまだ彼女のことを好きだと思う。顔じゃない、お前の全てが……。

そう言葉にできたなら少しは彼女を救うことができたのか。
でも、言葉にすれば陳腐なものになりそうで怖かった。
言葉にすれば欲しいと願ってしまいそうなのが恐ろしかった。

それなら、いっそ。

「狡い女だな、本当はお前さ……」

頭のいい彼女のことならとっくのとうに気づいていたのかもしれない。いや、変なところで鈍感なのだから全く気づいていなかったかも。

それでも、近くにいられれば心地良さに身を委ねてずっとこのままでいいと思ったのに。罪人である俺たちにはどうもそんな幸せは待っていなかったらしい。

「それもそうか、俺は……」

「俺も……」

死ぬのが怖いのは本当だった。

双子の銃声を聞いた時、身体が咄嗟に動いたのだって本当だ。あれがリンダじゃなくなって俺はそこに居ただろう。あの時のことを思い出せばそこに留まり続けることができなかった。

恐ろしくなって、上を目指して階段を登って行ったが朝日の光を浴びた時に思ったんだ。この先も、ずっとこの光を浴びながら生きていくのは俺には無理なんだと。

冷たくなった彼女の手を握りしめて、縋り付くようにして呟いた。

「ごめん、ごめんな……」

ごめん。ごめん。

彼女に対する謝罪なのか、それとも神に対する懺悔か。どちらにせよ手遅れだった。

肩の痛み、出血量もそこそこで先程から視界が白く弾け始める。自分の限界が近づいているのが分かった。

気にかかるのは、先に行った3人の事だった。

どうか、生きていくなんて選択肢を彼らが選ばないことを願う。その先に待つのはきっと死よりも重い地獄なんだ。全員の死を抱えたまま罪人の自分が生きるなんて許されていいはずが無い。


そんな苦しみの中に生きていくのは何よりも重い罰だ。そんなことは、きっと全員が気づいていて、それでも踏み切れないのは死ぬのが怖いから。その勇気を何処かに探しているんだろう。



「……このままじゃ、嫌か」

ふと、潰れた彼女の顔をみる。

既に三つ編みがほどかれ彼女の波打つ髪が広がっている。そっと彼女の服のポケットからレースのハンカチを取り出してその顔にかけた。


「ベールじゃなくて、ごめんな」


静かに、ゆっくりと、彼女に顔を近づけた。レースのハンカチは真っ白で彼女は花嫁のようで。





<img src="https://wox.cc/user/nobunoko3/o/52.jpg" alt="52.jpg" class="pict" />


どこが鼻かも、口かも分からなくなってしまったそれのおでこに口付けた。

ハンカチ越しなんて、意気地無しって怒るかな。顔を真っ赤にして怒るかも。

零れ出したのはそんな笑みじゃなくて涙だった。もう二度と、その声を聞くことができない事に後悔していたんだ。

今更、欲しいと思った。
初めて、何かが欲しいと思ったんだ。

たとえ、お前がお姫様だって、悪い魔女だって。俺ならお前を攫っていくのに。
それなら、罪人のままだって悪くない。盗賊になってその罪で磔にされても俺は胸をはれるよ。

冷たくなった彼女を前にして、そんな後悔が溢れ出していく。全て無意味なことなのに。
だんだんと、彼女への欲が溢れ出すそんな自分に恐怖を抱いた。
恐ろしかった。アイツらみたいに何もかも奪い去っていくそんな人間になりたくなかった。いや、元々罪人の自分はそれ以下だったのか。滑稽な話だよ。

痛む肩を抑えて、彼女の動かなくなったその身体を礼拝堂の扉に腰掛けさせた。

少し待ってて。

そうして、ひきずる足で意識が朦朧とする中ずるずると教会の倉庫に向かった。






＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿






ジャバジャバと音がする。匂いは酷く臭い。それでも、今は無我夢中で何も気にならなかった。

教会中にまいたのは油だった。

「これでいい」
「これなら」
これなら、何も欲しくない。

欲しいものを無くしてしまえば欲しいものが何も無くなるんだ。

彼女のことも、友達も、シスターも、思い出も。

俺には勿体ないから。


全てに火をつけた。





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爆発的に広がる炎が爛々と燃えている。不思議と恐怖はなかった。このまま、焼けていくのも悪くないだろ。

彼女の隣なら。

冷たい手が握り返してくることはない。それが俺の罪なんだ。欲しがりの俺の罪だ。
熱さに身を焼かれて死んでいくのが、俺の罪だ。

でも、俺はそれでも幸せだったと思うんだ。楽しかったんだ。この日々が。
たとえ仮初でもいいよ。それでも。
俺の中では本当になるんだ。

目を閉じた。

肩が痛む。身体が熱い。
思い出のあの声がする。俺を恨む声が。
その時、彼女の手が俺の手を優しく包み込んだ気がした。





＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿





あの子の、顔がいつも俺を苦しめるんだ。

朝がもっと早く来るのを願っていた。
夜は酷く長い悪夢を見るから。
あの子の声が耳から離れなくて俺はそれが怖くて恐ろしくて。
でも心のどこかでいつかはきっとその声も消えるんだと思ってたんだ。

幸せになれる、って信じてたんだ。

いや、本当はずっと昔から諦めていたのかもしれない。

それに全て答えをだすには、俺はまだまだ世界を知らなかったんだと思う。世界が広いのを知っていたのに世界が広いのを見たことはなかった。

汚い世界しか知らなくて、でも俺の知らない世界がきっとあってそれは輝いていて。それをいつか見ることだってこの先あるんだと思っていたけど。

どうも、人生というのは思うままにならないらしい。

いつだって胸の底にドロドロとした汚い感情が渦巻いていて自分が幸せになろうとするのを足止めしていた。

罪人、その2文字で何をそんなに怯えるんだと笑う人がいるかもしれない。

でも俺には、重い言葉だった。

世界に祝福されない者として生きていくなんて拷問だろ。


そんな中で、見つけたアイツの笑顔だけはあんなにも……。

守ってやりたいものだったのに、結局この手で守れるものは何一つない。ただ、壊さないようにこれ以上。
そのために、壊すんだ。

馬鹿だよな。
そんなのずっと前から分かってるんだよ。


next……























彼は強欲

何かを欲しがるようなその貪欲な心をなくすように



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